「なあ、キミ。知ってるか? 今日の二十一時から明日の午前三時までは“性の六時間”と呼ばれているんだ」
「へぇ……。初めて知った」
「今頃キミの知っている奴も恋人とセックスしている頃だろうさ」
「それが私の上に乗ってる理由? しかも寝込みを襲うなんて」
「ウフフ……たまには下になるのもいいと思うぜ?」
クリスマスイブ。家族や恋人がいる人たちならば一緒に温かい時間を過ごしている頃だろうが、ジータは独り暮らし。母親は数年前に亡くなり、父親は冒険家でジータが幼い頃から行方不明。親友のルリアは冬休みに入るとすぐに家族旅行。
独りの時間には慣れているが、特に起きていてもすることがないので早々にベッドに潜り込んだのが一時間ほど前。早すぎる就寝だが、問題なく夢の世界に旅立っていた──が。
肌寒さと妙な重さを感じたジータが覚醒すれば、赤黒い角を頭に生やした美しい悪魔の姿があった。
掛け布団をどかし、ジータに馬乗りになっているこの男の名前はベリアル。魔界の王である悪魔ルシファーの右腕でNo.2の悪魔なのだが、魔法の失敗で男性器が生えてしまったジータがその処理のためにサキュバスを召喚しようとし、間違えて喚んでしまったのだ。
最終的にジータの魔力がこもった濃厚な体液を胎内に注がれすぎて魔力の許容量を超えてしまい、気絶したこの男。その一件からジータの魔力を大層気に入ったようでたまにこうして姦淫を迫ってくるのだ。
最初はむやみに交接を繰り返すのを躊躇っていたジータだが、なんだかんだいってベリアルが善がり狂う姿は見ていて楽しい。
なので今では余程のことがない限り相手をしていた。
また、魔力の礼としてベリアルはジータに力の扱いかたや魔法を教えたりしていた。膨大な魔力を秘めながらもその力を扱いきれていないジータにとってベリアルは良き先生だ。
普段はベリアルの魔法によって男性器を生やしたジータが彼を抱くのだが、淫乱なこの悪魔も男。たまには上に乗ってジータを啼かせたいのだろう。しかし、ジータの反応は鈍い。
おそらく他の女──もしくは男ならば美しい顔が目の前にあり、たくましい体を持つ悪魔に堕ちてしまうが、ジータは違った。ベリアルを召喚したときもそうだが、彼女がベリアルに組み伏せられて心を躍らせることはない。
「うーん……やだ」
「人の胸を揉みながら言うセリフかい……?」
「ねえ、あなたってやっぱりインキュバスなんじゃない? なんだか見ているだけでいじめたくなるんだよね」
「んっ……」
片腕を支えにしながら体を半分ほど起こしたジータはベリアルを腹部に乗せたまま、はだけたジャケットの下にある膨らんだ胸に手を伸ばす。女性と同じとはいかないものの、男性の中では大きいベリアルの胸。
見た目からは硬そうに見えるが、触れれば思いのほか柔らかく、愛撫するように揉めばジータの頬の血色がよくなる。ベリアルもどうしてもジータを組み敷きたいわけではないようで、されるがままだ。
その様子を見てジータはやっぱりね。と、内心呟く。
この男はジータも想像できないほどの力を有しており、本当に抱きたいのならば力ずくでもできるし、魔法を使えば簡単に都合のいい女に堕とせる。
だがそうしない。つまりはどちらでもいいのだ。彼は男にもなれるし、女にもなれるのだから。
ベリアルのみ作用するサドのスイッチが入ったジータは、色欲にまみれた悪魔の胸を思うがままに弄りながら机の上に置いてあるデジタル時計を見遣る。
表示は二十一時を少し過ぎた頃。性の六時間の終わりまでだいぶあるが、明日も特に予定はない。思い切り楽しもうと心に決めた。
