ファーさんの被造物ジータちゃんがお母さまにお仕置きされる話

「はあ……」
 すっかり日も暮れた頃。ジータは一人研究所近くの森に来ていた。凶暴な野生動物が跋扈している危険な場所だが、天司よりかは劣る彼女も星晶獣であることには変わりない。もし襲われても退けることは十分できる。
 なのでこうして一人で散歩をしていたのだが、完全に帰るタイミングを見失ってしまい、ふらふらと行く宛もなく歩いていた。
 ──数時間前、彼女は自分とルシファーが使うベッドの上で補佐官であるベリアルに恥ずかしいことをされ、それを造物主であるルシファーに見られながら絶頂を迎えてしまった。
 気づけばルシファーはおらず、ベリアルは後始末をしている最中。ジータは全ての元凶である獣にシャワーを勧められ、浴びた後は時間も時間なのでキッチンでルシファーのために夕食を作っていたのだが……。
 作り終えたジータはどんな顔をして主人に会えばいいのか分からず、ルシファーが戻ってきたら代わりに出して、とベリアルに配膳を頼み、そのまま飛び出したのだ。
(どうしよう……)
 ルシファーはベリアルとジータの交接に興味はないと言っていたが、やはり戻れない。このまま森で夜を明かそうか。いや、それも怒られそうだ。
 諦めて戻ろう。戻って、謝ろう。そうすればそこまで酷いことにはならない……と思いたい。
 ジータは決心すると来た道を引き返そうとした、が。
「こんなところにいた」
「っ!?」
「そんなに驚くことないだろう。なあ、ジータ」
 後頭部に当たる柔らかい感触。上半身に腕を回され、腰を怪しく撫でる手。
 音もなくジータを背後から捕らえたのはベリアルだった。豊満な膨らみをぎゅうぎゅうと押しつけながら、大げさな反応をするジータに対して笑みをこぼす。
「ベリアル、どうして……」
「どうしてって、ファーさんが連れてこいって言うからさぁ。早く帰った方がいいぜ? それともさっきの続きでもするかい?」
「ぅ……!」
 胸に回されている右腕を動かし、胸元から内部へと侵入すればベリアルによって愛されたばかりの場所は快楽の記憶を引きずり出す。
「あっ……、やっ、んんっ……!」
 性的な触れ方に体が震えてしまいそうになるのを堪え、ジータは悪戯をする腕を掴んで止めた。このまま流されるわけにはいかない。
「フフ……。冗談だよ。さあ帰ろうか。ファーさんが待ちくたびれちまう」
「うん……って、なにを!?」
「まさか歩いて帰るつもりだった? トんで帰るに決まってるだろう」
 ジータが抵抗の意思を見せればベリアルはすんなりと胸を弄るのをやめ、彼女を抱き上げた。
 俗に言うお姫様抱っこをするベリアルは重さなど感じさせない軽やかな動きでジータをしっかりと抱きしめる。
 予想外の行動に驚きの声を上げるジータだが、ベリアルの言葉に口をつぐむしかなかった。これ以上時間をかけたらその分ルシファーの機嫌をさらに損ねてしまう。
「ワタシのテクなら研究所まで一分、てとこかな。ほら見てごらん? キミ、こんな遠くまできてたんだよ」
「ほんとだ……」
 月の光を浴び、艶やかに輝く六枚の皮膜型の羽を広げたベリアルは高く飛ぶと研究所がある場所を指差し、その距離を伝えればジータは自分でも少しばかり驚いてしまう。まさかこんな遠くまで来てしまったなんて。
「…………」
「うん? どうしたんだい?」
「ううん。あなたの黒い羽……カッコイイなぁ、って。みんなとは違うタイプの羽だけど力強くて、私は好き」
 ジータには羽がない。だからこそ余計に焦がれてしまう。もしその羽の一対でもあったら、自由に飛べるのに。
「まさかキミにそんなことを言われる日がくるなんてね。……やっぱりファーさんのところに帰る前に一発ヤらない? また天国を見せてあげるよ」
「や・り・ま・せ・ん! ……はぁ。帰るのは気が重いけど、帰らないとね……お願い。ベリアル」
「りょーかい。トばすぜ? しっかり掴まってな」
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
 言うや否や風を切る音がジータの耳をつんざく。襲いかかる風圧にベリアルにしがみつき、肩に顔を埋めることで耐えていると思いのほか早く風は収まり、感覚から降下しているのが分かった。
 顔を上げれば見知った風景。さすがは六枚羽、なんの制限もかけられていない第一世代の天司。移動速度は抜群。
「ありがとう、ベリアル」
「どういたしまして。さ、イこうか」
「う、うん……」
 研究所にあるルシファーの私室に近い出入り口に下ろしてもらったジータは差し出されたベリアルの手を取ると、屋内へと入っていく。
 その顔は不安一色。確実にルシファーの機嫌は悪い。果たして自分は一体どうなってしまうのか。廃棄……まではいかないと思うが、あまり想像したくはない。
