第一章
「殺しなさい……! 悪魔に情けをかけられるくらいなら……!」
「そんなに死に急ぐなよ。まさかオレ相手にここまで粘る人間がこの時代にいるとは……。何千年振りかな」
緑が生い茂る森の中。その奥地に二人分の人影があった。剣を地面に突き刺し、支えにすることで倒れずにいるのは金髪の……まだ年若い少女だった。
彼女たちを取り囲むように生えている木は消し炭にされていたり、おかしなところから切り倒されていたりとここで激しい戦闘が行われたことがひと目で理解できる。
少女の頭の花飾りや純白の衣装、肌は血と土で汚れており、幾つもついた生傷が痛々しい。
彼女の名前はジータ。この国の王女であるのと同時に剣を手に自ら魔物たちと戦う勇敢な姫騎士である。
他の国と比べると平和な国での城暮らしは退屈で自分の力の強さゆえの気の緩みも正直あった。
書き置きを残し、さあ城を抜け出そうとしたところを専属メイドのルリアと弟のグランに見つかり、少しだけという条件付きで近隣の村まで足を運んでいた。
そこに突如として魔物の群れが村を襲い、倒しても倒しても減らない異形の存在たちにジータは村の守りをルリアとグランに任せてひとり森の中へと踏み込んだ。
結論から言えば魔物を喚び出していた魔物──悪魔に彼女は敗北した。今まで戦ってきた敵とは比べものにならない程の力の差がありながらも、悪魔に幾らかのダメージを与えることができたが、倒すまでには至らなかった。
両膝を地面について息も絶え絶えのジータは眼前の男を睨みつける。男の頭部からは禍々しい赤色をした捻れた角が二本生えており、右目の強膜部分が黒に染まっている。人ではない目の色は濁った赤だ。
前が開いているボロボロの上着から覗くたくましい肉体には不気味な紋様が浮かび上がり、ヒトの姿をしていても彼が人間ではないのだと強く認識させる。
強大な敵を前にしてジータの額からは冷や汗が一筋流れる。この男を放っておいたら村人たち──ルリアやグランに危害が及ぶかもしれない。
なんとかしなければ。でも、どうやって?
もう剣を振るう力は残っていない。あるとしたら少しの魔力だけ。
自身の無力さに歯噛みしていると男が近づき、眼前に片膝をついて視線を合わせる。禍々しい魔力に息が詰まりそうだ。
男はうっそりと笑うと片手を伸ばしてジータの頬に触れた。肌の心地を確かめるように親指で数回撫でられ、おぞましさに背筋が凍りつく。
「……なんでだろうなァ。今まで色んな人間を見てきたが……キミは他の奴らと違う。不思議な感覚だ……」
(今だッ!)
キスをしようとしているのか。悪魔は顔の距離を詰めてきた。油断している。その隙を突いてジータは動かぬ体に鞭を打って片手で男の顔を掴み、残りの魔力を全て放出した。
ジータの手のひらから放たれる魔力の光線は一直線に伸び、背後にある木々を巻き込みながら男の首から上は極光の中に消える。時間にすると数秒。ジータからすれば数分の感覚。神聖な光が収まると首を失った男の体が後方へと倒れた。
力を失った肉の塊を大地が受け止める乾いた音が鳴り、ジータはなんとか立ち上がると大の字に倒れたまま動かない男を見下ろす。
首を消し飛ばされた傷口からは深紅の血がどろどろと流れ、血溜まりを作っていく。今までの殆どの敵は首を落とせば死は確定していたが、この男相手にはこれで殺せたのか定かではない。
お願いだからもう動かないで……! そう願いながらジータは愛剣リディルを杖代わりにして森の出口へと急ぐ。
魔物を喚び出していた魔法陣は悪魔との戦闘時に消え、今も消えたまま。新たに出現している様子はない。
グランはもう村の魔物を全滅させただろうか。とにかくグランとルリアの顔が見たい。