「よし」
「……オレを拘束してナニするつもり? SMプレイをご所望?」
「SMプレイ? はよく分からないけど、時間はたっぷりあるし楽しもう? ベリアルも気持ちイイこと大好きでしょ?」
ベリアルの上着を脱がせたジータが指を鳴らすと、彼の腕が真っ直ぐに伸び、空間の高い部分で見えないなにかで固定された。
上に引っ張られたことでベリアルは膝立ちの状態になり、体の自由を取り戻したジータは彼と同じように膝で立つと上から下へじっくりと眺める。
頭突きでもされたらひとたまりもない太い角。無駄な筋肉がない体に邪悪な紋。きっと人間界で彼よりも美しい存在はいないのだろうなとジータは熱い吐息を漏らす。
他人に対しては性的な感情は一切と言い切っていいほどに湧かないのに、ベリアルだとすぐに欲が生まれてしまう。
無いはずの陰茎が、熱くなる気がした。
正直このまま生やして獣のように穿ってもいいのだが、それではあまりにもつまらない。なのでゆっくりと気分を高め合うことから始めた。
黒色のシルクのパジャマから伸びる白い手が男の両頬を包み、繊細な親指が軽く撫でる。なめらかな感触に蒼い目を眇めると、色づきのいいベリアルの唇にふにゅりと押し付けられるジータの赤。
ベリアルの口内に招待された少女の舌は大きな舌と絡み合いながら性感帯を優しく撫で、角度を変えながら貪っていく。
乱れる呼吸。犬のような息を繰り返しながら求め合い、飲み込みきれなかった唾液がボタボタとこぼれ落ちてシーツを濡らした。
ジータはベリアルとのキスにたまらなく悦を感じていた。脳髄がビリビリと痺れ、全身に広がっていく。下腹部も疼き、愛液が恥裂から滲む。だが求めるのは己のナカを満たす熱ではなく、偽りの性器を包み込む熱。
第三者には聞かせられない恥ずかしい音を立てながらベリアルを味わい、満足すると軽いリップ音を鳴らし、離れる前に二人が混ざって卑猥に光る舌で唇から鼻、鼻筋を通って額まで舐め上げた。
普段のジータからすれば下品だと顔をしかめるだろうが、一度切り替わってしまうとそういった理性のタガが外れてしまうのだ。
「ベリアル、あーん」
少しだけ伸びをしてベリアルの上にいるジータは彼の頬を包んでいる手を動かし、下から見上げる形にすると子供に向ける言葉を口にした。
大きく口を開けたベリアルの犬歯が鋭く光り、ジータは数回頬を動かすと舌を突き出し、雛鳥へ餌を与える親鳥の要領で己の体液をベリアルの口の中へと垂らす。
ツゥ……、と落ちてくる透明な蜜をベリアルは嬉しそうに受け入れ、最後の一滴が落ちきるまで大口を開けたまま。魔力のつゆを全て口に閉じ込めると味わうように噛み締め、飲み下した。
ジータの体液に含まれる魔力はベリアルにとって好物になっており、極上の魔の力が体に染み渡る感覚に艶やかな息を吐いた。
「ハァ……キミの魔力は何度味わっても飽きない。ほら、早くオレのナカにくれよ。キミもブチ込みたいって顔してるぜ?」
「だ〜め。それよりあなたの角、本当にふとぉい……♡ 禍々しくて、硬いし……♡」
「オイオイ、そんなところ舐めるなら、っ、ッ……! 下のほうをっ、可愛がってもらいたいねぇ」
「んん? 角も性感帯なの? 体が反応しているよ? ベリアル」
男を人外だと強調している捻くれた角。すっかり発情してしまったジータは上気した顔で角を優しく握り、舌を這わす。
