巧緻で狡知な人形⑤

 星々が輝く澄み渡った夜空の下。辺りをぐるっと木々が囲んでいる開けた場所に蒼髪の女性──ジータが焚き火を前に丸太に座っていた。
 パチパチと音を鳴らすオレンジ色の火を見つめながらジータはほう、と息を吐く。
 ベリアルとともに自分のいた世界の写し鏡のような異世界に来てしまったジータは日々を生きるためにシェロカルテから依頼を受け、今回は魔物討伐のために森へとやってきていた。
 昼近くに出発して討伐対象を探したが森の中に潜む魔物はなかなか見つけられず、ようやく討伐した頃には夜の帳が下りていた。
 森は昼間と夜の顔を持つ。このまま無理やり抜けるのは危険と判断したジータは野宿することを決め、今に至る。
(ベリアル……今頃どうしてるかな)
 元の世界に帰るまで協力関係のベリアルにはジータが依頼をこなしている間、情報集めをお願いしてある。
 なにか収穫があったかな、などと思いながらベリアルのことを考えているとジータの体に異変が訪れる。
 体の芯からじわじわと熱くなり、下腹部に性的な淀みを感じる。
 ──この世界にもルリアはいるが、ジータと生命のリンクを繋いでいるルリアはいない。
 ベリアルは死にかけていたジータとリンクを繋ぎ、その代わりとして今の彼女はベリアルと情交を結ぶ仲になっているのだ。
 この世界に来るまで性を知らぬジータだったが今ではベリアルによって女の快楽を教え込まれ、こうして彼女を想像するだけでスイッチが入ってしまう。
(なんで私、こんな……)
 違うことを考えようとするが考えれば考えるほど体は淫らな熱を帯びてくる。自分で自分を抱きながらぎゅっ、と目をつむってやり過ごそうとするが効果なし。逆にじくじくと秘処が疼く。
 しばらく縮こまるようにして丸太の上に座っていたが、もう駄目だと観念したジータは探るように辺りを見回す。
 焚き火の明かりが周りを照らすも一寸先は闇。魔物や獣、ましてや人の気配など皆無。それを確認し終わったジータは深く息を吐き出すと、幹から下りて地面にお尻をつく。
 冷たさと硬さを感じながらも膝を抱えるように座り、顔を膝に伏せて右手は足の間へ。
 薄手のショートパンツの上から恥部に触れればビクリ、とジータの体が小さく跳ねた。
「っ、う……」
 甘い疼きを感じる場所。カリカリと指先で引っ掻くようにして刺激を送るも、布に守られた秘密の場所はジータの欲する気持ちよさは感じない。
 もどかしい。もっと決定的な快楽が欲しい。すっかりと欲の虜になってしまったジータは息を呑むとショートパンツの中へと手を入れた。
 はあはあと息を荒げながら濡れ始めている下着の真ん中を指で上下にこすればダイレクトな快感が腰から這い上がり、無意識の内に指の動きが早まっていく。
 駄目。足りない。もっと。もっと。
 膨れるばかりの欲望は彼女の指をさらに下へと潜り込ませる。
 熱源はとろりとした甘露を滴らせ、ジータは柔らかな割れ目に指を滑らせる。蜜を掬うように中指を下から上へと動かせば、ぬちゅりとした音と一緒に待ち侘びた快感が走った。
「っ……っ……!」
 恥裂に溜まっている甘い液を小さな尖りに塗り付け、左右に弾けば痺れるような感覚。重くて熱い息をゆっくりと吐きながらヌメつく性愛器官を可愛がってやれば、刹那、誰かの気配を感じた。
 熱せられた思考も一気に冷えるというもの。考えるより前に衣服の中から出された手の先は焚き火の明かりを受け、キラキラと淫猥に輝いている。
「あ〜ぁ。もう少しでキミのイく姿を見れたのに」
「ベリアル……! なんで……」
「キミがワタシを想っているのが伝わってきてねぇ。嬉しいよ。ワタシをオカズに切ない場所を一人で慰めてくれるなんて」
 火の向こう側。長い脚を優雅に組みながら宙に浮かぶのはジータが想像していた人物。
 オレンジ色に揺らめく炎を受けるベリアルは一際“魔”を感じさせた。
 艶めく唇を誘うように舌でなぞり、緩やかな笑みを浮かべるベリアルに対してジータは無性に恥ずかしくなり、その場で小さくなる。ベリアルを想像して自慰をしていた事実はどう足掻いても覆すことはできない。
「おいおい、別にキミを否定することはナニも言ってないだろう? セルフプレジャーは美容や性感帯の開発にもいいんだぜ? むしろ特異点には率先してやってもらいたいね」
 膝に顔をうずめたまま動かないジータを見てベリアルはしょうがないなとため息一つ。ふわりと移動するとジータの真横に腰を下ろす。体もぴったりとくっつけ、彼女たちの間はゼロ距離。
 こちらを誘惑するベリアルの香りが間近に感じられ、ジータの中に忘れかけていた快楽の火が灯る。まだまだ小さいが少しずつ大きくなっていくだろう。
「泣きべそかいて可愛いなァ。そんなにオナバレが恥ずかしかったのか。もう処女でもないのに」
 そんなもの恥ずかしいに決まっている!
