副官ベリアルが研究員ジータちゃんにメンテナンスしてもらう話

 研究所にあるメンテナンスルームの一室。
 部屋にはロックが掛かっており、扉に付近に付いている案内には赤い文字で“使用中”と表示されている。
 その下にも文字が続いており、“対象者:星晶獣ベリアル”。更に下には“担当者:ジータ”と表示されていた。
「ん……は、ぁ……」
「っ、う……」
「はぁっ……あっ……」
 様々な機械が置かれている薄暗い部屋。その中央にある検査台には上半身裸の男がうつ伏せで唸っていた。
 顔は横を向いており、煮えたぎったマグマのような熱い視線を担当者へと注いでいる。
 恍惚とした顔で息を荒らげる獣に対し、担当者である女はむき出しの獣の肌に無表情で触れ、淡々と検査を続けていた。
 ショートヘアの金髪に付けられた黒いカチューシャ。ブラウンの瞳。黒を基調としたミニワンピースにはスリットが入っており、黒のストッキングに包まれた脚を大胆に晒している。
 丈が短すぎる服だが、白衣を着ることで後ろは守られていた。
「はっ……じー、たぁっ……!」
「──少しは黙っていられないの? 他の子たちはそんなふうにならないのに」
 作業の手を止め、氷そのものの冷たい視線を向ける。が、ベリアルにとってはご褒美に他ならない。
 ニィ、と口の端を吊り上げ、犬歯を見せながらベリアルはジータの質問に答えた。
「オレだってキミとファーさん以外の奴に触れられてもなにも感じない。なあ、下のほうのメンテナンスもシてくれないか? さっきから腫れて痛いんだよ」
「悪いけど獣姦の趣味はないから」
「っ……達した」
 ベリアルの卑猥な言葉にはもう慣れているのでジータは顔色一つ変えずにバッサリと切り捨てる。するとどうだ。ベリアルの体がビクビク震え、独特の青臭い匂いが鼻につく。
「…………」
「ジータ? グぁ、ッ……!」
 ピシリ、と空気が重くなる。少しヤバイかも、とベリアルが思ったのと同時に声が詰まる。
 背中から体内に侵入する細い腕。魔力を纏っているのか本来感じるはずの激しい痛みはなく、強い違和感を感じるだけだ。
 肉と骨をすり抜け、目的の物をずるりと抜かれると力の源を失ったベリアルの体は弛緩し、脂汗が浮かぶ。
 星晶獣にとって一番重要なコア。それを抜き取られ、普通ならば焦りの感情が表に出るはずなのだが、ベリアルはこの後の展開を考えてしまい、口元が歪んでしまう。
「ハぁ……アンタは優しいな」
「優しい? コアを抜き取ったのに?」
「魔法で痛みをなくしてくれた」
「そのまま突っ込んで血で汚れるのが嫌なだけ」
 抑揚のない言葉で返し、ジータは近くにある椅子に腰掛けた。黒の布で覆われた脚を組み、ベリアルに検査台から下りるように命令する。
「オーケイ……女王サマ」
 薄手のハーフグローブに包まれた手でコアを握られ、全神経を撫でられているような感覚に息を荒げながらもベリアルはジータの指示に従い、彼女の前に跪いた。
 彼の目の前にはジータのパンプスがある。それを脱がし、蒸れた足をストッキング越しに舐めしゃぶりたい。
 想像するだけで股間に血が集中し、クラクラしてくる。開かれた口からは唾液が伝い、欲望のままに靴を脱がそうと手を伸ばすが──。
「っう!?」
 その手はジータが指を鳴らすと鎖で繋がれた囚人のように斜め上に固定され、動かすことができない。
 高めの位置で固定され、片膝で支えていた体は現在膝立ちの状態だ。
 腕を頭上で固定されている影響で上半身も伸び、雄の逞しい肉体がジータの前で輝く。
 額から流れた汗は体をなぞり、床に落ちる。とても扇情的な光景なのだが、ジータの目は相変わらず冷たいまま。
 無言のまま、氷の眼差しでベリアルを見つめる。男の太い腕、期待に揺れる赤い目、だらしなく開かれた口、膨らんだ胸筋、割れた腹筋……。
「あァ……! ヤバイ、まさかキミに視姦される日がくるなんて!」
「淫獣め」
 吐き捨てるとベリアルの目が見開かれ、顔が蕩けた。下半身を見れば堪え性のない体液が白いズボンに染みを作っており、体を走る淫熱によって震えている。