こんなボロボロの姿を見たらルリアは泣いてしまうかもしれない。泣きじゃくりながらも精霊の力を借り、傷の治療をしてくれるのかな。
傷口から失われていく血液を軌跡として地面に点々と残しながら、ジータは歩を進めるも……。
「ぁう……」
小石につまづいて転んでしまった。受け身すらまともに取れず、打った場所が痛む。なんとか立ち上がろうとするも体に力が入らない。
その場で仰向けになると、あんなにも激しい戦闘があったのが嘘のように青々と澄み渡った空が広がっていた。
少しだけ、ここで休もう。そうすればまた動けるようになるし、もしかしたらグランたちが助けに来てくれるかもしれない。
極度の疲労からそれ以上は考えられず、ジータは目を閉じた。
森の中を吹き抜ける優しい風の音が聞こえ、意識が遠くへ引っ張られそうになる。このまま意識を手放してしまいたい……。うつらうつらと思っていると、地を踏みしめる音が聞こえたような気がした。
ひとり分の足音はどんどん近くなり、すぐそばで止まった。見下ろされているような気がする。もしかしてグランが……? と、ジータは目を開けたが、眼前に広がるのは絶望そのものだった。
「あ……あぁ……っ……!」
穏やかだった表情が一転。恐怖に支配される。見開かれた目からは涙が滲み、体はガクガクと激しく顫動する。
今のジータは勇敢な戦乙女ではなく、おぞましいものを前に動けないでいる一人の女の子。
「い……いやっ……! 来ないでッ……!」
ジータを見下ろしていた人物は──顔なしの男だった。
正確には再生途中か。口の辺りまでは元通りになっている。
外見のグロテスクさはアンデッド系の魔物と戦ったこともあるのでそれほど問題ないが、恐ろしいのはやっとの思いで倒したと思った相手が動いていること。
立って、走って逃げたいのに疲労し切った肉体は言うことを聞かず。地面を蹴るように両脚を交互に動かしながらジリジリと後退するも、逃げられるわけもなく。
「逃げなくてもいいだろぉ〜? フフッ。まさか首をふっトばされるとは思わなかった。本当にキミは強いんだねぇ。ところで、モノは相談なんだが……オレと姦淫しないか? 戦闘で興奮するのは久々でね。しかも相手は可愛い可愛い女の子ときた。身体が熱くてたまらないんだよ」
顔が半分しか再生されていない口を歪ませながらの言葉はジータには理解できなかった。彼が話している間も少しでも距離を取ろうと懸命に脚を動かす。しかし。
「ひ、ぃ……ぁ……!」
男の長い足がジータの足首へと伸び、軽く踏まれたかと思った瞬間、思い切り力を入れられる。骨が折れないギリギリの力加減ながらも、灼熱の炎が足から脳へと伝わり、ジータは苦悶の声を上げた。
ミシミシと骨が軋む音も聞こえる気がする。これ以上力を入れられたら本当に折れてしまう。弱り切った乙女は抵抗する気力を削がれ、くったりと全身の力を抜いて悪魔に降伏した。
「強さだけでなく、賢さも兼ね備えている。キミのような子は嫌いじゃないよ。むしろ好意的だ。なぁに、すぐ終わらせるよ。耐え切れたらキミを解放してあげる」
大人しくなったジータを前に男は両膝をつき、彼女の脚を大きく開いた。衣装と同じ色をした純白の下着。それは処女をより強くイメージさせ、少女器官の感触を確かめるように男は片手を伸ばすと指を這わせる。
これから自分は蹂躙される。いつかは愛する人に捧げるはずだった純潔を奪われる。だがその苦痛の先に待っている小さな希望に、ジータは縋った。
「ほん……とに……?」
「あぁもちろん。ま、耐えられた人間は……今までいないワケなんだけど」
