夏の暑さは去り、肌寒さを感じる深夜。夜空には冷えた輝きを放っている月が地上を柔らかく照らしていた。
街から少し離れた場所にある小さな森の拓けた場所。ここでひとり拳や脚を振り、汗を散らしながら戦闘訓練をしている少女がいた。
頭には赤いバンダナを巻き、黒のノースリーブに迷彩柄のズボンとどこかの戦場帰りの兵士のようだ。
彼女の名前はジータ。若いながらも騎空団の団長である。
架空の敵を作り上げ、攻撃を続け、ときには回避行動を取る。そのどれもが全く隙がない。
上段蹴りで風を切ると足を付く際に体を反転させ、腰に差しているナイフを正面に向かって投げた。目の前に広がる木々という名の闇の中に一直線に刃物は吸い込まれる。
「チッ」
が、想像していたようにはいかず、気配からそれを察知したジータは忌々しいとばかりに顔を歪ませ、舌を打った。
「オイオイ、危ないじゃないか特異点」
闇から現れたのは黒衣の男だった。彼はベリアル。アバターを使い、世界を滅ぼそうとした堕天司である。それをジータたちが倒したのは数ヶ月前のことだ。
煽るように両手を広げながら歩み寄る彼の手にはジータが投げたナイフがある。指で挟むように刃部分を持っていた彼はそれをおもむろに投げた。
ジータが投げたナイフが逆再生されたように柄側から戻ってくる。険しい表情をベリアルに向けたままそれを掴み、そのまま構えた。
「いくら魔物のいない森だからって一人でいるのは不用心以外のなにものでもないだろう? 特異点」
「なんの用」
「今宵はいい青姦日和だ。そうは思わないかい?」
「下衆が」
踏み込み、一気にベリアルと距離を詰める。正直あまり彼とは至近距離で戦いたくはないが、ここが魔物の姿がない森だったのと、訓練ということで手持ちの武器は近距離攻撃のナイフしかない。
愛用の銃があればもう少しマシな戦いができるだろうが、それでも堕天司相手に一人はさすがのジータでも厳しい。
なんとか隙を作って艇に帰らなければ。
ナイフを素早く振り、連撃を仕掛けるがベリアルは涼しい顔をして避け続ける。このままだと埒が明かない。ジータはその場でベリアルの腹を蹴るようにして上り、勢いのまま両脚で彼の首を挟むと、そのまま思い切り体を逆回転させた。
投げられ、ベリアルの体は地面に叩きつけられる。一瞬の隙を突いてジータは森の出口へと駆けた。後ろを確認している暇はない。早く、早く艇に行かなければ!
「ちょっとオイタが過ぎるんじゃないか? 特異点」
「っ!? は、離せっ!」
突如首に回された腕。引き剥がそうと両手で腕を掴み、もがくが、びくともしない。
「暴れるなよ……アナゲンネーシス」
「しまっ──」
ぐい、と顎を持ち上げられ、強制的に上を向かされる。
至近距離でベリアルの瞳を見た瞬間、ジータは膝から崩れ落ちた。ぶわりと全身に甘い痺れが走り、呼吸が苦しくなる。思考能力も落ち、欲に従順になってしまいそうだ。
魅了そのものに特化させているのか、今回かけられたものは前回のものより強力だった。
ドクンドクンと心臓がうるさい。全身の血が局部に集中しているようで頭がクラクラする。分かっている。理性を手放し、欲を解放すれば楽になると。しかし、それでいいのか? 相手は世界の敵。いや、敵だからこそ、めちゃくちゃにしてもいいのでは?
