第四章
魔物たちの襲来から数週間。国を襲った危機を救ったジータとルリアは英雄として称えられ、帝国民は一丸となって城下町の復興に力を注いでいた。
今日も平穏な時間を過ごし、夜。ジータはいつものようにベルと一緒にベッドに入ったのだが、現在彼はジータの方に顔を向けつつも、眠っていた。
夫婦になった初夜もそうだった。実際にそういうことをしたことがないジータも、夫婦の営みは知っている。世継ぎのためにも妻が若いうちに……。と、周りが望んでいることも理解していた。
しかしベルはジータに手を出すことは一切せず、夜が開けた。その後も同じ部屋で夜を共にはするものの、軽いキスくらいで一歩踏み込んだ関係までには至らない。
もしや自分に魅力がないのでは? と不安になったとき、思い切って聞いてみれば急ぐ必要はない、もっと親密になったらという答えが返ってきた。
これもベルがジータを大切に思っての言葉だろうが、そろそろ……という考えがジータにはあった。
先の戦いでベルに深い愛情を抱いているのを自覚し、これからの人生もこの人と歩んで行きたいと願う。
すぅすぅと静かな寝息を立てる彼はどこか幼く、見ているだけで胸が苦しくなってくる。彼に触れたい。彼が欲しい。心臓が激しく脈打つ音が脳に響き、興奮から呼吸が浅く速くなる。
女から求めるなんてはしたない……。そう考えるも、欲情スイッチが入ってしまったジータは止まらない。
茹だった熱い瞳で見つめる先にあるのは寝間着から覗く大きな胸筋。男の胸だというのにジータは思わず生唾を飲み込む。
そして回顧するのは激闘の果て、駆け付けてくれたベルに抱きしめられたときの胸の柔さ。服を着ていても存在感がある胸板に包まれたときの安心感。
(ベルっ……)
ベルは就寝時、素肌に深紫のナイトガウンを羽織るだけなので魅惑の谷間がくっきりとジータの眼前にある。
もう一度あの肌触りを体感したくて、ジータは溶けたチョコレート色の瞳を潤ませながら体をベルの方に寄せ、起こさないようにゆったりとした動作で彼の胸元に顔を寄せた。
上がる体感温度。硬そうに見える胸が本当は雲を模した砂糖菓子のようにフワフワだと知っているのは自分だけかもしれない。いいや、そうであってほしい。
彼は王族。その身に触れることは簡単には叶わないのだから。
(安心する……)
胸元の熱。石鹸とはまた違う彼自身の香り。顔を軽く押し付けた際に感じる肉厚感はジータに安らぎをもたらすのと同時に淫らな欲望も煽る。
もう、止められなかった。理性を凌駕する淫欲の劣情に従い、ジータはナイトガウンの胸元を大きく開くと女性の胸とはまた違ったたわわな実りを外気に晒す。
丸みを帯びた小山の先端には色素の薄い赤色が鎮座している。自分にも同じものが付いているというのに好きな人のものだからか。イケナイものを見ているような気さえする。
ジータは背筋に走る禁断の媚流に身を小刻みを揺らしながら、本能が赴くままに乳蕾に吸い付いた。
まさかこんなことをしてしまうなんて。しかも相手の意識がないときに。罪悪感は募るが、体は止まらない。
赤ん坊が母親の母乳を吸うようにしゃぶれば言いようのない安堵感に包まれる。舌に触れる赤い種の感触が癖になって、もっと欲しいと吸う力は強まっていく。
すると口の中の尖りが段々と硬くなってきた。一旦吸うのをやめ、口から解放して確認すればジータの体液によってコーティングされている桃色の乳輪の中心は最初こそ控えめな主張だったのに、今ではすっかりと主役だ。
「ん? もういいのかい?」
「ひゃぁっ!? お、皇子……!?」
頭の上から降ってくる低音にジータの心臓と身体は縮み上がる。油の足りない機械のようなぎこちない動きで顔を上げれば、肘枕をしているベルは面白いものでも見ているかのような微笑を浮かべていた。雰囲気や声の調子からして怒ってはいない様子。
それでもジータは今すぐこの場から逃げたい衝動に駆られる。性欲という怪物に惑わされてなんてことを!
