補佐官のおっぱいを揉む星の民ジータちゃんの話

「ファーさんは寝かせたし、あとはジータ……っと」
 研究所内の廊下に一定の間隔を空けて設置されている窓からは天高く輝く月の柔らかな明かりが入り込み、無機質な床を照らしていた。
 光と影を受けながら規則正しい音を鳴らし、目的の部屋へと歩く白の軍服姿の男がひとり呟く。
 彼の名前はベリアル。研究所を束ねる所長ルシファーに造られた星晶獣であり、元天司長副官。現在は彼の補佐官としてこの研究所に身を置いていた。
「まったく……。オレが止めなきゃあと何日寝ずに研究と実験を繰り返したか。異常なほどに知を求めるファーさんは不思議じゃないけど、それに付き合うキミも大概だよ」
 独り言を言いながら辿り着いたのは何の変哲もない扉だが、ここは先ほどまでルシファーが研究と実験を行っていた部屋。
 扉を開ければ広い空間が広がっており、薄暗い部屋には様々な機械や薬品が並べられている。
 独特の薬品臭が漂う部屋は危険な物もあるため、他の部屋に入るときよりもほんの少しだけベリアルは背を伸ばしてしまう。
 一定の緊張感がある部屋に、椅子に背を預けて居眠りをしている少女がいた。
 黒を基調にした丈の短いワンピース。そこから伸びる脚を包むのは薄手の漆黒のストッキング。
 服の上には丈の長い白衣を羽織っているが、椅子の座りかたによってはだいぶ危ない服装だ。
 酷く疲れているようで泥のようにぐったりしているが、この部屋で寝ていること自体いびつで、アンバランスさを感じる。
 彼女の短めの金髪も寝息とともに揺れており、見た目こそ小柄で子供のようだが中身の年齢はベリアルより上。
 彼女こそ、この研究所の副所長ジータだ。ルシファーの研究に付き合って今日で五徹目。いくら他の研究員に比べて体力があるといってもヤリすぎである。
 地位は高くとも彼女も根っからの研究員。興味のある研究には没頭してしまうのだろう。
 正面にベリアルが移動してもジータは眠り姫のまま。指どおりの良さそうな金糸に男の手が触れても起きない。普段ならばあり得ないことだ。
 今から部屋に連れて行ってやるのだ。少しくらい、ご褒美をくれたってイイだろう? 自分に言い聞かせるとベリアルはジータの頭部へと顔を近づけ、肺いっぱいに洗髪剤の香りを吸い込む。
 いくら睡眠をとらずにいたと言っても、そこは女性。入浴だけは毎日していたので彼女からは薬品臭が混じりながらも清潔な幽香が漂ってくる。
 平時ではできないコトをしているということに酷く興奮するのか、ベリアルの体は微かに震えていた。
 ──しばらくのあいだ楽しんでいると、満足したのかベリアルは緩慢な動作で上体を起こす。時間にして数分だが、まったく起きる気配のない女性に対し少しだけ心配になる。
 もし、ここにいるのが自分ではなくて、他の研究員だったら?
 容姿も整い、力も地位もある女性。男ならばそんな彼女を征服したいと誘惑されてもおかしくはない。
 目覚めたあとの報復を考える前に、行動を起こしてしまうのでは? そう。己のように。
「こんなに無防備な姿を晒して……このまま犯したくなる。なあに。いつものお礼、オレからキミへのご奉仕さ……」
 口元を緩め、欲望を言葉にする。口にするだけで実際の行動には移さない。
 そろそろ部屋に連れて行こうと華奢な体を横抱き……いわゆる、お姫様抱っこをするとベリアルは研究室を出た。
 向かう先は居住区ではなく、研究所にあるジータの私室だ。その地位ゆえにルシファーと同じように所内に部屋を持つことが許されているのだ。
 起こさぬように慎重に歩を進め、着いたのは重厚感のある木目調の扉。ここが彼女の部屋である。
 彼女が留守のときは施錠の魔法がかかっているが、ベリアルは当たり前のように魔法を解き、鍵を開けた。
(部屋の解錠の方法を教えるなんて、オレってばだいぶ信頼されてる?)