 心の中で叫ぶジータの頬をベリアルの両手が包み、強制的に彼女の方を向かされる。顔を上げたことで見えたジータのまなじりには小さな雫が付き、まつ毛を濡らしていた。
 ちゅう、と涙に吸い付かれ、その唇は段々と下がっていってジータの唇へと重ねられる。
 真一文字に引かれ、がっちりとガードされているジータの口を分厚い舌でノックするも、開かれることはない。
「キミとキスしたい気分なんだ。とびきり熱いのをね」
「ん……っ」
 ベリアルの白い指がジータの耳へと伸び、手の甲側で撫でる。絶妙な力加減は誰でもうっとりとしてしまうものでもちろんジータも例外ではない。
 再び熱に支配されかけているジータの唇はついに開き、唾液を纏った生温かい舌が口内へと侵入してくる。
 ぴったりと重なった口。目を閉じているとベリアルの舌の動きがより鮮明に感じられ、硬口蓋を撫でられるとぞわぞわとした感覚が襲い、ジータは体を顫動せんどうさせた。
 思わず腰を引いてしまいそうになるが、いつの間に回っていたのか。ベリアルの腕ががっちりとジータの柳腰を引き寄せているために離れることができない。
 密着することで互いの胸が押し合い、それがまた気持ちいい。その柔らかさにジータの中に“触りたい”という欲求が鎌首をもたげ始めた頃。深く繋がっていた場所が離れると二人の間に透明な架け橋が生まれ、落ちていく。
「最初に比べると随分とイイ顔をするようになったな。特異点」
 口角を上げて満足そうに呟くとベリアルは片方の手をジータの口元へと持っていき、人差し指と中指を唇に触れさせた。
 こうする意味をジータはベリアルに教えられているのでなんの疑問もなく口の中へと含む。
「ン……んっ……」
 両手でベリアルの手を大事な物のように包み、指の根本まで咥えたり、口から出すと舌先でなぞったり。それはベリアルに対する立派なブロウジョブ。
 指を舐めているだけなのに。それだけなのに。ベリアルの嬉しそうな顔を見るとお腹の奥に甘い疼きを感じる。
 最初こそ生命のリンクを繋いでもらっているからベリアルと情を交わしていると思っていたジータだが、今はどうだ。自分から望んでやっていてすっかりと体は調教されてしまった。
「ワタシを前にして考えごと? ダメじゃないか。今、キミの目の前にいる人に集中しないと」
「ふぁ……ぁ……」
 クニクニと指の間に舌を挟まれ、こすられると脳髄まで甘く蕩けてしまう。生理的な涙を浮かばせて熱の籠もった瞳で見つめていると、ベリアルは満足したのか指を引き抜いた。
 指にねっとりと絡みつく甘露。とろりとしたソレが動くのを見つめていると、向かった先はジータの下半身。
 焦らすような緩慢な動きでショートパンツの中、湿った下着の内側へと侵入し、熱い場所に指が軽く触れただけでジータは快感に身を震わせた。
「……?」
 いつまで経ってもベリアルの指は動かない。もどかしい。彼女の指でナカを掻き回されたい。そんな欲求を抱えた瞳でベリアルを見れば、彼女は優雅な笑みを向けながら「自分で動かして」と告げるではないか。
 その意味を理解したジータは目を丸くするものの耐え難い性の衝動には抗えないようで、観念するように目を閉じた。
 自分の手を股間へと伸ばし、ベリアルの手と重ねる。
「んぁ……はぁ……!」
 砂糖のような声で喘ぎながらジータはベリアルの手を操る。指で溝をなぞり、顔を出している快楽の種に蜜を塗りつければガクガクとジータの体が震える。
 キュンキュンと子宮が反応し、どんどん膣液が分泌されて二人の手を濡らす。
 ベリアルの指を自慰の道具のように使っている。その背徳感が悦楽のスパイスとなってジータを緩やかに絶頂へと導いていく。