「そんなにぷるぷるしちゃって。愛玩動物のように可愛いなァ」
「……ごめんなさい! き、気持ち悪いですよね。どうかしていたとはいえ、寝ている人にこ、こんなこと……! 変態だ、私……」
彼と目を合わせることができない。頭が真っ白になるとはこのことか。ジータは涙目になってベルからの審判が下されるのを待っていたが、彼は軽快に笑うとジータの頭を撫でた。
「キミが変態だって? ならキミとの授乳プレイを寝たフリをして楽しんだ上で、勃起までしているオレはどうなるんだ」
「あっ……!」
ベルはジータの片手を取ると服越しに下腹部へと触れさせる。そこは腫れ上がって硬度があり、脈打つのも感じ取れた。
「愛しい妻が隣に寝ているってのにナニもせず、毎晩一人で白い涙を流していたんだ。……もう、進んでもいいって──思っていいのかな?」
肘枕をしていた腕をベルはジータの頭の下に滑り込ませ、引き寄せる。胸の高鳴りにジータの頬は沸騰したかのように朱が差し、体温も上昇していく。
馬鹿になってしまったように鼓動を刻む心臓に少し苦しさを感じながらも、ジータはベルを抱きしめた。それは無言ながらも明確な答え。
「あの戦いで皇子が私にとってどれだけ大切な人かを思い知ったんです。あなたが死んでしまうかもしれない。そう考えただけで……」
その先の言葉は出ることはなかった。
ベルがジータに覆い被さり、口付けたからだ。間近にある豊かなまつ毛に縁取られた赤い瞳が見つめるのは自分だけ。そう考え、羞恥心からジータは目を閉じる。
ベルから送られるのは互いを確かめ合うような、重ねるだけのキス。決して回数は多くないが、何回かはしたことがある。
けれど今回のキスはこれだけでは終わらない。ベルの舌先がジータの唇をノックすれば抵抗なく口内へと受け入れられる。
「んっ……ふ……」
未知の快感にジータの緊張感が緩んでいく。強ばっていた身体はベッドに沈み、ベルの片手と重なっている手は彼を求めるように握られる。
口の中をマーキングするように丁寧にねぶられ、ベルの動きに合わせて身体が震えてしまう。さらにはヘソの下辺りが収縮するような感覚と、秘処が甘い疼きを訴える。
「んふぁ……ぁ……」
熱に浮かされながらも開眼すれば緋色の両眼がこちらをずっと見ていた。なぜだろうか。彼の目を見ていると身体に性熱が広がり、性行為に積極的な気分になってくる。
舌を出してというベルの指示に従い、ジータは恥じらいながらも舌を伸ばす。するとベルの舌も同じように伸ばされ、互いを求めるように様々な角度から絡められる。
口の中の愛し合いは見えなかったが、こうして可視化されるとなんて卑猥なのだろうか。彼との触れ合いに膣内が決定的な快楽を求めて蠢く。するとジータの気分を察したのかベルの片手がロングネグリジェの裾から入り込み、ジータのなめらかな肌を丁寧になぞりながら上へと移動する。
途中で指がショーツの中心を掠め、刹那的な悦楽にジータはベルの身体の下で大げさなほどにその身を跳ねさせた。
けれど彼は一番触れて欲しい場所には触れず、ジータの乳房を包み込む。男の大きな手にフィットする実り。尖端を人差し指で軽く潰されると、微弱な電撃が走った。
「はぁん……っ、胸ってこんなに気持ちいいの……? ぁん、ン、んっ……」
「男も女も、そこは性感帯の一つなんだ」
「じゃあ……さっき……」
「そう。感じてた」
「あぁ……っ!」
親指の腹を使って左右に弄られれば切なさがより一層強くなる。弱いか強いかで言えば前者だが、弱いからこそもっとベルが欲しくなり、ジータは雄を誘うように腰をくねらせた。
するとベルはネグリジェの裾を捲り上げ、それは脚から腹部へ。ついには胸まで露出させ、最後は脱がせてしまう。ジータはそういうコトをしている最中とはいえ、まだうら若き乙女。恥ずかしさから両手で胸を隠す。
「オレも脱ぐから、キミも見せて」