顔を伏せ、胸を押さえて苦しむジータをベリアルは愉快そうに見下ろし、正面に移動すると片膝を折って彼女に向かって手を伸ばす。
だが頬に触れる寸前で手首を掴まれ、気づいたときにはベリアルは地面とキスをしていた。首根っこに走る鈍い痛みを感じて地面に叩きつけられたのだと彼は理解する。
現在ベリアルは尻を突き出す形で四つん這いになっている。背後には肩で息をするジータがおり、黒のパンツに包まれた二つの膨らみに触れると思い切り布を裂いた。
乾いた音とともに破れたパンツはベリアルのアナルのみを外気に晒していた。ひんやりとした感覚が穴から伝わり、ベリアルは息を呑む。
こんな状態にして今からなにをするというのだ。それを知りたくてジータのほうに顔を向けようとすれば、半分ほど動かしたところで止まる。
「ぐッ!?」
体を串刺しにされる感覚にベリアルの表情が歪む。彼の孔には肉の棒が穿たれており、その持ち主であるジータは浅く息を吐くと律動を開始した。
自分のことしか考えていない粗暴なピストンを繰り返す彼女の目からは光が消えており、顔も赤いため、極度の興奮状態なのだと分かる。
ろくに慣らしてもいないというのにベリアルの後孔は美味しそうにジータの欲を咥えこみ、白い体液を得ようと締め付けた。
「特異点! キミ、ふたなりだったのかよぉ!?」
本来ならばあるはずのないモノにベリアルは顔を嬉々とさせ、当初の目的とは違うもののソドミーを楽しむことにしたようだ。
「あァ……女性に貫かれるのもイイものだ。しかもその相手が特異点だなんて、っハ、そんなにがっつくなよ。逃げも隠れもしないからさァ」
ベリアルの腰を力いっぱい掴み、抜き挿しを繰り返せばジータの先走りとベリアルの腸液が混ざった粘着質な音が響く。
ぽたぽたとジータの額から汗が流れ、ベリアルの服に落ちる。限界が近いのか一撃いちげきが重いものへと変わり、堕天司を蹂躙する。
「もうイクのか特異点? ホラ、早くオレのナカにくれよキミの精液を!」
ベリアルが煽ればジータは気に触ったのか濁った目で睨みつけ、体内を突き上げるスピードを早めた。お望みなら存分に中出ししてやる──という気持ちのまま腰を打ち付ければ、ジータは呻いた。
今まで男性器とはそれなりの付き合いだが、自慰もまともにしたことがなく、前回出したのはどのくらい前だったか。温かいナカに出すというのはこれが初めてで、支配欲が沸き立つ。
下半身に広がる射精感に体を震わせるとだいぶ思考がクリアになってきた。一度熱を放出したおかげで魅了の力が薄れたようだ。
しかしベリアルのナカに埋まったままの陰茎は欲を吐き出したというのに硬さを失うことはなかった。
「っ……フフフ、特異点のザーメンごちそうさま。それにしても……キミに魅了をかけたのは出力の違いはあれど、これが初めてじゃない。今までよく勃起すらせず耐えていたねぇ」
「仲間の前で……そんなことできるわけがない。でも……今は二人きり。我慢する理由がない」
「っひ!?」
再び始まる抽送にベリアルの喉がつる。ジータは薄い笑みを浮かべながら自分の意志で動き始めた。一度は魅了の力に浮かされてしまったが、今度はそうはいかない。
はっきりとした意識で、ベリアルを犯すことを決めた。中途半端に熱を宿したまま仲間のところに戻るわけにはいかない。さっきだって自分から誘ってきたのだ。ならばその願い、叶えてあげよう。
現にベリアルは女であるジータに獣の体位で組み敷かれ、顔を蕩けさせて喜んでいるではないか。
「あっ、あ、きたっ、きたぁ♡ 特異点のふたなりちんぽ♡」
下品な言葉で喘ぐも、ジータが萎えることはなかった。逆に昂ってしまい、自分でも困惑してしまう。
セックス自体初めてでまともなヤリかたなど知らないジータの腰の動きは典型的な童貞ピストンだが、ベリアルは敵で星晶獣。しかもだいぶ性癖が歪んでいるので彼女が遠慮することはない。
気が遠くなるほどの時間のあいだ、姦淫した相手は数知れず。様々な形の男を咥えこんできたベリアルの肉筒はジータを柔らかな襞で包み込み、白濁をねだる。
「この手はなに?」
「特異点に乱暴されたら勃起しちまった。なぁいいだろ、前を開けても」
地面についていたベリアルの手が動きを見せ、ジータは片方の手首を捻り上げる。なに? と問えば前をくつろげたいと言うではないか。
勃起した欲の塊を解放したい。一応男の部分もあるジータには理解はできるが、共感はしない。
腕に巻いていた布を無言で取り去ると、ベリアルの両手を掴んで背中で組ませ、手首をキツく縛り始めた。
左頬を地面につけ、支えにしているので非常にツラい体勢なのは分かるがその苦痛さえも快感のスパイスになるのだろう。
ジータの手が触れる度にベリアルの体は震え、息づく。
「緊縛プレイか。イイねぇ、マゾヒズムが擽られるよ」
「まったく口の、減らない!」
「ハッ、相手のことなんて考えない乱暴な動きだ! 本当にレイプされているみたいでたまらないな!」
腰を引けば粘膜も引きずられ、それを戻すように思い切り突き刺す。ベリアルの言うとおりの動きだが、ジータはどの口が言うのかと鼻で笑う。
元々ベリアルのほうから仕掛けてきたのだ。この結果は自分で招いたものだし、マゾの部分を満たしてやるのだから逆に感謝してほしいくらいだ。
「はぁっ、はーーッ……♡ っ、あっ♡ ンン、どうした特異点、また出すのか? 少々早漏過ぎやしないかい?」
「うるさいっ……! 別にあなたを気持ちよくさせるために動いているわけじゃない! あなたはただの穴! あなた好みの下品な言葉で言えば肉便器ッ!」
「は……ハハハッ! 可愛い顔して言うねぇ〜! それだけで達してしまいそうだ」
息を荒げながら自分の快楽のために律動を繰り返す。口でなんと言おうが結果的にはベリアルを気持ちよくさせてしまうが、これは仕方のないことなので考えないことにした。
ジータは下半身に集中する。この興奮を欲望というカタチとして堕天司に吐き出し、艇に帰るんだ。
いやらしい、粘った音を互いの繋がった部分から奏でる。射精する前の独特の感覚を感じ、己の限界を悟ると我慢することなく熱い滾りをベリアルに向かって放出した。
震える体。ようやく硬さを失った怒張を引き抜けばジータを咥えこんでいた穴から生暖かい液体が伝う。
ベリアルも達したのか下肢を震わせているが、前はしっかりと閉じられているのでツラいだろう。しかしそこはジータの知るところではない。
仮にこれが相思相愛で愛のこもった行為ならばジータもベリアルを気持ちよくさせようと優しく抱くが、コレには愛など存在しない。あるのは欲望を吐き出すという目的のみ。
ベリアルによって植え付けられた心身の熱を冷やし、普段の自分に戻るためのモノ。
(萎えたのに、気持ちが治まらない……!)