 重くなる足取り。ジータの足首に繋がれた重りはベリアルに引っ張ってもらう形になるまで重量を増していく。
(あぁ……着いちゃった……)
 意外にもベリアルはジータを急かしたりせず、彼女のペースに合わせてエスコートしてくれた。それでも着いてしまったルシファーの部屋。
「ファーさん、入るよ〜」
 ベリアルがノックもせずに入るのはもう慣れたことで、今のジータにはどうでもいいこと。
 扉の向こう。ジータとルシファーが生活する部屋は薄暗く、がらんとしている。暗闇にある微かな光は大きな窓に引かれている分厚いカーテンの隙間からの月明かりだけ。
「あぁ、寝室か」
 独りごちると、ベリアルはジータを連れて寝室へと向かう。部屋と同じように暗くなるジータの表情。会いたくないが、会わなければ。
 そもそも全ての元凶はベリアルなのだ。彼女が魅了なんてかけなければ──そこまで考えて自嘲する。結局は拒否の気持ちを強く持ち続けられなかった己に落ち度がある。
「ファーさん、ジータを連れてきたよ」
「……入れ」
 女性にしては低い声。その声音は反論を許さぬという重さも孕んでおり、ジータの体は金縛りにあったように動かなくなる。
 無情にも開かれる扉の向こう側は、温かなオレンジ色が辺りをぼんやりと照らしていた。
 その光源はベッドの横に設置されたナイトテーブルの上に置かれている間接照明。
 ルシファーはというと、普段着ているローブを脱いでおり、ぴっちりとしたタイプの黒い薄着。手も手袋をしておらず、白くて繊細な指を晒している。
 ベッドの端に腰掛け、脚を組む彼女の視線は本へと注がれ、細指で羊皮紙のページを一枚捲る。
 ジータたちが入室したというのに目線は動かないまま。
「遅い。時間のかかり過ぎだ」
「ごめんよ。でさ、ファーさん。ジータを怒らないでやってくれない? そもそもワタシが悪いんだし」
「黙れ。私はお前と二人きりになるな、とジータには言っていた」
「えぇ? それって矛盾してない? 二人きりになるな、って言うのに迎えはワタシにイかせるなんて」
「……口の減らん女だ」
「あっ、あの! ベリアル、私なら大丈夫だから! 疲れたよね? 部屋でゆっくり休んで!」
 ベリアルの言葉に場の雰囲気が一気に重くなる。本を閉じ、テーブルに置いたルシファーは不機嫌という感情を隠すことなく顔に出し、ベリアルを睨みつける。下位天司ならば縮み上がるほどの眼力だが、ベリアルはどこか嬉しそうだ。
 そんななか、動いたのはジータだった。これ以上はまずい! と判断し、ベリアルの体を押すことで無理やり寝室から出し扉を閉める。
 部屋から締め出されたベリアルは数秒呆気にとられていたが、これからジータの身に起こるであろうことを想像し、羨ましがりながらも邪魔者は退散しようと部屋を出ていくのだった。
 一方、ジータは背中に感じる視線に息を呑むが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
 扉にもたれ掛かるようにして体を反転させたが、アイスブルーの瞳に射抜かれ、凍りつく。
「普段からかしましいベリアルと二人きりになるなと言っておいたはずだが?」
「ごめんなさい……。まさかあんなことになるなんて……。でもお母さまは私とベリアルがその、ああいうことをしていても興味がないんでしょ?」
「興味はないが、仕置きだ。言いつけ一つ守れん獣に造った覚えはない」
 来い。想像以上に冷たい声が身に刺さり、ジータは体をビクつかせるとベッドの縁に座るルシファーの前へと気まずいながらも移動した。
 次はどうするのか──なんて考えていると、いきなり腕を引っ張られ、気づいたときにはルシファーの太ももに腹を乗せる形でうつ伏せにされていた。
 そこでジータは彼女の言葉を思い出す。
 仕置きだ。脳内で反芻し、ルシファーがなにをしようとしているのかがなんとなく分かってしまい、ジータは喉を上下させた。
 基本研究所に軟禁状態の彼女。たまにルシファーの許可が下りるとルシフェルや四大天司などの力の強い天司が同行することで、空の民たちの島に行くことを許されている。
 ちなみにベリアルとは二人きりになるなと言われているので、彼女とは出かけたことがない。
 訪れた島での人間観察の中でジータはこんな格好で母親にお仕置きをされていた男の子の姿を思い出す。
 なぜ母親が怒っていたのかは分からなかったが、男の子がなにか悪いことをしてしまったのだろう。
 半泣きになりながら母親に謝っていた男の子に、母親は何度も臀部に平手打ちをしていた。
 ジータの中で今の状況と人間の親子が重なる。
 まさか、ルシファーが同じことを……!?