特に味はない。ゴツゴツとした感触を楽しむように凹凸を丁寧になぞり、時折キスを交える。親指と人差し指で輪を作り、先端から通して扱き、赤黒い角を男性器に見立てて喋る彼女にベリアルは言葉を返すも、会話に詰まる部分があった。
その様子にジータはある答えにたどり着き、悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべると片方の角を口に咥えた。
先端が鋭いので気をつけながら舌を這わし、残りの角は手で撫でたり上下に扱いたりと普段とは違う快楽をベリアルに与えていく。
またベリアルもジータに会うとき以外で人間界に来るときは魔力を抑え、ヒトと変わらぬ姿をしているために角を責められるといった経験はなく、永い時を生きていて初めての感覚に呼吸が浅くなり、体が勝手に反応してしまう。
だが大きく動けばジータを傷つけてしまう。治癒の魔法ですぐ治るといってもせっかく温まってきた場の空気は一気に冷える。なのでキツく眉を寄せ、目を閉じて耐えていた。
けれどマゾの部分も持ち合わせる彼にとってこの時間はなかなかに“良い”時間だった。自分から見れば赤子同然の少女に囚人の如く腕を拘束され、いいように嬲られている。たまらなくマゾヒズムが刺激される。
「くっ……ぅ、はっ、あぁ……!」
「角フェラ、んふぁ、きもひいい?」
たっぷりの唾液で包み込んでいた角を放し、横笛を吹くように唇を側面に近づけると捻れに沿って舌で舐めていき、淫らな線が引かれる。根元に到着すると熱のこもったキスをし、また戻っていく。
「まったく、キミって子はっ、本当に面白い人間だ。魔界の奴らとソドミーしてっ……イラマのときに角を掴まれることはあったがっ、ぁ……こんな責めをされる日がくるなんてね……!」
ベリアル自身も想像していなかった体感にビクッ、ビクッと小刻みに体が揺れ、もどかしそうに腰を揺らす。彼のボトムの股間は膨張しており、窮屈そうだ。
なのでジータに前を寛げてほしいと頼むも、まだまだベリアルをいじめたい彼女は首を縦に振ることはない。
ベリアルの反応をじっくりと見ながら角を弄るジータ。たまに不意打ち的な責めかたをすれば大げさなほどに体が跳ね、それを見るたびに心が満たされる気がした。
あまり意識したことはないが、やはり自分の中にはサディズムが強くあり、ベリアル相手にはそれが強く表層に出てしまうのか。彼は人間ではないし、深層心理に隠された性癖をぶつけても否定することなく、逆に余さず享受してくれる。
ふと、ジータはそんなことを考えながら口淫をやめ、ベリアルの頭部から離れ、彼と向き合った。
ジータの口内分泌液で濡れた双角。目尻に溜まった快楽の雫。雪肌に映える頬紅。決定的な悦びを求めて潤んだ黒と赤。
ああたまらないと、ジータの中に突き上げるような激情が湧き上がり、興奮させる。その気になれば簡単に首を折ることができる力を持つ悪魔が人間の小娘に屈している。
日常会話に下品な言葉を織り交ぜながら話す彼を“変態”と罵ったこともあるが、これでは自分も彼と同じではないかと嘲笑すると、ジータは動き出した。
ベリアルの背後に回り、じんわりと汗を吸った黒いパジャマと、その下に着ていたタンクトップを脱ぐ。すると同年代の娘と比べると豊かに実った二つの果実が揺れながら現れた。
白桃の中心にある紅い尖りは、ジータの気分を示すように凝り固まっている。
「やっぱりこの姿だと筋肉すごいね。人間の姿をしたあなたも好きだけど」
「ハハッ……嬉しいことを言ってくれるじゃないかっ……! んぅ……ああっ、くそっ。焦らしプレイもいいがそろそろ……」