股の間にぶら下がる肉竿は元の大きさに戻っているのに心はまだ堕天司を犯せと訴える。心と体の乖離。やっかいなものだと内心舌打ちをしてどうしたものかと考える。
少し休めばまた勃起するだろう。それまでどうするか。なにもしないままだとベリアルはうるさそうだし、と考えたところでジータは己の脚に巻かれたホルスターが目に入った。
たまたま手に入ったリボルバー式の銃。訓練のときに試し撃ちをしてみようと持ってきていたのを今まで忘れていた。
「ん? 特異点、それは……銃?」
ベリアルを無視してジータは薬莢を落とす。地面に散らばる六つの鈍い金色の中から適当に一つ選び、装填するとベリアルから見えない位置でシリンダーを回した。
「たしか……空の民が生み出した度胸試しだったか。まさかそれを突っ込んでくれるのかい? イイねぇ、ナカをズタズタにされるスリルがたまらない」
「こんなのはただの小休憩中の遊び。ホント、今回は厄介な魅了をかけてくれたわね」
言って、無慈悲に銃身を白く濁った穴に沈めた。押し進めると代わりにジータの吐き出した体液が溢れ、とろりと流れる。
「結局これもあなたを気持ちよくさせてしまう。回復するまであなたの口数を減らすための遊びなのに嫌になる」
「フフフフ……さあ早くトリガーを引いてブッ放してくれよ特異て──ッ、っ♡」
言葉の途中でジータはトリガーを引いた。が、空なので虚しい音がナカから聞こえただけ。
「……なんで締まるの」
「アッ、ヤッバイ、ナカを抉られる想像をしてメスイキしちまった♡」
銃から伝わる僅かな振動。ナカが収縮を繰り返しているのが伝わり、今のでなぜ? と疑問を浮かばせていれば、半分だけジータのほうを向いているベリアルから答え合わせがあった。
つまり、確率で襲ってくる痛みを妄想して射精を伴わない女の絶頂を迎えたということ。彼と初めて戦ったときの言葉をジータは思い出す。
半永久的なオーガズムが得られる──。
ジータはまだ女としての絶頂を知らないので分からないが、ベリアルの顔からして相当気持ちがいいことだけは知った。
白い肌が若干の赤みを帯び、整った顔が恍惚なものに変わっている。並の人間ならばそれだけでおかしくなってしまうだろう。
「さて……次も頼むよ特異点。そうすればキミが勃起するまで黙っててあげるからさぁ♡」
(この男……!)
本当に底が知れない。快楽のためならば痛みさえも厭わない。原初の星晶獣である、という点もあるが狂っている。
重い音とともに引き金を引くも、空。蕩けた顔をする男は淫らな娼婦のよう。
仄暗い背徳感がジータの背中から脳へと這い上がってくる。男を蹂躙して悦楽を得るという偏った性癖はない、ハズ……。
そもそもこうして誰かを抱こうとも思ったことがない。性欲自体、薄かった。
下半身に集まっていく熱。見遣れば再び大きく膨らんでいた。果たして次にこの加虐的な熱を放てば自分の心身は元に戻るのか。
こんなことになるならクリアオールのアビリティを付けておけばよかったと後悔するが遅い。
「あと四発。次がアタリかねぇ?」
「もういい。休憩は終わった」
「そりゃあないぜ特異点。臓物ブチ抜くまでシてくれよ〜萎えるだろ」
「勝手に萎えていれば? 私には関係ない」
次に使うことはもうないであろう銃を抜き、放れば、孤を描きながら地面に落ちた。その代わりに血管の浮き出た楔を穿てば、ベリアルの顔はトロトロに溶けたものへ変わる。
「はァっ……♡ はっ♡ あっ、あ、イイっ、力任せにッ、突き上げてクる♡♡」
(くッ……! どうしてっ、私……! 早く出せばいいのに体がまだベリアルのナカを味わいたいって……!)