「天司長副官ともあろう獣がまぁ……。こんな姿、他の子たちには見せられないね? ミカエルなんてショックで寝込んじゃうかも」
「フフ……フフフ、想像に難しくないね」
「はぁ、この程度じゃ萎えないか。早く萎えて大人しく検査を受けてほしいのだけれど」
 ──仕方がない。
 ため息とともに呟くとジータは脚を組んだまま、パンプスの先でベリアルの局部をつんつんと刺激した。
 ベリアルの声が詰まる。ちらりと彼の様子を見たジータの顔にはなんの感情もこもってなく、そのままズボンにテントを張るモノを刺激し続け、先端部分に軽く力を入れた。
「あ……! っ……」
「こんなのが気持ちいいの? 痛いの間違いじゃなくて?」
 心底理解できないという表情でジータは萎える気配のない男根を左右になぶる。靴越しでも分かるその硬さに目を細め、喘ぐ男を見た。
 創造主に与えられた端正な顔が快楽によって歪められているが、それでもなお彼は美しかった。
 真っ白な肌は興奮の色を宿し、血の色をした目は熱によって蕩け、ヒトを誘惑する声は聞く相手を昂ぶらせる。
「あぁ……っ……! はあぁあ……ぁ、きもち、イ……ィ!」
 口からも、布で隠されている剛直からも唾液を滴らせ、更なる快楽を得ようとジータを誘う。
「苦しそうね」
「くる……し、ぃ、じー……たぁっ」
 目尻に溜められていた生理的な涙が上気した頬を流れ落ちる。なんと退廃的な光景か。
「ん゛ひぃ゛っ!」
 ググッ……! と靴の先に力を入れる。反り立つ肉棒を上から抑えつけられ、ベリアルから苦痛なのか悦なのか分からない喘ぎ声が漏れた。
 星の民であるジータよりも優れた能力を持つ星晶獣ベリアル。コアを抜き取られた状態でも彼がその気になれば手の拘束くらい簡単に解除できるだろう。だが決してしない。それはもっとジータに触れてほしいという無言の訴え。
「痛い? でもあなたってマゾな部分もあるからちょうどいいんじゃない?」
「はぁっ、んん゛……! い゛っ、ぎ……ッ、イ、ぐッ……!」
 椅子から身を乗り出し、靴に体重を掛ければ外側へ向かう力と内側に向かう力がぶつかり合い、甘く蕩けるベリアルの目の大部分が白目へと変わる。
 そのまま官能の壁を壊してやるように靴を揺さぶると、彼はジータの予想どおりの反応をしてくれた。
 一際大きく喘ぎ、背をしならせると糸が切れた人形のように脱力した。腕が固定されていなければ今頃床にキスしているところだ。
 嫌な匂いのするズボンから靴を離して椅子に座り直すと、顔を伏せる獣を見た。
 荒かった呼吸が少しずつ元に戻り、静かになる。未だ顔を伏せたままの獣はようやく大人しくなったか──。
「なぁ……頼むよ……。キミのナカに挿れさせてくれ。それかキミがオレのナカに挿れるかい……? どちらにしろ死ぬほど気持ちよくシてやるさ」
 狡知の獣が顔を上げる。熱を放出したばかりだというのに獣の目には淫らな欲がこもり、それは下腹部にも現れていた。
「……私、あなたの中に挿れるモノないんだけど」
「フハハハッ! 魔法で生やすことくらい造作もないだろう? それともオレが生やしてあげようか?」
「獣姦の趣味はない」
「またソレだ。じゃあ獣姦はナシでいいから奉仕させてくれないか」
 べろりと舌を出す。他人の舌などじっくり見たことのないジータだが、ベリアルの舌が長い部類に入ることは理解した。きっと一般的な長さの舌より奥を舐められるだろう。
 艶かしく舌を動かし、それは行為を連想させる。きっとその舌で舐められたら信じられないほど気持ちがいいんだろうな、とジータは思うが許可を出すことはない。
「オレの舌、すごくイイって評判なんだぜ? 奥の奥まで届くからな」
 ジータを発情させようと真っ赤な舌をチロチロと動かす。それを見ているとふと、ジータは自身が握ったままのコアを思い出した。
 肉体を弱らせるためにコアを抜き取り、一回イかせれば大人しくなると思っていた。だがその予想は外れ、今に至る。この獣は底知れない。さすがはルシファーの被造物。