顔に加えて角まで再生し、すっかりと原型を取り戻した男は鋭い犬歯を剥き出しにして笑うと、ジータのショーツをまるで紙のように引き千切り、一気に──極太の猛りを打ち込んだ。
「ァ゛──あ゛……!」
あまりの衝撃に悲鳴すら出すことができない。はくはくと短く息を吐くばかり。
慣らしてもいない膣に捩じ込まれた巨大な肉塊に、ジータの平たい腹部はいびつに膨れている。
男が言っていた言葉の意味は、こういうことなのか。こんなモノでレイプされたら最悪身体を壊され、死んでしまう。現に男が言うには耐えられた人間はいないらしい。自分もその中の一人として消えていくのか。
嫌だ。絶対に屈するものか。恥虐の限りを尽くされ、人間の尊厳を破壊されても生き延びるんだ。大切な人たちのもとへ帰るんだ。
噛んだ唇から、容易く奪われた純潔から、真っ赤な血液が流れ出してそれぞれを赤く染めていく。
ジータの決意をよそに男は頬を赤らめ、恍惚に満ちた表情を浮かべながら喉奥で笑う。
「ハァッ……ハハ、最高だよキミの膣。オレを拒絶するクセにこんなに締め付けてきて……さっ!」
「……! ……!!」
ジータのことなどお構いなしに始まる抽送。押し込まれる度に固く閉ざされた子宮口を突き破られるのではないかという恐怖に駆られながらも耐える。
愛液の代わりに血液で濡れた内部をゴリゴリと掘削される行為。城にいるメイドたちの猥談をたまたま耳にしてしまったことがあるが、その会話からはこんなにも辛くて苦しい行為だとは想像できなかった。
心身ともに満たされて、パートナーと愛を確かめ合う素敵なこと。王女という立場からしていつかは誰かと結ばれ、愛し合った果てに──。
ジータは残酷な現実から逃げるようにキツく目を閉じ、早くこの時間が終わることを願い続けた。
彼が腰を引けば消え、押し込めば現れる下腹部の丘は少女の受け入れられる大きさを悪魔の魔羅が大幅に上回っていることを示している。
血を纏った出し入れはやがて防衛本能から分泌された蜜が交じるようになった。濡れてきたことで痛苦もほんの少しだけ和らぐが、心の痛みは軽くなることはない。
「ッ゛!? ぁ゛っ……!?」
悪魔の蹂躙を大人しく受け入れていると首に走る圧迫感。目を開けて状況を確認すれば首には男の大きな手。首を、締められている。
呼吸がまともにできず、自然と体に力が入る。それが膣の締まりをさらに強め、男は快楽に酔いつつ、ジータが窒息死しない程度に首を締める。
苦しいはずなのに、頭がぼうっとしてきてどこか心地よい。普通に生きていればまず経験することのない未知の感覚にジータは──気持ちいいと、思ってしまった。
下腹部にも性的な淀みが溜まっていき、今にも破裂してしまいそうだ。これがどういう意味を持っているのか、清らかな乙女であったジータは分からない。
これは無理やりの最低の行為。気持ちいいなんて思っちゃ駄目なんだ。ジータは少しだけ堕ちそうになっていた己を律し、悪魔を睨みつけた。
「レイプされてるってのに気丈な子だ。オレを睨む余裕もあるとは。なら……もう少し遊んでも問題ないな?」
「けほっ! けほっ! っ……まだ、終わらないの……?」
「そりゃあそうさ。まだオレはイってない」
「あぐっ……! ぁ……あ゛……!」
男の手が首から離れ、呼吸が楽になったのは幸いだが、さらなる地獄がジータを襲った。
今でさえ子宮口にぴったりと合わさっている先端。ジータ自身もこれが行き止まりだと思っていた。しかし。
男はジータの柳腰を掴むとさらに腰を進めてきた。入ってはいけない場所が力づくでこじ開けられていくのを感じ、ジータの見開かれた目からは大粒の涙が溢れ、頬を流れ落ちていく。
悪魔はその様子をじっくりと眺めながら──神秘の部屋へと踏み入った。
