数人横に並んで歩いてもまだ横幅に余裕があるほどに広い石の廊下。その壁側にふらついた足取りで歩く一人の女の姿があった。
日の光を受けて輝く金髪のショートヘアに黒のヘアバンド、アンバー色の瞳に黒を基調にしたミニワンピースから伸びる脚は、ぴっちりしたタイプの漆黒のストッキングに包まれている。
裏地が青緑色をした白衣を着ており、見た目は医者のように見えるが、彼女はここ──星の民の研究施設の副所長をしているジータという女性だった。
所長であるルシファーの命令でとある島を単独で調査していた彼女は先ほど帰還したのだが、島で植物の姿をした魔物に変な体液をかけられてしまい、近くにあった湖ですぐに洗い流したのだが、影響が現れていた。
全身の発熱。腹の奥が重くなり、性的な淀みを感じる。きっと体液に媚薬の類が含まれていたのだろう。
そう結論づけたジータだが、医務室に向かう──という選択肢はなかった。こんな情けない姿、誰にも見られたくない。
とにかくこのままでは報告書すら作れない。まずは私室に戻り、鎮静剤を打たなければ。そう考え、体に鞭を打ち、重りがついたように重い脚を前へ、前へ。
息を荒げ、瞳を潤ませるジータの顔は誰が見ても扇情的。誰にも会いませんように。そう願いながら歩き続ければ、普段は数分でつく自室も今日は十分近くかかってしまったが、たどり着くことができた。幸いなことに誰とも会わずに。
魔力で施錠している部屋に魔の力を流し込み、解錠すると雪崩込むように部屋に入った。
必要最低限の物しか置かれていない部屋は少しばかり殺風景。その中に木製の収納棚があった。研究者であるジータだが医術にも精通しており、個人的な実験のために薬品が何種類も保管されていた。
両開きのガラス戸を開けて目的の物へと手を伸ばすが、急に意識が引っ張られ、棚に向かって倒れ込んでしまう。
液薬が保存されたガラス瓶が衝撃によって甲高い音を立てながら床へと散乱する。
目眩がし、立っていられなくなり、ずるずると崩れ落ちると最後は薬液が散らばる冷たい床へと伏し、ジータはそのまま意識を失ってしまった。
***
「気配はこの中から感じられるが……」
ジータの部屋の前で呟くのは軍服姿の美しい男。彼の名前はベリアル。研究所所長ルシファーの補佐官として稼働しており、第一世代の天司というのもあってジータとは付き合いが長い。
いつもならば今頃ジータはルシファーの実験のサポートをしているか、なにかしら仕事をしているのだが今日は違った。
朝から姿が見えず、何時間経っても現れない。彼女からの報告待ちのルシファーはあまりに遅すぎると、ベリアルに探して連れてこいと命を下した。
ジータが使用した騎空艇は戻ってきているので帰還はしているはずだが、研究所のどこにも彼女の姿はなかった。
トラブルに巻き込まれた可能性もあるが、研究所にいる星の民の中ではトップクラスの実力を持つ彼女に害をなせる人間はそういない。
なのでこうしてジータの私室を訪れれば、ドンピシャ。内からは小さいながらもジータの気配を感じ、ノックをしたり中に呼びかけたりもしたが反応はない。
同じ場所から動かない気配に寝ているのか? とも思ったが、どこか胸騒ぎがしたベリアルはドアノブに触れると魔力を流し込む。以前ジータに教わった解錠方法。
そのときに必要だったこととはいえ、一応は雄である自分に教えるなんて……とは思ったが、彼女から信頼を得ているということに悪い気分にはならなかった。
開かれる扉。中へ入れば薬品臭が鼻につき、床に倒れるジータの脚が視界に入り、嫌な予感が的中してしまう。
慌てて駆け寄ればぐったりとして動かない小さな体。
