第二章
次の日も、気づけば朝から足はサビ組へ向いていた。
セイカさんに少し驚かれたが、いちばん驚いていたのは自分かもしれない。
今日は昨日のような仕事はなく、街のゴミ拾いや市民の細々とした困りごとを中心にこなしていった。
再開発が進んで、昔よりは治安もよくなった。
それでも行政の手が隅々まで行き届いているかといえば、そうでもない。
警察は警察で野生のポケモン絡みで手一杯だ。
だからこそ、サビ組みたいな組織が一部では受け入れられている。
けど単純に人手が足りない。だからこそ借金を返せない人間に奉仕活動をさせて補っている。俺もそのひとりだ。
「ありがとねぇ」
「いえ。俺なんかでも役に立ててよかったです」
今日最後の仕事を終え、依頼人のおばあさんに感謝の言葉をかけられる。
こんなクズでも人の役に立てるんだと思うと悪い気分じゃないが、むず痒い気持ちになってくる。
吸い寄せられるように見上げれば空は鮮やかなオレンジ色。こんなにも綺麗な色をしていたんだな……。
昨日までは空なんか見てもなにも思わなかったのに。なんだか清々しい気持ちにさえなってくる。
依頼完了の報告のため、事務所へと向かう。
行き交う人々の姿。もう何年も見てきたはずの光景なのに、今日は少し違って見えた。
モノクロだった世界に、少しずつ色が戻ってきているような気がした。
「セイカさん……!」
その中に彼女を見つけた。
ジャケットは肩に掛ける形だが、カラスバと同じ服を身につける彼女は強烈なほどの存在感があった。
誰が見てもカラスバの特別な人なのだと分かるようだ。
背筋は真っ直ぐ伸び、ちらちらと向けられる視線を介さず凛と歩く姿は本当に美しい。
どんな人混みの中でも、きっと彼女だけはすぐに見つけられる。
そんな妙な自信さえ湧いてくる。
セイカさんを見つけた体は勝手に小走りになり、真っ直ぐ彼女のもとへ。まるでご主人様を見つけた犬ポケモンのように。
彼女の方も俺に気づき、口元がふわりと上がる。
その微笑みを見るだけで心臓がどくん! と強く脈打つ。
「おつかれさまです。今日も仕事を手伝ってくださり助かりました」
「あの、もしかしてそれを言うために来てくれたんですか……?」
「近くのカフェで息抜きのついでに、ですが。事務所にこもりきりも疲れてしまうので」
「そ、それでも……その、あ、いや……なんでもないです。明日も頑張ります」
「はい。お待ちしています。ゆっくり休んでくださいね」
いま、この瞬間だけは俺にだけセイカさんは微笑んでくれている。
彼女にとっては当たり前の一言なのかもしれない。
それでも「助かる」「次も待っている」と言われると、必要とされている気がした。
俺という存在を彼女に承認されたようで、どうしようもなく嬉しくなる。
彼女は俺がずっと欲していた言葉をくれる。
もともと自己肯定感なんて地の底みたいなものだからこそ、その度に天に昇るくらいに舞い上がってしまう。
この人は俺を見てくれている。もっとこの人の役に立ちたい。褒められたい。認められたい。
頭の中はセイカさんのことばかり。
あの穏やかな声で「助かります」ともっと言ってほしい。