ベルは起き上がると緩く着ているガウンを肩から落とし、上半身裸になった。薄暗い部屋に浮かび上がる白磁の肌は筋骨隆々で思わず見惚れてしまうほど。
丸みを帯びた膨らみはどこか優しさを感じるが、少し視線を下に向けた先にある腹部は幾つにも割れていて男らしい。
そもそも男の裸などまともに見たことはないが、それでもベルの無駄のない肉体は至上の美なのだとジータは考える。
本当にこの人は人間なのだろうか。そう思ってしまうくらいに。
「さあ、ジータ」
落ち着いた声で囁かれ、ジータはようやく胸を遮る腕を開く。現れた乳房はみずみずしい実り。可愛らしい桃色の乳暈に囲まれている花蕾はすっかりと凝り固まっている。
ベルはおもむろに片手を伸ばし、触り心地を確かめるように指を白桃に沈ませれば共鳴するようにジータの身体が震えた。
力を入れたり、抜いたり。揉まれるだけで遅効性の毒のような快楽が身体中に広がり、生まれたときから空いたままの穴からはなにかが溢れてショーツをしとどに濡らしているのをジータは感じ取る。
「あっ、んん〜っ……ひゃぅ!」
片方の胸に触れたままベルが屈み込んできた。すると軽くとはいえ口の中に乳首を含まれ、尖らせた肉厚な舌で押し潰され。さらには先ほどジータがベルにしたように胸の飾りを吸い上げてくるではないか。
唾液を纏った触れ合いは蕩けるような快感電流を感じさせ、ジータは甘い声を上げる。それはベルの口の動きに合わせて勝手に漏れてしまい、彼が奏者で自分が楽器になってしまったような気分だ。
「おうじ……」
「ん? あ〜……フフ。物欲しそうな目をしちゃって。またオレの胸を吸いたいのかい?」
吸うのをやめ、顔を上げたベルは面白いものを見るような表情。薄く持ち上げられた唇の隙間から発せられた言葉にジータは視線を逸らしつつ、頷く。
ベルに吸われていると先刻のことを思い出してしまう。なにも出ないのは分かっている。だが吸っているだけで……全ての不安から解き放たれるような不思議な感情が支配するのだ。
「吸ってもいいよ。けど“ベルのおっぱいを吸わせてください”って言えたらね?」
瞬時にジータの顔が茹だる。けれど痴情に溺れている今の彼女には言わないという選択肢はない。涙の膜が張った両眼を数回瞬かせ、その小さな口でベルの望む言の葉を紡ぎ出す。
「べっ……ベルの、おっぱい……を、吸わせてっ、ください……!」
零れる涙はジータの必死さを物語り、ベルは満足したのか慈愛に満ちた眼差しと微笑みを浮かべるとジータの横に寝転ぶ。
そう。母親が赤子に添い乳をするように。
ベルの片腕がジータの首に回され、胸に引き寄せられる。目の前の乳種は興奮からすっかりと勃ち上がっており、いざなわれるようにジータは食んだ。
舌で硬い感触を味わい、出ない母乳を求めるように何回か口をすぼめれば、回されている腕があやすように頭部を撫でた。
今までは姫として気丈に振る舞ってきたが、年上の男性である彼が甘やかしてくれるとそれに身を委ねたくなる。そんな不思議な魅力がベルにはあった。
「はぅ……! お、皇子っ、そこはっ……」
ベルの自由な方の手が胸から撫で下がり、くびれを指先でなぞるとその手は今のジータに唯一残っている布の中へと侵入する。
濡れている割れ目へと骨張った指が伸び、膣前庭を行ったり来たり。中に指は入れられてないが、自分でもまともに触れることがない場所にベルが触れているという事実に気持ちよさと恥ずかしさが綯い交ぜになってジータを襲う。
「指で慣らさないとオレのは挿入らないぜ?」
「あ、あぁ! そこっ、だめぇっ……! あッ!」
喉の奥で笑うように口にしながらベルは淫裂の上部にある珠を人差し指と中指で円を描くように撫で転がし、ジータは痺れるような悦に悲鳴を上げる。
今までとは段違いの快楽に脚の内側に自然と力が入り、小刻みな震えが止まらない。触れられている場所が張り詰め、今にも弾けてしまいそう。
