エピローグ
あなたが消えて今日でどれほどの月日が流れたでしょうか。
私たちが皇子と思っていた人とあなたが姿を消した日、帝国の人たちはまるで魔法が解けたように思い出したんです。本当の皇子の存在を。
誰もが皇子と疑うことなく受け入れていたベルさんは知らない人で、本物の皇子様は帝国の牢屋に罪人として投獄されていました。
牢屋にいる間も自分はこの国の皇子だ! と訴えていましたが、誰も聞く耳を持たなかったそうです。当たり前ですよね。みんなの中ではベルさんが皇子様なんですから。
帝国はもちろん私たちの国も大混乱に陥りました。謎の男の人と一緒にあなたも姿を消してしまったから。
今もあなたを探して兵士たちが大陸中に散らばり、捜索を続けています。帝国も協力してくれていますが、手がかりは未だ見つかりません……。
区切りのいいところで筆を止めると、ルリアはノートを閉じ、テーブルの上に置かれているランプの火を消して立ち上がる。
ジータの姿が忽然と消え、ルリアは帝国から自国へと戻ってきていた。帝国にいた頃に与えられていた部屋と比べると質素だが、慣れ親しんだこの部屋は主であり、大切な親友である少女との大切な思い出が詰まってる。
そんな部屋は今は窓からの月明かりが薄っすらと周りを照らすのみ。
起きている者もほとんどいない深夜。ルリアは部屋の窓辺へと向かうと、ガラス越しに月を見上げた。
闇を照らす凛とした輝きは、ルリアの日常から大事なモノが欠けてしまった今でも変わらない。
「ジータ。あなたはどこに行ってしまったの……?」
どこかでこの月を見ているかもしれないし、最悪……。
ルリアは恐ろしい結末を一瞬でも想像してしまい、その考えを振り払うように強くかぶりを振ると指を組み、神という存在に祈る。
「どうか、どうか無事でいて、ジータ……!」
祈ったところで現状が変わるわけではない。それでも、なにかに縋っていないといられなかった。
月によって青白く見える頬に透明な雫が流れ、ルリアは今宵も悲しみにその身を沈める。
その涙を拭ってくれる存在は、いない。
終