「あ゛ッ! は、あ゛、あぁ゛……!!」
「耐えるねぇ〜。……見た目も、体の相性もいい。しかもオレとまともに殺り合えるときた。……いいねぇ。最高だ」
男がなにやら喋っているが、ジータはそれどころではない。
胎内からはぐぽっ、ぐぽっと聞こえてはいけない音が聞こえる。痛いのに、なぜか気持ちよくて。下半身がぶるぶると震える。子宮を犯される度に背中に甘い痺れが走って、張り詰めるような快感に溺れそうだ。
「ハジメテなのに子宮で感じるなんて、清楚な顔して実は淫乱?」
「ッ! そんな、あぁっ……こと、んっ、ない……ッ!」
「そう? その割には気持ちよさそうな声出てるけど。フフ」
「ぇ、いやぁぁっ……! んふぅっ……! ん、ふぁっ……ン、ん……!」
出したくないのに。男に甚振られる度に呼応するように出てしまう淫声を指摘されると恥ずかしさと怒りで顔が瞬時に発熱する。
すると男はなにを思ったのか端正な顔を近づけ、ジータの唇に重ねた。嫌がる少女の唇の隙間から蛇のようにうねる舌をねじ込み、口内を蹂躙し始める。
逃げる小さな舌を絡ませ、水音を立てながら歯列を丁寧になぞり、敏感な硬口蓋を舌先で撫でられたときには腰が自然と揺れてしまう。
「ンっ、ん……! やだ、やめぇ……! ッ!? あぁッ……!?」
不意に身体に走る甘い電撃にジータは己の手を握り締める。張り詰めていたモノが弾け、心地よい感覚に包まれる。知らない。こんなの知らない。なんでこんなにも解放感に満ち足りているの?
怖い。一歩間違えればこの快楽の虜になって、堕ちていくばかりなのが目に見える。
ビクビクと愛おしく震えるジータを男は至近距離で見つめると、その艶やかな唇の端を妖艶に持ち上げた。
「それがイクってことだよ。病みつきになるだろう? ……さて。オレもそろそろ限界だ。穢れた悪魔の精液、キミの子宮で受け取ってくれ」
「ッ〜〜〜〜!! っ、ツ……!!!!」
体液を吐き出される感覚にジータは歯を食いしばり、静かに涙を流す。子宮を満たしていく熱は衰えを知らず、若干の苦しさを感じるほど。
人外だからか。男の射精量は未経験のジータでも分かるほどに異常。悪魔と人間。そもそもの種族が違うので孕むことはないと思いたいが、こんなに出されたら妊娠してしまうのではないか? そう考えてしまうくらいの量だ。
その証拠にようやく身体から男性器が抜かれてもジータの腹は薄く膨らみ、膣口からは溢れた白濁が漏れ出て止まらない。
姫騎士を穢し尽くした悪魔は満足そうな顔をすると肉棒を軽く扱き、尿道に残っていた残滓をジータの服に、まるで排泄をするかのようにぶっかけた。
元は花嫁衣装を連想させる美しい衣装は今ではところどころ破れ、血や土埃の汚れに加えて性液で汚染されて見る影もない。
誰が見ても悲惨な状態だが、ジータは地獄そのものの時間を耐え切ったと、これでみんなのところに帰ることができると途切れそうになる意識の中でぼんやりと思う。
「オメデトウ。人間の癖によく耐えられたね。エライエライ。ますます気に入ったよ。……チッ、この気配はルシフェルか。今日のところは帰るけど──いずれまた会いに行くよ」
褒める言葉と共にジータの頭を撫でる男だが、なにかの気配を察知してあからさまに不機嫌に。
意識が朦朧としているジータの頬を慈しむように指の甲で撫でると、男は死刑宣告と同義の言葉を残して黒い霧に溶け込むように消えた。
程なくして邪悪で禍々しい魔力とは正反対の清らかで、神々しい魔力を纏った男がジータのもとへと現れたが、そこで彼女の意識は完全に途切れた。
意識が闇に囚われる前に見たのは、大きな六枚羽を背負った白い男だった。