(──コアに必要以上に触れたら……どうなるんだろう)
 研究員としての好奇心がジータの体を動かす。
「ァぐ!?」
 手に持ったコアをぺろりと舐め上げるとベリアルの動きが止まった。余裕のあった表情はこわばり、嫌な汗が額から吹き出す。
「ジータ、それは本当にヤバイ……っ!」
「コアと体の感覚は多少なりともリンクしている。普段は決して触れられることない重要な器官に直接的な、過度なアプローチをしたらどうなるのか……。少し実験に付き合ってちょうだい」
「ああ……っ! くっ……! ふ、うぐ……うぅ! ぅ!」
「報告しなさい。今、あなたがなにを感じているか」
 言いながらも舌でコアを丁寧に愛撫する。彼そのものと言ってもいい球体を優しく、慈しむように。ときに口付けを織り交ぜながら。
「じぃ……たの舌でッ、全神経を舐められ、ん゛ぎぃッ!」
 腕を固定されているためほんの少しだけ前のめりになるだけの上半身。目の焦点は合わず、どこを見ているのか分からない。
 閉じることを忘れた口から舌を突き出し、快楽に喘ぐ獣は普段の彼と別人なのではと思うほどに淫らで娼婦のようだ。
「舐めるだけでこれほどにも……。ならこうしたらどうなる?」
「ふぅ゛っ!? う゛ぅ、むり、む、無理、ィ……!」
 口の中にたっぷりと唾液を溜めると、ジータはコアをその中に放り込んだ。体液の海に沈め、飴玉のように舌でコロコロと転がす。
 涙と唾液で顔を汚しながらよがり狂う獣は懇願するような眼差しでジータを見つめる。
 なにも言わなくても分かる願い。叶えてあげてもいいか、という気持ちになったジータは彼のズボンを魔法でくつろげた。
 ベリアルはなぜか下着を履いておらず、限界まで張り詰めた男の物が勢いよく顔を出す。布の中で何回も射精を繰り返した影響でグロテスクな棒には白いコーティングが施されていた。
「うわ……」
 研究職に就くジータは人体の──男性の体の仕組みなどは頭に入っている。が、勃起した性器を今のようにまじまじと見ることはなかった。
 舌のときと似た感想だが、勃起している状態とはいえ一般的なヒトのものより明らかに大きい。あんな凶悪なモノをベリアルは姦淫する相手に挿入しているのか。想像して少し青くなる。
「靴、のっ……! ま、まで……い゛ぃ! が、らぁ! さわ、って……!」
 ベリアルは星晶獣だが、さすがに靴で直接触れるのはためらう。病気になどならないが、ジータの気持ち的によろしくない。彼の願いでもそこまでは踏み切れない。
 どうせこの後、使い物にならなくなったベリアルのズボンと彼の汚れた肌を綺麗にするためにタオルが必要になる。
 そのためには一度外に出なければならないのだ。ならば自分のストッキングが汚れても良しとしよう。
 パンプスを脱ぎ、ベリアルの肉棒へと片脚を伸ばす。ダラダラとカウパーを垂れ流すモノに親指と人差し指を大きく開いて当てると、そのまま裏筋を刺激するように上下に扱く。
 透明な汁と白い汁が潤滑剤の代わりになり、スムーズに脚が動いた。ストッキングに包まれた指先はベリアルの体液で濡れ、布が肌にぴったりと張り付く若干の不快感をジータに覚えさせる。
「ひもひいいの?」
「あ゛っ! あっ! コア゛ぁっ、咥えた゛ま、まァッ! っ゛ひ、しゃべるなァ゛ッ!」
 平時のベリアルを知っているジータはそのギャップに少しだけ愉悦を感じ始めていた。
 抵抗する力を持ちながらも彼はなぶられる方を選んだ。おかしいな、自分はベリアルのように倒錯とした欲望はないはずなのに。
 気づかない間に魅了でもかけられたのか。どろりとした欲望がジータの中に生まれつつも彼女は熱を顔に出すことはせず、淡々とベリアルを責め続ける。
「あ゛ッ!?」
 ちゅぷりとコアを口から手のひらに出し、五本の指で揉みくちゃにこすり、握る。下半身も両足を大きく『く』の字に曲げて砲身を挟み、力を入れて擦り上げる。
