第二章
「えっと……今日はライブ配信に来てくれてありがとうございます。音声は大丈夫ですか?」
薄暗いこの部屋は地下にあり、ジータの仕事場。ここには様々な拷問器具が置かれている。
その中心で黒いトーメンターの衣装に身を包んだジータは今から残虐行為を行うというのにカメラの前で丁寧に頭を下げ、姿の見えない観客へと問い掛ける。
普段は撮影したスナッフ・ビデオはベリアルが編集したものが客たちに売られるので多少のトラブルはなんとかなる。
だがこれはぶっつけ本番。生配信をするのならば細やかな部分まで気を配らなければジータの気が収まらなかった。
ジータの正面、カメラの向こう側に置かれている黒の革張りのソファーに座るベリアルの視線の先には、ガラスでできたローテーブルに置かれているノートパソコン。
RED ROOM。その名前のとおり血を思わせるデザインの配信サイトがパソコンの画面いっぱいに表示され、映像が流れる部分は市場にまだ出回っていない超高性能のビデオカメラが映す景色が映し出されている。
闇よりも深い闇。深淵に魅入られた人間たちは表の世界では様々な役職に就いている。ある者は国を動かす立場、またある者は大企業のトップであったり。
自分たちが少しでも楽しめるのならば表舞台に出ていない技術を流すことさえ厭わない。
ベリアルから聞かされても信じられない人数の人間たちが、自らの欲望を満たそうとジータを画面越しで見ていた。
ベリアルは配信を見ている人数を見て笑みを深め、ジータをちらりと見る。あのときポルノではなく、殺人ビデオに出ることを勧めて本当によかった。
彼女にはこちらの方が素質がある。無理やり性の道を選んでいたら使い捨てにされ、今頃どうなっていたか。
コメント欄に流れる文字列を見てベリアルはOKのハンドサインを出すとジータはふう、とひと呼吸置き、悪趣味極まりないショーの生贄の頬にそっと触れた。
木製の粗末な椅子に全裸で縛り付けられている中肉中背の男の視界は目隠しをされていることで閉ざされ、口も猿ぐつわを嵌められているので叫ぶことさえできない。
手足も縛られ、深く考えなくてもこれから恐ろしいことが起きるとガタガタと情けなく震える。涙もあふれ、ジータの手を濡らしていく。
男を見つめるジータの目には驚くほどに感情がなかった。
グランやルリア、ホームの弟妹たちに向ける優しさは最初からなかったのではないか、と思ってしまうほどに今の彼女は“無”そのものだった。
殺人ビデオに出演するようになって一度もジータは相手の素性を知ろうとは思わなかった。相手が善人だろうと、悪人だろうと己のために殺すのだ。無駄な感情は要らない。
理由はどうであれ、ここにやってくる贄が途切れないのは闇色の欲望が渦巻く結果。
現にベリアルも言っていた。人がいなくなったというのに大騒ぎにならなかったり、大した問題にならないのはそういうことだと。
家族のために仕事を続ける日々。だが……一度だけ、ジータが一方的に顔を知っている人物がここにやってきたことがある。
罪を犯しても裁かれず、また犯罪を繰り返し、テレビのニュース番組で何度か見たことがある人間だった。最後に見たのはいつだったか分からないが、なんとなく記憶に残っていたのだ。
ビデオを撮影する際、ベリアルが考えたのか、他の誰かが考えたのかは分からないが、ひと通りの流れをジータは口頭で教えられる。
初めはこの拷問、次はこれ……その通りにジータは実行する。もちろん大体の流れなので彼女のアドリブも含まれている。
自由度の高い台本が多いなか、この男に対する拷問は文章にされ、事細かに記されていた。また、内容を見て相当恨まれているのだとひしひしと感じた。
これを考えたであろう人物の、生贄に対する激しい恨み辛み。背筋が凍るような負の感情。