この欲望が解放されたらもっと気持ちがいいのだとは思うが、もう少しクリトリスの快楽を感じていたいという気持ちもある。けれど、我慢なんて到底できっこない。
「ン〜ン〜。気持ちいいねぇ? 一度達しておこうか」
「ぁんっ! はっっんっ、だめっ、きちゃうぅ……! あぁん! やっ、ぁぁッ……!」
這い寄るエクスタシーに若干の恐怖を感じてベルに抱きつく。温かな胸に顔を押し付けたところで股間から病みつきになってしまうような電撃が走り、いわゆる絶頂を迎えたジータは男の腕の中で愛おしく身体を揺動させる。
「はぁ……はぁ……」
「イくのは初めて?」
ベルの問いにジータは言葉の代わりに首を縦に動かすことで肯定した。
「……そう」
「あっぁ、皇子、いま敏感になっ、ひゃぅぅ!」
白魚の指が再び淫楽器を奏で、内部に指が入り込む。ふと、視線をそこへと向ければいつの間にかショーツは脱がされて全裸状態。昇天してぼうっとしている間に下ろされたのだろう。
「相変わらず狭いなぁ……」
「皇子……?」
中指を挿入し、膣襞をなぞりながらの呟きに妙な違和感を感じて声をかけるも、ベルお得意のアルカイックスマイルで誤魔化される。
「ほら二本目。結構すんなり挿入ったな」
内部に入り込む人差し指にジータは苦しさを感じながら顔をベルに寄せればぷるりとした胸が頬に当たる。
そういえば皇子は胸を吸われて気持ちがいいと言っていた。ベルにも気持ちよくなってほしい。
奉仕精神と単純に自分の全てを受け止めてくれる大きい膨らみを吸って安心感を得たいという欲望が湧き上がり、ジータは自らを惹き付けてやまない薄桃を大口を開けて食べた。
「んっ……んちゅ……ん……」
「っフフ、くすぐったいな。そんなに吸っても母乳は出ないぜ? ジータ」
倒錯的な行為だというのにベルは嬉しそうに笑い、ジータの内部を拡張するかのように二本の指を開閉させる。空気と粘液が混ざり、粘った音を立てながら指の腹で女の弱点をこすられると身体の輪郭が溶けてしまいそうなくらいに気持ちがいい。
高まる興奮に合わせてベルの乳首を吸う行為は舌先で尖りを押し潰したり、軽く歯で噛んだりと淫らなものへと変わっていく。
胸を吸われているベルももっとくれと言わんばかりにジータの首に回している腕を自分の方へと引き寄せ、時折甘い声を出して雌を高揚させる。
上の口からは興奮に濡れた呼吸、下の口からは洪水のように溢れる蜜液をかき混ぜられる音を出しながらジータは甘い行為に堕ちていく。
「そろそろいいかい?」
そう言ってベルは膣から指を抜き、起き上がる。口から離れる乳突起にどこか寂しさを感じつつも、ジータは脚の間に身体を割り入れるベルと向き合う。
「あっ、ぁあ……! そんな、恥ずかしい音立てないでぇ……!」
「フフ。処女だってのにもうココはオレを受け入れる準備が整ってる。……オレのことが本当に大好きなんだねぇ? ジータ」
赤く熟れた肉貝を人差し指と中指をくっつけた状態で触れる。くちゅ、と卑猥な音を鳴らすと、もっと聞きたいと言うように左右に細かく揺らす。
ベルが指を動かす度にジータのアソコからは濡れた音が規則正しく鳴り、恥ずかしくてたまらないのに身体は熱くなるばかり。
(私のアソコ……皇子が見てるっっ……!)
夜の闇を受けて妖しく輝く赤い宝石。それが向けられるのは自分の身体で一番恥ずかしい部分。己でさえまともに触れない場所を、生まれたままの姿にされた上で凝視されている。
目を閉じてしまいたいのに、彼の顔から目を逸らすことができない。
「んっ、んぅぅ! そこ、ビリビリってぇ……!」
彼の指先が少し上にズレたと思った瞬間。痺れるような気持ちよさが走る。いやらしく揺れる身体とジータの悶える顔にベルのえくぼが深くなる。
「キミは性に関して無知だから、少しお勉強。ここはクリトリスといって、快楽を得ることに特化した器官。さあ、言ってみて。ここはなんていうトコ?」
(皇子の目が光った……?)