「まだダメ♡ ベリアルはよく知ってるでしょ? たくさん我慢したあとに解放する気持ちよさを」
大きな背中を触れるか触れないかの微妙なラインを保ちながら指先で撫で、ぴったりと抱きつくと甘えるようにうなじに唇を寄せ、両手は前へ。
「口開けて」
右手をベリアルの口へ伸ばし、人差し指と中指を唇に当てれば口を開けたベリアルの分厚い舌が迎えてくれた。指での疑似行為をさせるのかと思いきや、ジータは咥えさせた指で舌を押したり撫でたり、上側にある硬い部分をこすったりとまたやりたい放題だ。
分泌されるサラサラ液を大きな舌の上で指に満遍なく塗りつけ、濡らしていく。十分と思ったところで引き抜けば、その指が向かうのはジータと同じように硬くなったぷっくり乳首。
体液を塗り広げながらもわざと中心には触れない。そんな責めをしながら空いているほうの手は割れた腹筋をフェザータッチで触れ続け、たまにちょんちょん、と今にもはち切れそうな股間をつつく。そうすると詰まった声とともにベリアルがビクビクと反応し、手に滾りを擦り付けようと腰を揺らす様子がたまらなく愛おしい。
「うん。もういいかな。ズボン脱いだらそのまま前に倒れて、お尻を突き出して」
「フフフフッ……今日はドッグ・スタイルでヤるのかい?」
「まだ挿入はしないよ。それにしても綺麗な縦割れ……。女の子のおまんこみたい♡ 舐めてあげるね」
ベリアルにかけていた拘束魔法を解除し、次なるステップへ。ジータの命令に従い、ベリアルは体に纏う布を脱ぎ、裸になる。
下肢も太めで筋肉質。この長い脚で全力で蹴られたら即死、もしくは大怪我は必至。
尻を高く突き出して枕へと顔を沈めるベリアルはすべてを曝け出す獣の体位で始めるのかと問うたが、ジータは苦笑し、目の前の尻の谷間へと顔を寄せた。
肛門性交のし過ぎで縦に割れたアヌスはジータの言うように女性器と勘違いしてしまいそうだ。それなりに肉のついた尻に指を食い込ませながら掴み、ジータは雄膣の入り口を舌で軽く舐める。
人間で言うところの排泄穴だが、悪魔は排泄しない。なので使い込まれたソコはもはや性器と同義。ジータは特に嫌悪感もなく両手の指先で雌穴を開き、尖らせた舌を挿し込む。
「あ゛ァっ♡ 舌ッ、いい、そこぉっ……♡」
「んちゅ、ぢゅう゛ぅぅ♡ ナカ、柔らかいね。んふふ♡ コッチにぶら下がってるおっきいクリトリスも触ってあげる」
片手で門渡りや陰嚢を撫でながら向かう先はベリアルの長大。巨大な肉の塊は己のカウパーで黒光りしており、なかなかにグロテスク。
やっと触ってくれたとベリアルは枕に顔をうずめ、気持ちよさそうな声を上げる。彼の声は甘く蕩け、熱を孕んだ情事の嬌声は相手の気分を高揚させた。
──やっぱりこの男はインキュバスだ。
ジータの唾液で濡れた男膣をクンニしながら思い、亀頭を指先で軽く弄るとリングを作ってカリを引っ掛けるようにしながら責め立てる。
枕に向かって吐き出される声が荒いものへと変わり、吐淫の量も増えていく。ベリアルの怒張を弄る手ももう一つ増え、片手は先端部分。残りは竿と急速に絶頂へと導く。
「ッは、ぉ……ア゛ッ! ぁぐ、た……達す、」
「射精はもう少し待ってね」
「おォ゛ッ!? ハ……この期に及んでまだお預けかい……?」
もう少しで射精できるというところでジータはベリアルの分身を根元で強く握った。せき止められ、出ることの叶わない精液にベリアルは若干の非難の目を向けるが、ジータはやっていることとは反対に年相応の笑みを向けた。
「やっぱり一緒にイきたいなって」