その人間を殺したときだけはジータは忠実に台本通りという名の“復讐代行”を実行し、また、どこか胸のすく思いをした。こんなどうしようもない仕事をしている自分でも、誰かの役に立てたのだと。
「生配信だからってやることはいつもと変わらないんですけどね」
この場にはいない観客たちに語りかけるように敬語を口にしながら、ジータは椅子の近くに置かれているキャスター付きのステンレスワゴンから鈍い銀色を放つペンチを手に取った。
全身黒ずくめのジータが手にした拷問器具を天井に吊るさっている照明へとかざす様子は、異質ながらも宝物を見つめる子供のように思えて不思議な光景だ。
これはただの殺人ではない。スナッフ・“ショー”。すぐに殺すことは簡単だが、ジータのパトロンたちはそれを望んでいない。
トーメンターに扮した未成年の少女の手で惨殺される様を、安全な場所でじっくりと鑑賞したいのだ。
商売道具を見つめるのをやめたジータはわざとペンチを開閉させ、金属音を鳴らしながら男へと迫る。視界を塞がれ、他の感覚が鋭敏になっている男は必死になって暴れるが、椅子がギシギシ鳴るだけ。
「まずは爪でも剥がしますか」
肘掛けに固定されている左手を漆黒のロンググローブを嵌めている手で撫で、ペンチで爪を挟もうとするが、ジータの言葉に恐怖した男は手を握りしめ、指を丸めてしまった。
指をほどこうとしても力が強く、開かせることができない。もう片方の手も同じように握られており、ジータは軽く息を吐くとワゴンから白銀に輝く小振りのナイフを手に取り──そのまま男の左手の甲に振り下ろした。
腕を縛り付けている木製の肘掛けまで貫通したナイフの傷口からは血が滲み、男のくぐもった悲鳴が部屋に響く。
肉を貫く感触が伝わるが、慣れてしまったジータは顔色一つ変えずに激痛によって開かれた手、人差し指の爪をペンチで挟んだ。
わざと痛みを長引かせるようにじっくりと力をかけていき、男の爪を皮膚から剥がしていく。普通に生きていればまず体験しない痛みに激しく暴れ、椅子がけたたましく軋み声を上げる。
「おっと、お客サマからの質問だ。なぜキミがこの仕事に就いたのか知りたいってさ」
液晶画面を見ながらベリアルが声をかける。コメントが流れるのが早いなか、上部に固定されている文字列がある。
このサイトは投げ銭することでその金額に応じた時間、コメント欄上部にコメントが固定される仕組みだ。客はこの機能を使うことによってトーメンターにやってほしいこと、聞きたいことを“要望”することができる。
額の単位も一般人からすればとんでもないものだが、この配信を楽しむ人間たちにとってははした金。
他にも固定コメントはいくつもあったが、それをすべて拾っていたら予定の時間よりも長引いてしまう。
なので単純に現時点で金額が一番高いコメントをベリアルはチョイスしたのだった。
「そっか。ライブ配信だからリアルタイムでやり取りできるんだ。……全部を話すことはできませんけど、少しだけなら」
男の痛苦の声をBGMにジータは語りだす。喋っている間も拷問の手は止まらない。
「単純にお金が必要だったんです。それも大きなお金が。けど子供の私にはそんな大金を稼ぐ方法は表の世界にはなかった。自分の“性”を売り物にしたくなかったし、ポルノよりもこちらの方が向いていた。ただそれだけです」
挟んでいた男の爪が完全に剥がれ、器具の先には死んだ細胞の塊。無慈悲なほどに簡単に床に落とし、次の指へと移る。
「いつかは……普通の仕事に就けたら、とは思いますよ? もしかしたらお客さんがいる会社に面接に行くかも。そのときはぜひ採用してくださいね?」