そんなような気がしたが、深く考える前に口が勝手に動いてしまう。まるで彼の魔力に操られてしまったように。
「クリ……トリス……。気持ちよくなれる場所……」
「よくできました。軽く指が当たっただけでも病みつきになるくらいイイ場所だろ? そんな場所に直接触れたら、どうなるんだろうな?」
「……? はぅぅんっ!? そんな、皇子、だめ……きゃふぅぅぅっっ!!」
上体を屈ませるベルの行動をボーッと見ていたジータだが、その美しい顔が近づく先を見て慌てて声を上げるも、彼の顔が恥丘に埋まるのが早かった。
ぬるりとしたモノが快楽の種に触れたと思えば、ふにゅっとした柔らかいなにかに食まれる──唇だ。唇に挟まれた小さな豆が吸われている。
不規則な動きで吸引し、舌先を押し付けるようにして舐めるとジータはいい声でひっきりなしに啼く。
「あっ、ぁああ……! おう、じぃっ……!」
快楽痙攣が止まらない。気をしっかりと保っていないと呂律すら怪しくなる。快楽を得やすい場所……こんなにも気持ちのいい場所なのかとジータは驚く。
白く柔らかな身体がぶるぶると震え、魅力的な二つの膨らみが重たそうに揺れる。
(そんなっ、初めてなのにぃっ……!)
初めてなのにソコを舐められるなんて恥ずかしすぎる。こちらはいっぱいいっぱいなのに、快楽地獄にでも落とすつもりなのか。この人は。
それほどのぬめり快楽。ジータは浅い呼吸を繰り返し、両手で握るシーツには深い皺が刻まれている。
華奢な身体をビクビクビクッッ!! と顫動させ、強すぎる悦から逃れようと腰は引けてくるが、ベルが太ももを抱え込むようにして引き寄せたため、離れることはできず。
蜜口を舌でくるくると舐め回されるとくすぐったさと一緒に虜になってしまいそうな痺れが広がり、これ以上は駄目。やめてもらわなくちゃ……とぼんやりと考えた頭は身体に命令を下し、ジータの両手は乙女の秘められた場所に顔を深くうずめる頭部へと伸びる。
柔らかな髪に触れる手。するとベルは新たな試みへと移行する。
「ひぁ、あ……っ!」
生まれたときから空いている女の子の穴。小さな場所から溢れる蜜の源泉へと向かって侵入するなにか。
指のような硬さはない。しなやかな動きで肉襞の溝と溝の間を丁寧になぞり、指とはまた違った快楽に早々に堕ちてしまう。
(ぁ……! 舌、舌がっ……私のあそこに……!)
理解はしたものの、ジータはやめてくださいとは言えなかった。
初夜でここまでされるのは恥ずかしい。恥ずかしい……が、内部を蠢く感触は手放すには惜しく、そんなところまで愛してくれるなんて自分はどれだけ大切に想われているんだろうと嬉しくなるのだ。
その証拠にベルの髪を掴む手はもっととおねだりするように股間に男の頭を押し付ける。もちろんジータがそれに気づくことはない。
「ぁ……あっ! ふっ、あぁぁっ……!!」
脳へと駆け抜ける淫乱刺激。潤む視界の端にきらりと散り始める星の欠片。じっくりと味わうように身体のナカを這いずり回る男の舌に小柄な肉体はぷるぷると愛おしく振動する。
(うっ、くぅぅ……! もうだめっ……気持ちよくて、また……っ……!!)