 混乱を極めてなにも言えないでいるジータに女の細い手が伸びる。それは彼女のスカートを乱暴に捲り上げ、さらには秘部を隠すショーツを膝辺りまで一気に下ろした。
 ひんやりとした空気を直に感じ、ジータの体に緊張が走る。形のいい桃尻を撫でられ、これが夜伽ならば甘い電流が走るのだろうが、今は違った。
 ジータを襲うのは恐怖。背中に突き刺さる絶対零度に体の震えが止まらない。顔が見えないからこそ、余計に怖かった。
「空の民には子供に仕置きをする際に」
「ひぃん!?」
 パシン! と肌と肌がぶつかる破裂音がしたと同時に臀部に感じる鋭い痛みに、ジータは短い悲鳴を上げた。
「こうして折檻する人間もいるそうだ」
「ひぁっ!?」
 再び部屋に響く乾いた音。ルシファーの手のひらが打ち付けられると二つの白い丘が揺れ、ほんのりと赤く色づく。
 刺す痛みが引くとジンジンとした痺れのような痛みがいつまでも残ってなかなか消えない。
 これが空の民の女ならばここまでの痛みは感じないだろう。だがルシファーは基本のポテンシャルが空よりも高い星の民。純粋な腕力が違う。
 下半身のヒリヒリとする痛みにジータの目が早くも潤む。ベリアルならばこれを“ご褒美”だと大喜びするところだが、ジータにそんな性癖はない。
「非効率的だな。手も痛む。だが体に痛みを、精神に羞恥心を与える……か」
「ぃ……痛い……やめて、お母さま……」
 ルシファーの言うとおりだ。体は痛いし、お尻丸出しの恥ずかしい格好で顔が熱い。
 首だけで振り返り、ルシファーを見つめるジータは記憶の中の男の子と同じように半泣きになりながら懇願するも、造物主と視線が交差することはない。
 ルシファーの視線は温かい橙色に照らされたジータの双丘に向けられたまま。そしておもむろに腕を振り上げると、加減することなく打擲ちょうちゃくした。
「あ゛ッ!?」
 鋭敏になっている皮膚が痛みを訴え、ジータの瞳から大粒の涙がこぼれるも、ルシファーは彼女の方を見ない。
 そしてまた上がる腕。部屋に響く短い音。ジータの悲鳴。終わる気配のないこの時間は拷問に等しい。
 何度も叩かれているせいで尻が熱を持ち、腫れてきているのが分かる。泣きながらごめんなさいと繰り返すも、スパンキングは止まらない。
 ──どれほどの時間が経った頃か。尻たぶが真っ赤に腫れ上がるまで叩かれていると彼女の中に痛み以外の感覚が芽生えてきた。それは“快楽”。
 痛みもやがて快楽へと変わる。そんなことをいつかベリアルが言っていたのをジータは思い出す。
 しかも苦痛をもたらしているのは母と慕い、愛する造物主。悦を感じるな、というのも無理な話。けれど基本は真面目なジータはお仕置きをされているのに感じ始めていることに対し、恥じていた。
 痛いことをされて気持ちよくなるなんて変態だ! と。だがいくら心でそう思っても体は言うことをきかない。
 奥に溜まっていた愛蜜が秘められた裂の間からトロリと滲み出てくるのを感じ、ジータはギュッと目をつむる。ルシファーが折檻に飽きるまでどうか気づかないで……! と。
「……お前、私に叩かれて感じているのか?」
 ジータの小さな願いも簡単に砕かれ、ビクリ! と体が跳ね、石のように固まる。ジータの反応を肯定の意と受け取ったルシファーは嘆息すると今まで尻を叩いていた手を秘めやかな場所へと伸ばす。
「あぅっ……」
 指先で軽く触れただけで粘着質な体液がまとわり付き、人差し指と中指を離せばその間に透明な糸が引く。
「被虐に目覚めたか?」
「アっ!? ん、やぁ、お腹くるしっ……!」
「苦しそうには見えないが? ほら、四本目だ」
「あ……っ……! お母さまの指っ、いっぱい……! 気持ち、いいっ……!」
 前触れもなしに突然三本の指を挿入されて喘ぐジータだが、ルシファーは無視して四本目の指を挿し入れた。