冗談を言うように明るい口調でカメラに向かってウィンクする。アイドルと間違えてしまいそうな仕草だがやっていることは人道から外れたもの。
後半に軽さを交えたのは決して叶わぬ願いを隠すため。尋常ではない世界を知り過ぎ、犯罪に手を染めた自分はもう普通に生きることはできないし、許されない。
ジータの答えにパソコンとにらめっこをしていたベリアルは片側の口角を上げた。コメント欄は彼女のどこか憂いを感じさせる雰囲気に庇護欲を刺激された狂った人間たちが熱狂し、その感情のままに思いを吐き出している。
さしずめ闇の世界のアイドル。今までさまざまな年齢の男女がトーメンターをしてきたが、途中で自死したり精神的におかしくなる者ばかりだった。もともと狂った人間もさらに狂うばかりで最後は他の人間と同じように……。
そんななか、ジータだけは違った。最初こそ精神が不安定になったり体調不良で寝込んだりもしたが、少しずつ安定していった。
ジータを貧困街から救った老婆が亡くなり、年長者としてホームのみんなを纏めるようになってからはそれは顕著に。
深淵でも輝きを忘れない光に住民たちは引き寄せられる。人間が夜を恐れ、明かりを求めるように。だからこそジータの出演するビデオは他のトーメンターたちと比べてトップの売り上げを誇っていた。
「さあ、次は拷問の要望だ。内容は──」
***
客のリクエストに応えていった結果、現在の男性の姿は悲惨なことになっていた。目隠しや猿ぐつわを外され、はっきりと見えるようになった顔はところどころ赤黒く腫れ、鼻の頭は潰れている。
全身にも拷問による生々しい傷がいくつもあり、正直生きているのが不思議なくらいだ。だが呼吸はか細いため、そろそろ命の灯火は潰えるだろう。
「次は……これにするか。目玉をくり抜け、ってさ」
「分かった」
「ヒッ……! もうやだ! いやだ!! なんで俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ!! うぁ゛ぁ゛ぁぁぁ゛っ!!」
「なっ──」
今に至るまでに喉が裂けんばかりに叫び、もう声を出す力もないと思っていたが、男は想像を絶する拷問に錯乱し、手足を暴れさせながら力の限りに叫ぶ。
すると縄が緩んでしまったのか、男は拘束をほどくとジータに向かって襲い掛かってきた。
反応が遅れ、床に押し倒される。近くに置いてあったワゴンも倒れ、乗せていた物が辺りに散乱した。
背中に感じる痛みに呻く暇もなく、胸元の布を破かれた音にジータは声を引きつらせる。
フラッシュバックするのは過去の忌まわしい記憶。自分が性を売り物にするのではなく、この手を血で染める選択をする切っ掛けになった出来事。
「どうせ死ぬならお前を犯して死んでやる゛ぅ゛ぅぅ゛!!」
「ひっ……!」
人間とは思えないほどに醜い姿に成り果てた男に覆い被さられ、根本的な恐怖がジータの身を支配する。
なんとか逃れようと抵抗するも男に勝てるわけもなく。
ジータは助けを求めるようにベリアルがいるであろうソファーへと目を向けるが、彼の姿はどこにもない。
不意に感じた視線。カメラの方を向けばベリアルがジータに向かってレンズを向けていた。その口元はハプニングを楽しんでいる。
ベリアルに助けるつもりなどない。こうなったら自分の力でなんとかするしかないが、死の淵に立たされた男の力は尋常ではない。
そうしている間も男の手はジータの柔い体を這い、乱暴に胸を揉みながら首筋に顔をうずめると少女の香りを吸い込み、舌で舐め上げる。
あまりの気持ち悪さにジータの双眸からは涙があふれ、このままだと最後までされてしまうと悟った彼女は半狂乱になって叫び、偶然手に触れた商売道具で男の側頭部を殴り、体から力が抜けたところで逆に男を押し倒す。