再びの絶頂の気配。あの開放的な快感を思い出して期待に胸が膨らむ。積極的に気持ちよくなりたいと思うなんて……と恥じる心はあるが、欲しいものは欲しいのだ。
ジータはベルに導かれるまま、また一つ大人の女へと開花をするかと思いきや。
「ぁ……」
あと少しでイく──というところで止む快楽。
寸止めされたジータは困惑の瞳で下半身を見れば、ベルが顔を上げて半身を起こしているところだった。
その顔には悪戯っぽい笑みが浮かんでいる。
「どうして? って顔してるぜ? ジータ。フフ……。オレの頭を押し付けておねだりするキミは悪くなかったよ。でもこの先はオレ自身で」
彼はガウンの腰紐をほどき、ジータと同じように生まれたままの姿へ。見えるようになった局部は赤黒く、そして巨大。あれが今から自分のナカに入るのだと思うと、少しだけ怖くなった。
「怖い?」
「……少しだけ。だってそんなに大きいなんて思わなくて」
苦笑すれば、彼は口元をカーブさせつつ片手を握ってきた。当然のようにジータも握り返す。不思議とこうしてベルに触れているだけで挿入への緊張と若干の恐怖は軽くなった。
「皇子……」
「ベルって、名前で呼んでほしいな。異形の竜からオレを助けてくれたときは呼んでくれただろう?」
「……ベル。あなたが、欲しい」
愛しい皇子を求める言葉を口にすると、彼は妖艶に微笑みながらカウパーで光るペニスを手に取り肉穴へと近づける。
亀頭部分が侵入し、閉ざされた門をこじ開けようと前進してくる。徐々に腹部の苦しさが増し、目を閉じて小さく喘ぐと乙女の証が破られ、結合部から少しの血が流れた。
痛みはある。だがそれ以上にベルに初めてを捧げられたのが嬉しい。
開眼すれば、ベルはこちらを見つめて温厚な笑みを浮かべていた。
「フフフ……これで二度目の処女喪失だねぇ? ジータ」
「なに、を……? 私は、これが初めてで……」
甘い雰囲気が怪しさを纏う。緩く笑う彼の笑みは見慣れているはずなのに、なぜか怖い。彼はなにを言っているのか。
「そうか。ルシフェルは忌まわしい記憶を消し、身体も清らかな状態に戻したと。……ハッ。公明正大、無私無欲なあの男が随分と人間に肩入れする。それほどお気に入りというワケか」
「ひッ……!!」
ベルの肉体からは禍々しく鮮烈な赤い光が溢れ、身体が変貌していく。片目は黒く染まり、顔や腕、胸におぞましさを感じる紋様が浮かび上がる。全体の筋肉量が増え、膣内に迎えた男根がさらに膨れ上がった。
下腹部の一点がいびつに盛り上がる。それが彼のペニスの大きさを物語っていた。
最後には捻くれた巨大な角が頭部から生え、まさに“悪魔”という名がふさわしい外見へとベルは姿を変えた。
「どういう、ことなの……!? ッ、頭がっ……!」
おそろしい姿に驚愕するジータを激しい頭痛が襲う。目をきつく閉じて痛みに呻く彼女に対して悪魔は顔を寄せ、悶える様子を近い距離で見つめる。その口は邪悪に吊り上げられ、ついさっきまでの穏やかな笑みが嘘のようだ。
「うっ、うぅぅ……!」
封じられていた記憶が一気に解放され、洪水の如くジータを飲み込む。欠落していた記憶が次々と再生され、その内容の恐ろしさに本当に自分が体験したことなのかと疑ってしまう。
悪魔との戦い、敗北、瀕死の果てにこの身を辱められ──。
「──ッ!」
「おっとぉ……間髪を入れず前回のようにオレの首をふっトばそうとするとは。なんて勇敢な戦乙女なんだ。けど残念。キミの魔力は制限してある」
左手で男の顔面を掴み、ゼロ距離で魔力を放出しようとしたジータだが、内部に宿る魔力を体外に出そうとした途端、絡まった糸がほどけるように力が消えてしまう。
なくしていた記憶を全て思い出した。自分が剣を握れなくなったのも、悪魔とのおぞましい体験を身体が覚えていたからだ。
「くっ……うっ……!」
顔に触れている手のひらを生温かいモノが舐め上げ、手首を掴まれ離される。ジータも女の中では力が強い方であるが、かつて敗北した相手からすれば赤子の手をひねるに等しい。
さらに彼はジータの薬指に光る指輪に口付けた。
結婚式にベルから貰った大切な指輪。思えばその頃から魔力の不調を感じるようになった気がする。また、会話の内容や彼の行動からして原因が指輪なのは明白。