 ベリアルからあふれるモノ全てが魅了効果を持っているかのようにジータの呼吸を荒いものへと変え、責苦も強くなる。
「──ッあ゛! くる、ま゛たア゛ク゛メくる゛ッ! ひう゛ぅう゛う……ッ! ぁ゛ふ、ッ゛……!」
 与えられる快楽に狂ったベリアルの顔は上を向き、泣きながら笑っている。歪められた口の端からは唾液がぼたぼたとこぼれ落ち、ジータのストッキングに濃い黒を作っていく。
 最後の仕上げだと獣の先端を両足で包むと指をバラバラに動かした。敏感な場所を襲う強すぎる刺激にベリアルの雄叫びが酷くなる。
 あと一つ、なにかを投じればベリアルは果てるだろう。自身を蝕む甘い熱にジータは一人耐えながらコアを口に放り込むと、思い切り噛んだ。
「い゛……ッぐ、イぐぅ……! ──んあぁあ゛あぁ゛ッ゛ッ!!!!」
 一線を超えたベリアルは体を反らせると、雷に打たれたかのように体を激しく痙攣させた。欲が爆ぜたことによる白い副産物はジータのびしょ濡れの黒地を彩り、ベリアル自身の腹も汚した。
 魔法で捕えた腕を解放してやると、繋ぎ止めるものを失った体は後方に倒れ、そのままピクピクと小刻みに震えたまま。
 コアを直接弄られるという……おそらく経験のない体験から意識を一時的にトばしているのだろう。
「ほら、返してあげる。あなたの大事なモノ」
 目を閉じている彼の側に両膝をつくと、ジータは屈みこんだ。その先にあるのはベリアルの口。
 薄く開かれているそこにぴったりと自分の口を合わせ、口内に閉じ込めていたコアを彼に返した。
「──さて、と」
 名残惜しいように唇を離すと立ち上がり、不快感のあるストッキングを脱ぐとパンプスを履いて扉へと向かう。後始末のために色々持ってこなければならないのだ。
 遅れが出ているメンテナンス作業のどこを短縮できるか脳内で計算しながらまず自分の部屋へと向かい、新しい下着とストッキングに履き替えた。
 ベリアルのように乱れはしなかったが、あの状態で濡れないなんて無理な話というもの。
 その後は必要な物を揃え、メンテナンスルームに戻ると意識を取り戻したベリアルが検査台の下に寄りかかるように座っていた。
「まさか……フフ、あんなにブッ飛ぶとは思わなかったよ。最高にマゾヒズムが満たされた。……興味なさそうな顔して裏では男を弄んでたのかい?」
「あなたがそう思いたいなら勝手にどうぞ。でも私はあなたみたいに誰でもいいワケじゃないから」
 ベリアルの前に膝をついたジータは冷淡に吐き捨てた。顔には怒りの表情を出してはいないが、言葉には棘があるので少し怒っているのが分かる。
 それでも彼の汚れた顔をタオルで拭う手付きは優しく、なんとも言えない気持ちになったのか、ベリアルは「やっぱりキミは優しい」と呟くのだった。
「はいはい。あなたの望みどおり下のメンテナンスをシてあげたんだから今度は大人しくしててね? イイ子だから」
「フ……フフフフフッ……! はぁい、ジータ」

「遅い。ただのメンテナンスに時間がかかり過ぎだ」
 ベリアルのメンテナンスが終わり、報告書をまとめたジータは上司であるルシファーがいる執務室を訪ねた。
 あぁ、やっぱり小言を言われた。予想どおりの展開に辟易しながらも報告書を彼に提出し、ジータは内心ルシファーに同情した。
 ベリアルが言っていた。ルシファーに触れられても感じると。ならばルシファーがメンテナンスをする度に彼は発情しているということ……。
「理由があるのよ理由が。にしても、あなたも大変ねルシファー……。あの子、あなたがメンテナンスする度に発情してるんでしょ?」
「……は?」
「他の人だとなにも感じないけど、ファーさんと私に触れられると気持ちよくなっちゃうんだって」
「は?」
「……んん?」
 どうも話が噛み合わない。
 ──数十分後、両手に毒々しい薬液がたっぷり詰まった注射器を持つジータが鬼の形相でベリアルを探していたとか、いないとか。

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