胸部に馬乗りになり、腰にぶら下げていたハサミを両手で握ると男の顔に向かって振り下ろす。鋭い刃先は簡単に肌を突き破り、中の肉を傷つける。
男が暴れるのでジータは叫びながら滅多刺しにしていく。刺す度に飛び散る鮮血は彼女を赤く染め上げていく。
やがて男は動かなくなり、事切れたが、狂乱状態のジータはやめない。
「ご苦労さま。変態たちもキミの初々しさに大喜びだったよ」
男の血でハサミや肌が真っ赤に染まる頃、ようやくベリアルが声をかけたことでジータは止まった。肉の塊の中心に突き刺さったままのハサミ。ベリアルはジータの真横にしゃがみ込み、帽子越しにあやすように頭を撫でるが、彼女の震えは止まらない。
今のジータの震えは恐怖からなのか。怒りからなのか。その答えはすぐに分かった。
「ぐっ……」
ベリアルの頬へと叩きつけられる裏拳。女の力でも渾身の力がこもった拳にベリアルの体の軸はぶれ、床に倒れた。
無言で立ち上がったジータのベリアルを見下ろす顔は憎悪に歪んでおり、純粋な負の感情を向けられた男は口の端から血を流しながらも恍惚の表情へと変わる。
「クソ野郎」
血で汚れたグローブを脱ぎ捨て、侮蔑の言葉を吐き捨てるとジータは部屋を出ていく。拷問部屋とその向こうを隔てる鉄の扉の先にあるのはコンクリートに囲まれた灰色の空間。
そこまで広くはない空間。ローテーブルを挟むように置かれたソファーは拷問部屋に置かれている物よりも安価。だがこの部屋には相応。
壁側には部屋と同じ色をした扉があり、ジータは一直線にそちらへと向かう。この扉の向こう側には脱衣所と風呂場がある。そこで身を清めてから上に戻るのだ。
悪夢の部屋へと続く鉄の扉の向こうからベリアルの笑い声が響いてくるのを聞きながら、ジータは体の汚れを落とすために浴室へと続く扉の先へと消えていった。
***
「フフ、フハハハハッ……! あんな顔もできるんだねぇ。あの子。あらかじめ縄を緩めておいてよかった」
殴られたというのにベリアルは痛がる素振りも見せず、床に座ったまま腹を抱えて笑う。ジータに激情をぶつけられたというのに、逆に喜んでいる始末。
ベリアルはジータに“ハプニング”と言っていたが、アレは彼によって仕込まれていたものだった。男のあの行動も数ある予想の一つに過ぎない。
ギリギリまで撮影し、最後までしそうになったら銃で頭を撃ち抜くつもりではあったが、それは脳内にある予定の話。
実際に行動したかどうかは、ベリアル自身も分からなかった。
「あー、腹がいてぇ。……サリィ!」
ひとしきり笑ったベリアルの目尻には生理的な涙が溜まっており、それを指で拭うと、ジータが出ていった扉の他にもう一つある鉄の扉へ向かって声を張り上げた。
部屋の奥に位置する重い扉はベリアルの声に反応し、軋む音を立てながら緩慢な動きで開かれる。
中から現れたのは猫背気味の長身痩躯の男だった。特徴的な黒い長髪は床につきそうなほどに長い。
魚屋がしているような分厚い黒いエプロンを着ているこの男はベリアルの部下でサリエルといい、死体処理専門の人間。
この家に住み、拷問器具の洗浄や部屋の掃除をし、ジータの仕事があるときは終わった後にすぐ片付けができるように隣の部屋──処理場で待機しているのだ。
ジータとはそこまで会話をするわけではないが、会ったときは挨拶を交わしたりと良好な関係だ。
「ベリアル、口から血が出てる。ジータに殴られた……? あの子、君にすごく怒ってた」
「あぁ、心配してくれてアリガトウ、サリィ。そうなんだよ。歯がイっちまうかと思った」
「……ジータ、悲鳴を上げてた。あの子のあんな声、久しぶりに聞いたから……大丈夫かな」
「フフ……ちょっとトラブルがあってね。ナマ配信には付きものだし、あの子は強いからね。大丈夫さ。……さて。今回も処理を頼むよ」