「ッ、こんなものっ……! は、外れない……!?」
指輪を外そうとするもビクともしない。まるで指と一体化してしまったかのよう。
「オイオイ、せっかくのウェディングリングなのに外そうとするなんて酷いなぁ」
こちらをあざ笑うような口調にジータは打ちのめされる。過ごした日々はまだ浅いとはいえ、その短い期間の中でベルに強く惹かれ、心の底から一生を誓ったというのに。
「ぜんぶ、全部ウソだったの……? 私に優しくしてくれたのも……。私はっ、本当にあなたを愛していたのにっ……!」
「ああ、それは嘘じゃないよ。……キミがそう望むのなら」
にっこりとしながらなんて残酷なことを言うのだろうか。心に亀裂が入り、ガラスが粉々に割れるような音が聞こえたような気がした。
「……あああああっ……! なんで、どうして私なの……! あなたにとって私はただの人間でしょう!? どうして、私に執着するの……!」
「そうだなぁ……。最初は風の噂でキミのことを聞き、軽く遊んでみようと思っただけなんだが……これが遊びに収まらなくてね。ほんの少しだけ本気を出すハメになった。このオレが、人間の小娘相手に」
最後の言葉は信じられないという感情が読み取れた。
「それに──まさかあそこでルシフェルが来るとは思わなかった」
「なに言ってるの……? ルシフェルって、神界にいるとされる天使長の……?」
ジータは悪魔に蹂躙されたときの記憶を回顧する。途切れる意識の中、微かに見えた白い羽の男。あれが天使長なのか。
ルシフェルの存在は語り継がれてはいるが、今の時代にその姿を直接見た者はまずいない。伝説上の存在だ。
「そう。キミも知ってるだろ? この世界には神やその眷属が住まう神界。人間が暮らす地上。悪魔や怪物、堕天使たちが蔓延る魔界があることを。神界に住まう神の眷属、天使たちの長がルシフェルだ」
ジータも三世界のことは知ってはいるが、それだけ。気が遠くなるほどの大昔に天使と人間が力を合わせて魔物たち……魔族と戦ったことがあるというが、当時の記録はほとんど残っていない。
今の時代、一部の魔物は地上で独自の生態系を築いて見慣れた姿になったが、天使の姿は見たことがなく、その存在自体を疑問視する声もある。
「通常、死した人間のアニマは輪廻転生の輪に組み込まれるが生前の善行や能力によっては神界へと導かれ、神に仇なす敵と戦う天使として迎えられる。キミもそうだろう」
「ぁ、やだっ……! 動かないで……っ!」
上半身を起こし、涼しい顔で語るベルにジータはすっかりと忘れていた。彼の肉棒が挿入されていることに。
それを思い出したのはベルがジータの両手首を掴んで下腹部で固定し、腰を揺り動かし始めたとき。ジータの両腕に挟まれ強調された乳房が上下に大きく揺れ、それが抽送の激しさを物語る。ベルの陰茎の大きさゆえに内臓がひっくり返りそうだ。
「キミは強い。何十年も先だろうが、いずれオレたちの敵になる。なら……天使よりも先にこちら側に堕としてしまえばいい。個人的にもキミのことは好ましく思っているんだ。本当だぜ?」
「やめてっ、抜いてぇっ……! 嫌なのに、はぁんっ、嫌なはずなのにぃ……! 誰かっ、助けて……!」
「誰も助けになんて来ない。二度目があると思うなよ?」
目の前の男は温厚な仮面が剥がれてもなお、ベルなのだ。女として心を許した相手を完全に拒絶はできないのか、身体は素直に快楽を拾い始める。
貫かれる度に股間から全身へと甘い悦楽が広がり、雌の声が出てしまう。ベルもジータの様子や暴れる白桃から目を離さずに摩擦快楽を楽しんでいる。
「はぁ……ルシフェルがキミを特別視しているせいか、当時のキミの周りには天使たちの監視の目があってね。ユルくなった頃合いでオレのテリトリーにキミを誘い込んだのさ。気配を消し、人間のフリをするのも大変だよ」
「んっ! んぅッ! 皇帝には、顔は見たことないけど確かにご子息が一人いた……! その人の代わりに皇子として振る舞っていたというの……!? なんらかの魔法で周囲を騙していた……?」