 難なく飲み込む膣口は美味しそうに細長い指を受け入れ、愛液を大量に分泌させる。
 痛苦に歪んでいた表情も今ではトロトロに溶けたものへと変わり、すっかり雌の顔。
 これではベリアルのことをもう変態とは言えないと心の片隅で思うものの、ルシファーによって調教済みの肉体は悦びを余すことなく享受する。
「私とベリアル、どちらの指がいい?」
 答えなんて一つしか許されない意味のない問いに、ジータは蕩けた顔でルシファーを見つめながら嬉しそうに口を動かす。
「お母さまのっ! お母さまの指が、んぁ、あっ、いい! ……ぁ、イっちゃう、だめ、もっとぉ!」
「フン……果てろ」
 分かりきっていた答えながらも満足したのか、普段から感情が乏しいルシファーが珍しく口元を緩めながらジータのイイところを刺激し、一気に絶頂へと押しやる。
 もっとルシファーの指を感じていたいジータだが、彼女から与えられる快楽に抗う術などない。どこまでも甘い啼き声を上げながら昇天すると、内部にある指たちをキュウキュウと締め付けた。
 蠢く胎内。ルシファーは体を痙攣させながら果てているジータを見遣るも、その顔はシーツに突っ伏しているので見えない。
 ジータを乗せている太ももが漏らしたかのように濡れているのを感じながら指を引き抜けば、ナイトテーブルに置かれている間接照明に照らされた手は卑猥な色を放ち、今の今まで指を咥えていた穴は寂しそうに収縮を繰り返している。
「おい」
「ふぁい……」
 いつまでも動かないでいる被造物にかける声は低く平坦で感情は読めないものの、なにをすればいいのか分かっているジータは緩慢とした動きでベッドの上を這って脚から下り、起き上がると、大事なものを持つように両手でルシファーの濡れた手を包んだ。
 しとどに濡れた指。まずは人差し指を根本まで食み、舌で愛撫する。下の口の体液を上の口のもので上塗りしながら頭を上下させ、時折舌先で指と指の間を舐めたりと口淫を続ける。
 熱に浮かされた目で見つめながら淫らな行為をする少女はなかなかに支配欲を刺激し、ルシファーを満足させるも決してその感情は表に出ることはない。
 だがジータはそれでもよかった。彼女にとって大事なことはルシファーにこうして触れることを許可されていることなのだから。
 愛する人に触れているだけでコアが激しく発熱し、その熱は全身へと広がっていく。“好き”という気持ちで頭がいっぱいになり、他のことはなにも考えられなくなる。
 無条件の愛。その愛が返ってこなくてもいい。ジータは子宮がルシファーを求めているのを感じながら指へのペッティングを継続させ、ようやく最後の指が終わるとリップ音を残してお掃除を完了させた。
 次はなにを命令してくれるのか。目を潤ませながら大人しく待てをする獣にルシファーは服を脱ぐように言い、ジータは頷くと身につけていた衣服を次々に脱ぎ、大人と子供の狭間にいる肉体を晒した。
 見た目の年齢よりも少しばかり大きめの乳房は張りがあり、若々しさに満ちている。どこに触れてもなめらかなそうな肌は汗ばみ、しっとりとした艶があった。
 少女器官は愛されたばかり、というのもあるが新たな蜜を溢れさせ、性の香りを放ち、ルシファーが欲しいとねだっていた。
 現れた肉体にルシファーの視線が注がれる。彼女としては己の作品を見ているだけなのだが、ジータは違う。
 触れられていないのにルシファーの目線の先にある場所が快楽を訴え、思考を蕩けさす。
 勝手に上がる呼吸。湯気が出そうなほどに茹だった頬。熱い吐息。
 ああ、もう本当にはしたない。なけなしの理性で思うが、ルシファーに対してのみ淫乱になるように躾されたこの身は言うことを聞かない。
「勝手に発情するな。まだベリアルの魅了が残っているのか?」
「……ねえ、お母さま」