「ウフフフフッ……! 可愛いところもあるじゃないか。オーケイ。なら……」
「今日は自分で生やしてみるから大丈夫」
首だけで振り返っているベリアルの右手の人差し指がジータの股間を指すが、ジータは自分でするからと止めた。生やしてもらうのもいいが、自分の力でも生やしてみたい。
ベリアルと出会わなければ男性器を生やす、という考えは生涯なかっただろう。パジャマのズボンと下着を脱ぎ捨てたジータは己の陰部に手のひらを当てると呪文を唱え、妖しい紫色の光があふれる。
クリトリスが大きく膨らみ、男性器と同じ形に変わっていく。丸みを帯びた玉袋も出現し、一分も経たないうちに立派な雄へと変貌した。
少しだけ計算外だったのは想像よりも大きくし過ぎたことか。普段ベリアルに生やしてもらうよりかも大きい。普通の人間ならばそのあまりの凶悪さに戦慄くが、悪魔は違う。
咥えがいのあるふたなり魔羅に紅い目はギラつき、口の端が吊り上がっている。
「おちんちん欲しい? ベリアル」
むっちりとした尻の間にある男陰に太幹をにゅこ♡ にゅこ♡ とこすりつけ、聞く。最上位悪魔相手にどこまでも優位であろうとする魔法使いの卵にたまらなくベリアルは気分が上昇し、乱れにみだれた雌のように両手で尻肉を掴み、くぱぁ♡ と広げ、腰を揺らして誘う。
「なあ、早くくれよキミのペニス。もう待てないんだ。見えるだろ? ナカが蠢くのがさ。ほら──んギィっ!?」
「あーーっ……♡ ベリアルのおまんこ熱くて、トロトロで、ほんとクセになるっ♡」
「あがッ、ぁ……!♡ このっ、盛りのついたメス犬がっ♡」
「ワンワン♡ ご主人さまのケツマンコとぉっても気持ちいいワン♡」
ジータのことを犬と例えるベリアルに欲望の渦に飲み込まれた少女はその例えに悪ノリし、鳴き真似をしながらバコバコと無遠慮に腰を打ち付ける。
まん丸の精子袋がベリアルの肌に当たり、乾いた音と交接部分の摩擦の湿った音が部屋に広がっていく。
男性らしい太い腰を爪が白くなるほど強く掴み、前立腺を抉るようにしながら激しく律動を繰り返せば濁点にまみれた喘ぎをベリアルは吠え、どちらが犬なのか分かったものではない。
「ベリアルってたぶん悪い子だけど……今回は特別♡ い〜っぱいプレゼントあげるっ♡」
「ひぅっ!? あっ♡ あ゛ァっ♡♡ ヤバイ、達する! 達するぅ!♡♡」
牝肉をほじくられ、それが男のイイところばかり狙ってきてそれだけでもベリアルはたまらないのに、一緒に昇天したいがためにジータは股ぐらで大きく揺れる彼の逸物を手にした。
もう焦らしたりしない。ベリアルの胎を突き破る勢いの抽送を続けながら鋭敏な場所を手で刺激し、二点責めを行う。
バチュバチュと粘った音を立てながら一心不乱に腰を振り続ければジータの魔力がたっぷり含まれた精液を得ようとした腸内粘膜が蠢き、肉棒は抗うことなく濃厚な白濁を流し込んだ。
「っう……! よかった♡ 一緒にイけたね♡ いい子いい子♡♡」
内部を満たしていく感覚やベリアルの肉茎から発射された熱い体液が手を濡らしていることにジータは喜びながら、汚れていないほうの手で暗い茶髪を撫でる。
彼からの反応はないが、ジータはまだまだこれからだと一旦引き抜けば、白い涙を垂らす雌肉。それが名残惜しそうに見えた。
「よいしょ……っと」
立ち膝の体勢からそのまま座り込み、背後からベリアルの手首を引っ張り、起こすと膝の上に乗せた。ずん、と成人男性の重さが太ももに乗しかかるが、その重量感がまた唆るものがある。
「次は……んぁっ、背面座位をお望み……?」