「あぁっ……」
 ベリアルの長くて細い指を挿入し、いつも彼女が触れてくれる場所を思い出しながら動かせば、じわじわと弱火で炙られているような快感を感じる場所を見つけた。
 そうだ。いつもここをベリアルは触ってくれる。ザラザラとした場所を意識的に責めれば腰が揺れ、ジータの頬も一層紅くなる。
「貸すのは指だけでいい?」
「……舌っ、ベリアル舌だして……!」
 興奮を極めているところに誘惑の声。魔性のオンナの誘いにジータは声を上げ、その欲望は静寂の森に吸い込まれていく。
 ジータの言葉にベリアルはうっそりと目を細めると肉厚な舌を伸ばす。チロチロと誘うように揺れる舌をジータは目で追い、堕ちた顔をしながら吸い付く。
 柔らかな舌の熱と唾液を絡ませることで得られる快楽にジータは満ち足りた表情をしながら、絶頂へと向うために指の動きを激しくさせた。
 必死になって自分を求めてくるジータの姿にベリアルは満足げに目をカーブさせると、最後の仕上げなのか。己では一切動かすことのなかった指を動かし始める。
 ジータが自分で動かしていたときはどこに触れるか分かっていたが、ベリアルが動くとなると話は別。
「ワタシの指はキモチイイかい?」
「あっ、んん……! ふ、っ……! 気持ち、いいよっ……!」
 次に触れる場所も分からず、力加減もまったく違う。ジータはきゅっ、と目を閉じてベリアルにしがみつき、顔は誘惑の谷間へと押し付ける。
 泉の如く蜜を滴らせる肉襞をベリアルの指が撫で、指の腹で引っ掻くように動かされる度にソコが張り詰めていき、下半身から力が抜けていく。
 視界の端に火花が散り、快楽の海に溺れるように思考能力も消えていき、さらにはベリアル自身の香りがジータを天上へと押し上げる。
「ンッ、んんっっ……! アっ、ッ……!」
 真っ白になる世界。精神の解放感に浸りながらビクン! と体が大きく波打つと全身から力が抜け、ジータはベリアルにくったりと体を預けた。
 野外での自慰行為をベリアルに見られ、羞恥心からの涙を流していたのが嘘のように今は負の感情が吹き飛んでいた。
 心身ともにふわふわとして夢見心地のジータの下半身からベリアルは腕を引き抜き、指に絡みつく蜜を舐め取るとジータの顎を持ち上げて口付ける。
 下唇をちゅ、ちゅっ、と食み、舌同士で緩く愛し合う優しめのキスだ。ジータはされるがまま、目を閉じて陶酔している。
「なあ特異点。ワタシのココも触ってくれ……」
「あっ……」
 可愛らしいリップ音を最後に唇は離れ、ベリアルに手を取られると彼女のボトムの下へといざなわれる。
 ベリアルは下着を着けていないので花芯にすぐに触れることなり、そこはしっとりと濡れていた。
「ンッ……、ハァ……キミの痴態を見ていたら濡れちまった。それにキミは優しいから──ワタシのことも気持ちよくしてくれるだろ……?」
 ベリアルはジータの手を操り、くちゅくちゅと粘着質な音を立てながら誘ってくる。目の前で起きていることがあまりにも淫靡で、理性も先ほどの行為で失っているジータは脳内でベリアルがさらに乱れるのを妄想し、体を性熱で熱くさせる。
「帰ろうベリアル。あなたの乱れる姿、もっと見たい……」
 微笑むジータの横顔はゾッとするほど妖艶でベリアルも同じような表情で口角を上げると、同意するようにキスを一つ。
 ──程なくして森には清浄な空気が戻った。ジータたちがいた場所にあった焚き火は消え、寒々とした月夜に細い煙をくゆらせるだけ……。

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