揺さぶりながらジータは柳眉を逆立てる。早漏だろうがなんだろうが一刻も早く熱を出せばいいと頭では思うが、体はそうとは思わない。
ベリアルの肉襞はジータの雄汁を搾り取ろうとうねり、先端も内部に吸い付かれている。単調な抜き差しだけでも腰が砕けてしまいそうなほどに具合がいい。
自分の体のはずなのに思いどおりに動かない。その苛立ちを目の前の雄に叩きつけるかの如く、抽送がさらに激しくなった。
「いっ♡♡ ア゛っ♡ 急にっ、どうしたんだとくい──オ゛っ、アぁ゛ッ!? 今まで、とは、ッあ♡ 比べ物に、ひッ、ならないくらいの激しさだ♡♡」
「クソッ! どうして……ッ!」
怒りで頭に血が上って正常な意識が保てない。呼吸も乱れ、本当に獣同士の交尾をしているかのようだ。
決して細くはないベリアルの腰を力いっぱい掴み、抜けるギリギリまで引き一気に打ち付ける。
今までとは違う、内部を破る勢いの反復運動で最奥を刺激され続けるベリアルの表情や声からは余裕が消えた。
「ぎッ♡ オ゛っ、これヤッベ♡ ォお゛♡ あ゛っ、あ、あッ、イぐっ!♡♡ んッ、ア゛っ♡♡」
目尻に溜まった生理的な涙を流し、舌を突き出して白目を剥くベリアルだが、ジータはまだ射精しておらず、内部の収縮を感じながらも串刺しにするのをやめない。
ジータに突かれる度に地面と接しているベリアルの左頬は傷つき、血が滲み始めているが、もちろん彼女からは見えないし、ベリアル自身気づいているかどうか。
「ま゛っ、待て特異点! イッてる゛、イっで、る、がら゛ぁ!」
「うるさい!」
「かはっ!? ォ……ゴッ……!」
頭に巻いていた布を素早くほどき、そのままベリアルの首に通すと思い切りクロスさせる。赤い布は容赦なく白い首を締め付け、気道が狭くなり、呼吸ができない。
開ききったベリアルの口からは唾液がこぼれ落ち、地面に小さな水たまりができる。
ギリッ……ギリッ……! と力を込められればベリアルの意識はトびそうになったが、寸前で力が緩み、反射的に咳き込んでしまう。
「っ……! 首を締められたのにまたイッたね? アブノーマルなプレイもお手の物ってワケ」
「げほっ! ゲホッ! オイオイ殺す気かぁ?」
「この程度で殺せたら苦労はしない」
吐き捨て、最奥への刺突を繰り返す。込み上げてくる射精感。ようやくきたかと吐き出すための準備を整えていると遠くのほうでジータの名前を呼ぶ声が聞こえた。
少女の透き通る声と、独特の可愛らしい声はジータにとって大切な者たちのそれ。戦闘訓練をしてくると言っておいたはずだがなぜ?
「どうやらお楽しみはここまでのようだな。特異点」
「私は別に楽しんでなんかない」
ルリアとビィの声で我に返ったジータはベリアルの中に濁った体液を吐き出し、萎えたものを抜いた。
仲間たちの声がなかったらまだ堕天司を犯していたのだろうか。そのような疑問が浮かぶくらい、ベリアルのナカはよかった。
「ホントウに? その割には激しく愛してくれたじゃないか。何度も、何度も」
「…………」
ベリアルと話をしていると疲れる。ジータは聞き流し、赤い布と手首を縛っていた布を己の元の位置に巻き直し、立ち上がった。
身も心も魅了の力から完全に解放されたようでスッキリとした気分だ。これなら仲間たちのところに戻っても大丈夫。
「ヤリ捨てかよ〜。みんなに優しい特異点とは思えない所業だ」
「その“みんな”にあなたは含まれていないから」
最後は視線すらくれてやらず、ジータはこの場を去った。あのベリアルなのだ。自分でなんとかするはずだ。
歩き続ければ近くなる二人の声。もう少しで合流できるだろう。
「あっ、ジータ! ごめんなさい、ちょっと胸騒ぎがして……」
「ルリアがどうしてもって言うからオイラも付いてきたんだ」
「二人とも……。いくらこの森に魔物の気配がないからって危ないよ。でもありがとう。さ、帰ろっか」
暗い森の中でも目立つ赤と蒼。ジータは何事もなかったかのように表情を和らげると、二人を連れて艇へと戻るのだった。
終