 どこまでも澄み渡る青くて冷たい瞳を見つめながらジータはルシファーの腕を手に取ると、コアが埋まっている場所に当てた。
 胸の中心部分。一番熱いところに押し付けるように残りの手で上から押すと、なんとルシファーの腕が沈んでいくではないか。
「ァ……あっ、こあ、コアっ、触って……」
 瞳の奥にハートが見えそうなほどに溶けた瞳。魅了状態と相違ないそのかんばせをルシファーへ向けながら、ジータは腕をさらに沈ませる。
「ア゛ァっ! ぁ、お母さまの手っ、コア、触って……る……!」
「私の手を使って自慰をするな」
「あっ……」
 性器に触れられるよりもコアを弄られる方が気持ちいいのかルシファーの手を使っていたジータだが、ルシファーは冷たく吐き捨てると腕を引き抜いてしまった。
 呆気ないほどに簡単に胸から抜かれた手を見つめ、ジータは名残惜しそうな、そしてどこか不満そうな声を上げる。
「どうして……コア、触って……」
「なぜ私がお前の言うことを聞かねばならん」
 なにか文句があるのか? そう目で訴えるルシファーに対してジータは隠すことなくムッと顔に感情を乗せる。
 ジータをここまで淫らに躾けたのは他ならぬルシファーだというのに。
 ルシファーがジータにする行為に理由をつけるのならば、気分転換やストレス発散。特にストレスを抱えた彼女の吐き出し先にされたときはたまらないものがある。
 そんな日々を繰り返していればルシファー限定で淫乱娘になってしまうのは仕方のないこと。
「……じゃあベリアルのところに行ってくる」
「…………あ゛?」
「ひ……ぎッ!? ぃ、あ゛、ァ……!」
 売り言葉に買い言葉。実際にベリアルのもとへ行こうという気持ちはなかったが、つい口に出してしまったが最後。気づいたときには天井が見え、目の前には明らかに不機嫌な美少女の顔。
 眉間には深い皺が刻まれており、聞いたことのないほどに低い声。
 ルシファーはジータに馬乗りになり、ベッドへと押し倒していた。そして腕は胸に沈んでおり、目的の物を握り潰す勢いで掴んでいる。
「ぁが、アぁぁ゛ァっ! そんなに強く握られたらっ、ヒッ、ぃ……! あ゛ッ、ぁあ゛ァっ!!」
「…………」
「んぁ゛っ、だめ、イってるのにまたぎちゃう゛ぅ!! ひぁ、コア撫でられてっ、ダメなのにぃ゛! んあ゛ァ、ぁ゛っ!」
 釣り立ての魚のように手足をバタつかせながらジータは連続絶頂を訴え、涙するもルシファーは無言のまま。
 胸に沈めた手の中にあるコアを握ったり、撫でたりすることでジータに悦を与え続ける。
 普段とは違う力で触れられているジータは留まるところを知らぬ歪な快楽に堕ちるところまで堕ち、様々な体液で顔を汚していた。
 このままでは壊れてしまう。そう直感するも、愛するルシファーの手によってこの命を終わらせられるのならばそれは魅力的……とは思うものの。
「もう許してぇっ! お願いだか……ら……!」
「コアに触れてくれるならば誰でもいい──それほどに好きなんだろう? これが」
「ひぁぁっ!? ごめ、ごめんなさいぃぃ! あれは嘘なの! 嘘だからぁっ!」
 快楽の涙ではなくて本気の涙。軋む音が聞こえてきそうなくらいの力でコアを握られ、苦しくて、痛くて、でも背徳的な甘美さもあって。訳が分からなくなったジータは鼻水を垂らし、号泣しながら謝罪した。
 胸に沈む腕を掴みながらあれは嘘だと、本心ではないと必死になって訴える。凍てつく眼差しを受けながらも哀願すれば、ルシファーは目と目の間にキツく刻まれていた皺を消すと呆れ混じりに息を吐き、胸から腕を抜いた。
「下らん嘘をつくな」
「う゛ぅ……ごめんなさ……ん、ふぁ、あっ……」
 ぼやける視界の中、鼻水をすすりながら見えたのは眼前に迫る美しい顔。次いで感じたのは少しかさついた唇と、口内に侵入する生温かい舌の感触。
 ──キス、されている……?