「分かった……」
頷いたサリエルは肉塊と化した男の両腕を黒のゴム手袋をした手で引っ張り、処理場へと引きずっていく。
血の跡を残しながら消えていく死体をベリアルは見届けると、立ち上がり、服についた汚れを軽くはたくことで落とすと踵を返した。
──その頃、浴室にてジータは一般家庭にある物よりも大きなバスタブに身を沈めていた。なみなみと張られた湯は入浴剤によってミルク色へと変わっている。
彼……ベリアルなりの気遣いなのか、撮影後にすぐ入れるようにといつも用意してくれるのだ。
扉に背を向ける位置で浴槽に体を預けながら全身を包み込む温かい水にジータはほう、と息を吐くと男に舐められた首筋に触れた。
念入りに洗ったのにまだそのときの感触が残っていて酷い不快感がある。何十人も殺してきて罰せられれば死刑は免れないことをしているというのに、性的なことに全く耐性がない己が情けない。
目を閉じ、自嘲しながら顎のラインぎりぎりまで潜る。
己の行く末に待っているのは“破滅”のみ。それはこの道を選んだときから覚悟していたこと。家族のため──などと聞こえはいいが、結局は殺人犯。
自分のためにたくさんの人を殺した。その罰はいつかは受けねばならないが、今ではない。
「着替え、ここに置いておくよ」
「…………」
「なんだ、寝て──おっとぉ……。大人しく殴られてやるのはあの一回だけだ。そういうプレイがしたいってなら考えてあげてもいいけど」
ぐるぐると巡る考えに意識を持って行かれていたせいでベリアルの声と、彼が風呂場に入ってくる音にジータは気づけなかった。
ようやく気づいたときにはベリアルの手が肩へと触れており、振り向きざまに振るった腕は先ほどと違って簡単に止められてしまった。
人を馬鹿にするような軽薄な笑みにジータは悔しそうに歯噛みし、今は顔を見たくないと言いたげにベリアルに背を向けた。
「さっきは悪かったよ。でも本当にヤバくなったら助けるつもりだったんだぜ?」
「見え透いた嘘ね。反吐が出る。あのまま私がヤられてしまってもアンタは絶対に助けなかった。スナッフ・ショーがセックス・ショーに変わっただけだもの」
「ウフフ……どんなに刺激的なものでも慣れてしまうと物足りなくなる。マンネリはよくないだろう? キミは拷問に慣れてしまい、初々しさがなくなってしまった。だからあのハプニングにはキミのお客たちも大喜びだったよ」
背を向けているためジータにはベリアルの表情は分からないが、容易に想像できる。実際彼のかんばせはジータが見れば怒るものだ。
「ひっ!?」
黙り込むジータの首筋にベリアルは唇を寄せ、男の跡を上書きするように舐め上げる。瞬間走る気持ち悪さにジータは小さな悲鳴を上げ、水面を激しく揺らしながら奥の方へと逃れ、ベリアルを睨みつけるが彼はニヤニヤとした顔のまま。
「さすがは鉄の処女。殺しは慣れてもコッチはからきし。そのアンバランスさがたまらないんだけどね」
ジータの神経を逆撫でする言葉を吐くその顔は人好きのする笑顔が浮かべられている。どこまでも底の見えない男にジータは隠すことなく嫌悪の感情をむき出しにし、口でも純粋な力でも勝てない相手に悔しげに眉間に皺を寄せると背を向け、拒絶の意を露わにした。
揺らがぬ硬い感情にベリアルは“しょうがないな”と言いたげなため息をつくと「のぼせないようにな」とだけ告げて出ていき、浴室のスライドドアの向こうで脱衣所の扉が閉まる音が聞こえた。
再び浴室に訪れた静寂。ジータは無言で立ち上がると洗い場に出てシャワーの栓を捻った。高い位置に掛けられているシャワーヘッドからはお湯が雨のように降り注いでジータを頭から濡らし、ボディタオルを手に取ると彼女はまた体を洗い直すのだった。