「うわ……すごいエッチな顔……」
振り向いたベリアルの淫紋が浮かぶ顔の赤。汗ばんでいる肌。涙の跡が残る目元に濡れた唇。なにより堕落した欲望に染まるその目がたまらない。
彼に向ける劣情はすぐに体現され、ビキビキと巨大な砲身が反り立つ。
あまりの色気に十年と少ししか生きていない少女のなけなしの理性は木っ端微塵に破壊し尽くされた。目尻を下げ、だらしなく開いた唇からは重苦しい吐息が漏れ、性欲に身を沈めたメスになってしまう。
少し腰を上げるようにベリアルに言い、肉欲が入る隙間ができるとジータは一気に穿った。内部の圧迫感に反る男の喉を後ろから抱きつく細い手が撫でながら第二ラウンドの開始。
「ぉ゛、ッッ……♡ さっき、より、ア゛っ♡ 太く、ンぁぁ゛っ♡」
「はっ、ん、ベリアルがっ! エッチなのがいけないんだよっ! 腰止まんない……! 体力には自信あるし、あのときみたいにまた気絶するまで魔力注ぎ込んであげるッ!♡」
「オレのせいかよっ、ひっ──あ゛ッ! んオ゛っ♡ お゛ほっっ゛♡♡ ふかっ、深いぃ゛ッ♡♡」
両者ともに軽い膝立ちの状態。ベリアルが前に倒れないようにしっかりとホールドしながらドゴッ♡ と重い突き上げをするたびにベッドのスプリングが軋み、その間隔の短さが行為の凶暴さを物語っている。
体を縦方向に揺さぶられ、ベリアルの男根も涎を撒き散らしながら暴れ狂う。
「私っ、わたしっ! もう普通の女の子に戻れないよぉっ!♡ ベリアルのお尻気持ちよすぎて離したくない! 挿入られるより挿入たいッ!」
以前のジータはいつか愛する人をこの身に受け入れるのだと思っていたが、ベリアルと出会って変わってしまった。女の悦びよりも男の悦びを先に知り、女を知るよりも男をずっと味わっていたいと思うようになっていた。
だが相手は誰でもいいというわけではない。一般から見れば異常性癖に該当するであろう欲望。受け入れてくれる人はいるとは思うが、ベリアル以上の男が浮かばない。
相手は悪魔で、こうして気まぐれにやってくる理由はジータの魔力が目当て。そこに愛なんてない。それでもジータはベリアル以外を選ぶことはなかった。
歪んでいるのは百も承知。だがこれも“愛”の一つ。絶対に想いは通じないけれど、いつか関係が切れるそのときまではベリアルを抱いていたい。
「あ゛ぁぁッ!! だめっ、射精ちゃうっ♡ ほらベリアルっ! あなたの大好きな私の魔力だよ♡ 全部、ぜんぶ、お腹で飲んでねッ!!♡♡」
「なっ、ま゛っ、んオ゛ォ゛ぉぉ゛っ! 魔力がっ♡ はッ゛ぁ、イグゥ! はっ……ア゛ぁっ! またクる゛っ! ぃギッ♡ イ゛クの、んォ゛っ、とま゛ん、ねえ゛……!♡♡」
*
「んぅ……」
少しばかりの寒さを感じてジータの意識は倦怠感が残りつつも覚醒していく。顔になんだかほんのりと温かいなにかを感じ、柔らかいそれは心地がいい。
重たい瞼をゆっくりと持ち上げ、薄い視界が徐々に明瞭となる。すると目に入ったのは厚い胸板。いるとは思っていなかった人物の存在に一気に目覚め、その場で顔を上に向ければ頬杖をつきながらお得意のアルカイックスマイルを浮かべている悪魔の姿。
己がどういう状況なのが理解が追いつかないジータは瞬きを繰り返すばかり。完全に固まって動けないでいる彼女がおかしいのか、ベリアルは目を閉じて喉奥で笑うとジータの髪を優しく撫で、一房手に取ると、パラパラと落としたりして弄ぶ。
「随分と遅いお目覚めだな? お姫様。もう昼だよ」
「あれ……? 私……」