 一応オレ雄なんだけど。と独りごちりながら扉を開けた。眼前に広がる部屋は大きな窓を隠すレースカーテン越しに月の光が入ってくるだけなので薄暗い。
 そこそこの頻度で彼女の部屋に出入りしているが、改めて周りに目をやる。視界に入るのは月明かりで一層冷えた色を放つ石の床と、最低限の調度品。
 パッと見ただけでは部屋の持ち主の性別は分からない。ただ、揃えられている物に不用品がない辺り、キッチリしている性格なのだと読み取れる。
 所長であるルシファーの私室と比べると整理整頓が行き届いており、その違いに吹き出してしまいそうになる。彼の部屋は本や資料が多く、ベリアルが定期的に片付けなければすぐに足の踏み場もない汚部屋と化すのだから。
 造物主の部屋を思い出し、苦笑しながら寝室の扉を開けるとここも薄暗い。だが同時にそういう雰囲気も醸し出している。
(ハァ……本当にこのまま睡姦したくなる……)
 普段はベリアルが下になることが多く、上に乗ったとしても主導権は渡してもらえない。だが、意識を手放している今ならば主導権を握れるのでは?
 ゆらゆらと揺れる天秤。休ませてやりたい気持ちと、欲望がせめぎ合う。
 しかし、最終的に傾いたのは休ませてやるほうだった。
 一人で寝るにはいささか大きいベッドにジータを横たえてやり、安らかな寝顔を目に焼き付けると踵を返す。が。
「はっ……!?」
 急に後ろから引っ張られ、ベッドに倒れ込む。すると目に光がない虚ろな顔をしたジータが覆い被さってくるではないか。
 明らかに普通じゃない彼女。もしかしてこのまま抱かれるのでは……? と期待に胸を膨らませたいところだが、今は休ませるのが先決だとベリアルは理性の仮面を被った。
「ジータ。キミは極度の疲労状態だ。今は休んだほうが……」
「……おっぱい」
「ん?」
「おっぱい」
「なっ!? ちょ、オイ」
 ジト目のジータが呟くと朦朧とした意識だというのに器用な手つきで軍服のボタンを外し、はだけさせるとインナーを捲り上げた。
 現れる肉体美。普段は隠されているからこそ、艶かしさが強調されるというもの。
「おっぱい……男なのに大きくて……やわらかい……」
「は……!? いつものキミはそんなこと言わないし、なんなら触らないだろう? 触るのは下ばかりで、うっ……」
 クールな彼女のイメージが崩れていく。正常な意識が保てないだけでこんなにも違ってくるのかとベリアルは驚くが、ジータの手が柔い肉をむにゅりと揉んだ瞬間、鼻にかかった声が漏れてしまう。
「ハッ……なんで、ただ、揉まれているだけで……くっ……!」
 甘い熱が全身を巡り、理性の仮面に少しずつヒビが入っていく。
「べりあるのおっぱい……きもちいい……」
 危うい目をしながらにへらと笑う彼女を見たベリアルの背に官能的な快感が走り、スイッチが入ってしまう。
 頻繁にベリアルは彼女を求め、その度に頻度が多い、淫獣などと冷たく言われるものの、彼女は毎回相手をしてくれる。
 その行為の内容もベリアルに負担がかからないようにだったり、彼が望むように抱いてやったりと思いやりに溢れ、言葉と行動が一致しない。
 ジータによって快楽を刻まれ続けたカラダは、彼女の手に簡単に陥落してしまう。
「ジータ……」
 熱のこもった声で彼女の名前を呼ぶ。ベリアルの膨らんだ胸筋に注がれていた視線が向けられ、そのまま見つめ合う。
 にっこりと聖母のようにジータは微笑み、それだけでベリアルは達してしまいそうになった。
 普段は基本冷たい表情しかくれず、それもまたマゾヒズムを擽るのでたまらないのだが、この顔は本当にヤバイ。
 今にも暴走してしまいそうな己を騙し、ジータを抱きしめようとベリアルは腕を伸ばしたが……。
「……すぅ」
「……は、」
 糸が切れた人形のようにジータは意識を手放し、今はベリアルの胸に顔を乗せている状態。
 規則正しい呼吸を肌で感じると、ベリアルの欲の塊は急激に萎み、消え失せる。
 その気にさせた本人が寝落ちとは……。あまりにも呆気ない終わりかたに隠すことなく大きなため息を漏らす。
「まあ……たまにはこういうのも悪くない」
 ベリアルの胸を枕代わりにして深い眠りに身を任せているジータに腕を回し、目を閉じる。
 ひとときの安寧に身を任せるのもまた一興。ベリアルの意識も闇の中へと沈んでいった。