 そう認識した途端、ジータの体に走ったのは灼熱の炎だった。底が見えない甘さを孕む毒熱。体には触れても唇に触れることはあまりしてこないルシファーの接吻はレア中のレア。
 それだけで達してしまい、子宮が疼き、膣が収縮する。絶頂感に脚をぴったりと閉じ、震えていると付け根部分にぬるぬるしたものを感じた。ナカに溜まっていた蜜が喜びと共に吹き出したのだ。
「……これだけで達したのか?」
 鼻先がくっつくほどに近い距離。敏感すぎるのにも程があるとルシファーの顔と声からは読み取れるが、ジータにとってはおかしなことではない。
「そう……みたい……」
 ふにゃりと綻ぶ顔をじっ、と見つめていたルシファーは数秒思案すると馬乗りの体勢からジータの上に覆い被さる体勢に変える。
 腹に感じていたルシファーの重みが全身で感じられ、ジータの気分が上昇していく。
 嬉しい、嬉しい、嬉しい!
 慕う人をこんなにも近くに感じられて、再び口付けもされ、ジータは体を巡る淫熱に打ち震える。
 たまらなくなってルシファーの背を抱き、脚も絡めて密着しても彼女はなにも言わない。普段はジータから触れられることを好まないルシファーなのでとても珍しいことだ。
(好きっ! 好きっ! 大好きっ!)
 語尾にハートマークが付きそうなくらいの大きな感情を表情に出しながらジータはルシファーを強く抱きしめ、求め、ゆっくりと夜は更けていく……。

「ファーさん、入るよ」
 いつもならばもう起きている時間にルシファーが起きてこない。彼女よりも早くに起きるジータでさえも、だ。
 なので補佐官であるベリアルはこうしてルシファーとジータが暮らす部屋へとやってきたが、扉を開ければ目の前に広がる洋間には誰もいない。
 部屋は昨晩の状態のままを保っており、相変わらずの暗さ。まずは光を取り入れようとベリアルが部屋の窓を覆うカーテンを開けると、レースのカーテンが和らげた日の光が部屋いっぱいに入り込んだ。
 全てのカーテンを開けたことで十分な明るさになった部屋を見つめ、ここへ来た目的のために少しばかり気配を探れば寝室から二人の気配を感じ、ベリアルは制服に似合わない下卑た笑みを浮かべると部屋へと歩む。
 未だにお楽しみ中か……とも思ったが、中からはなにも聞こえない。ならば寝ているのか。部屋の向こうにいるであろう二人の姿を妄想しながら最小限の音を立てるのみに留め、ドアノブを回せばそこには楽園があった。
 大きなベッドに横になっている眠り姫たち。互いを抱くように眠り、ルシファーの顔はジータの胸に包まれている。
 純白のシーツの上、薄めの掛け布団の中に横たわるのはお気に入りの星晶獣と崇拝する造物主。ベリアルにとって眼福以外のなにものでもない。
 本来ならば起こすべきなのだが、この空間を破壊することなどベリアルにはできなかった。
 また後で司令官殿や評議会の連中がうるさいだろうなぁ、とは思うが、どうとでもなること。いま、この状況をいつまた見れるか分からないのだ。どうしてもこちらが優先される。
 起こさないようにそっと近づくと、ベリアルは存分に天国を堪能し続けるのだった。