「キミが眠っている間に魔法ですべて綺麗にしておいた。キミとの姦淫はホント……浄化魔法なしじゃできない。オレもキミも、どこもかしこも汚れてしまうからな」
意識が途切れる最後の記憶ではジータは裸だった。それなのにパジャマを着ており、体も汚れていない。また、ベリアルも上下ともに服を身に着けており、乱れ狂っていたあの姿はどこにもない。
眠っている間に魔法で綺麗にしてくれたことには感謝するが、どうしてもベリアルがいる理由が分からない。熱を交した翌日、目覚めればこの男はいつもいなかった。残っているのは行為の名残が取り除かれた清潔な体とベッド。そして微かに残る彼の熱と香水の香りだけ。それなのに、なぜ。
「オレがいる理由? いつもみたいに綺麗にしてキミの寝顔を堪能したあと、帰ろうと思ったんだが──キミが抱きついてきて“行かないで”と言うものだから、ね」
そんなことを言った記憶はないが、嘘でも本当でもジータはどうでもよかった。朝起きたら隣に誰かがいる。久しく感じられなかった温かさに胸が締め付けられる。
長い間独りで過ごしてきて、寂しさはなかった──と言えば偽りになるが、それでも慣れてはいた。だけれどプライベートの空間に心を許した誰かがいる、というのはやはりいいものだ。
「ありがとうベリアル」
花のかんばせを向けながら感謝すれば、まさか礼を言われるとは思っていなかったベリアルは目を丸くするが、ジータは体を起こし、カーテンが開け放たれた窓の向こうに目をやったので気づくことはない。
外は昨日までは曇りだった空から白い粉が降り続け、クリスマスを彩るのにぴったりだ。
「キミも起きたことだし、オレもそろそろ帰るよ」
「えっ……」
ジータの隣で横になっていたベリアルも起き上がり、帰ることを告げると、落胆の声。無意識の言葉にジータは口に手を当て、衝撃を受けているようだった。まさか自分が残念がるなんて、と。
目を合わせられず、俯く蒼い髪の少女を見てベリアルはため息を一つ。昨晩は思うがままに彼を甚振ぶっていたというのに、今の彼女はただの女の子。縮こまるその姿がいじらしい。
「神の降誕を祝う日なんてモノに興味はないが……イイ子にはサンタクロースって奴からプレゼントが貰えるんだったよな? ならオレの一日をキミにプレゼントしよう」
「ほ、本当? 本当に今日一日そばにいてくれるの……?」
安心させるように頭を撫でられ、ジータは探るような言葉と視線を投げかける。彼は普段から嘘と真を交えて話し、もしここで“嘘だ”と言われてしまったら心の回復まで日にちがかかりそうだ。
「疑い深いなぁ。少しはオレのことを信じてくれよ。それともキミは悪い子なのか? 悪い子にはプレゼントはあげられないな」
「いっ、いい子にしてたよ! たぶん……」
「ハハハハハッ! 絶対と言い切らないのがキミらしいな。オーケイ。今日の予定は?」
慌てていい子だと訂正するが、自分で言うのはなんだか恥ずかしくて謙遜の意味を込めて“たぶん”と付け加えた。あまりにもジータらしい返答にベリアルは大声で笑うと彼女の望む一日を問いかけるが、返ってきたのは腹の虫。
悪魔であるベリアルにとって物を食べるという行為は必要ないが、ジータは人間。激しい運動をしたので当然腹が空く。
恥ずかしさから顔を熟れた林檎色にして下を向くジータにまずは朝食だな。と、ベリアルは呟くと、優雅な身のこなしでベッドから下りて部屋を出ていく。
その後ろ姿を見つめていたジータは去年とは違う楽しい一日に胸を躍らせ、ひとり笑みを深めるのだった。
終