「この国の人間たち並びに王族と関わりがある他国の人間には常識改変の魔法をかけた。だからこそ見知らぬ男が皇子と名乗っても違和感なく受け入れた。なぜなら魔法をかけられた者たちの中では、オレが皇子ってことになっているからなァ」
「そんなっ……! この国だけでも規模が大きいのに、他国の人まで……!?」
簡単なことだと告げるような口調にジータは戦慄する。この男は今まで自分が倒してきた魔物たちとは比べるのもおこがましい程に異次元の存在なのだと。
「それだけじゃない。天使たちの邪魔が入らぬよう、この国には結界が張ってある。仮に今オレが気配を全開にしてもすぐには駆け付けられないさ」
「……!!」
絶望。まさにその二文字が脳裏に浮かぶ。あのときはルシフェルが助けてくれたが、今の状況では無理だろう。
ジータ自身がどうすることもできないのだ。仮に城の誰かが助けに来ても、それは殺されに来たのと同義。
「絶望の闇に呑まれるキミの顔、最高にソソるよ」
「いやっ! いやぁぁっ! お腹っ、苦しいよぉ……!」
泣きながらやめてと訴えるジータだが、悪魔がやめるわけがなく。正常位で繋がっている身体をひっくり返してうつ伏せにし、臀部を持ち上げ突き出す態勢にすると俗に言うバックの形にして突き続ける。
悪魔の指の間にはジータの尻肉が盛り上がり、背後から獣のように犯すと結合部からは愛液が噴き出す。
「あっぁ、ぁっ! 壊れちゃう……! やめてよぉぉっ!」
「嫌がるクセに絡みついて……ふぅ、オレのザーメンねだって搾り取ってくる。なあ、口では嫌がってはいるが本当は気持ちいいんだろ? 突く度に痙攣してるぜ、キミの膣」
「ち、がう! 気持ちよくなんかっ、気持ちよくなんかぁッ!」
枕に顔を押し付けながらジータは激しく否定する。違う。気持ちよくなんかない。こんな最低な行為に感じちゃ駄目なんだ。そう自分に言い聞かせるように。
だが肉快楽はジータを逃してはくれない。より深く挿入され、カリが内部を抉って終わりのない快楽の坩堝に堕ちていくばかり。
大量に分泌される愛液も肉棒ピストンによって弾け、シーツに淫らな染みを幾つも作っている。
腹奥に猛りを押し込まれるのに合わせて勝手に出てきてしまう嬌声は、ジータの精神を確実にすり減らしていく。
「なあ、聞いてくれ。キミと初めて姦淫したそのときから、オレはキミのことを忘れられなくなったんだ。強い上にこんなにも身体の相性が抜群な人間がいるなんて。まるで運命みたいにさっ……!」
ジータの柳腰を掴みながら腰を振る男の額にはうっすらと汗が浮き、呼吸も速い。肌と肌がぶつかる音の間隔も短くなってきた。
粘膜越しに感じるペニスの脈動。それが示すのは絶頂の気配。
「やだぁっ! 中には出さないでっ、イヤぁぁぁぁッ!!」
「そんなに嫌がらなくてもいいだろぉ? 姿は違えどオレはキミの愛した“ベル”に違いないんだから」
「っふ……ううぅっ……!」
子宮に向かって流し込まれる汚染液をありありと感じてジータは嗚咽を漏らす。男も頬を上気させながら烙印を押すように腰を何度も深く押し付け、子種を送り込む。
一度ならず二度も悪魔に初めてを奪われるなんて。さらには心から信頼していた人物の裏切りにジータの精神は疲弊を極めていた。
ようやく内部から男が去ると雌と雄の体液が混ざり合い、濡れに濡れた割れ目の中心からは白濁が溢れ漏れ、シーツにまで垂れている。
「ベル……」
男によって再び身体を反転させられたジータは仰向けの状態になった。完全に光を失った目で小さく呟く言葉はしっかりと悪魔の耳に入り、彼は今までの乱暴な行為が嘘のようにとびきり優しく笑み、ジータにキスを落とす。
「オレの本当の名前を教えてあげるよ。オレの名前はベリアル。神に反旗を翻し、天から堕ちた堕天使」
「ベリ……アル……」
「さて。邪魔が入らないうちに行こうか。なに、悪いようにはしないさ」
心身ともに疲れ果てたジータをベリアルは横抱きにし、ベッドから下りると魔力を行使した。すると、なにもない空間が裂け人ひとり通れるほどの穴が開く。
どこまでも続く闇の中にベリアルは向かい、ジータの目の前も意識の混濁に合わせて黒一色に変わる。
この先に待っているおぞましい未来を覚悟し、最後に想ったのは弟であるグランと親友のルリアの姿だった。