仰向けにすれば呼吸はしているものの荒く、体は異常なほどに熱い。とにかくベッドに寝かせなければと抱き上げれば、ジータから悲鳴が上がった。
「ぁう、う……! ぁ、だめっ……さわら、ない、で……!」
「これは……。ジータ、なにがあった」
「島の魔物……しょく、ぶつ……変な、液……かけられ、て……」
「催淫効果のある体液だったのか……?」
腕の中で波打つ体とジータの言葉にベリアルは彼女の中でなにが起きているのかを知る。他の者に助けを求めなかったのは彼女のプライドゆえ。
おそらく一人でなんとかしようと薬品棚へ向かったが、倒れてしまい、薬の散らばった床とキスする羽目に。
一連の出来事を想像しつつも、とりあえずベッドにとベリアルは動き出す。
寝室の扉を開けてすぐにダブルサイズのベッドが鎮座しており、仰向けに寝かせると鎮静剤を取りにジータから離れようとしたベリアルだが、肩にかけられている赤い布が引っ張られる感覚にその場で振り向く。
すると目尻に涙を溜めたジータが「行かないで……」と、か細い声で訴えてきた。こんなにも弱々しい彼女の姿は見たことがなく、見た目の年相応の表情は正直股間にくるものがある。
「お腹……あつい、奥……」
ぽろりとこぼれる涙。ベリアルがジータの下半身へと目を向ければ、ストッキングに包まれた太ももが濡れていることに気づく。
秘処を守る布が受け止め切れなかった愛液が脚を伝っている。この量を考えれば源泉は洪水状態だろう。
薬を取ってくるよりかも欲を発散させる方が先か。
ベリアルは冷静に思考し、一言「分かったよ」と口にすると、ジータを脚の間に抱えるようにしてベッドへと上がった。
服越しでも熱い体。きっと膣内は慣らす必要がないほどに濡れている。
正直このままブチ込んだ方が早いのだが、以前姦淫に誘ったときにジータが“獣姦は嫌だ”と星晶獣であるベリアルとの行為を拒否していたことを思い出し、彼は指での愛撫でジータの内部に渦巻く欲望を昇華させることに決めた。
ベリアルにぐったりと体を預けるジータの脚から汗や愛蜜で湿った薄手の布を脱がせば、ふっくらとした生脚が現れた。
隠すのがもったいないほどの美脚。ストッキングはさらに惹き立てるスパイスになるのだが、やはり生脚はいいものだ。
平時では見せてはくれぬ女神の脚を舐めるように見つめつつ、視線は爪先から徐々に脚の間の秘められた場所へ。
丈の短いワンピースによってかろうじて隠されている股間へと手を伸ばし、ショーツの中心に軽く触れれば穿いている意味がないくらいにグショグショ。
脱がせれば大量の蜜が糸を引く。こんな光景など人間の女との姦淫で数え切れないほどに見てきて珍しいものではないはずなのに。
普段は乱れない人物の痴態にベリアルのコアが激しく反応する。今すぐに股ぐらに顔をうずめてその体液を啜りたい。彼女の味を知りたい。彼女を啼かせたい。
「脚、開ける? そう。オレの脚に引っ掛けるように……。うん。いい子だね」
醜い欲が溢れるが、それをおくびにも出さずにベリアルはジータに脚を開くように言うと、上半身を抱きつつ、残っている手で熱源へと触れた。
「はっ、ぁぅ……! は、あ、あぁっ……!」
潤みの壺へと人差し指と中指を挿入すれば容易く飲み込まれ、柔らかい肉に包まれる。目を閉じ、襞を感じながら軽く動かすだけで内部の蜜が指に絡みつき、空気に触れることで恥ずかしい音を生み出す。
「ヤケドしそうだ……」
ジータを抱きしめながら耳元にボソリと呟く。感覚が鋭敏と化している彼女にとってはこれだけで体を大袈裟なくらいに跳ねさせ、甘い声を上げた。
常にクールで冷静な彼女のあられもない姿にベリアルの雄も生理現象によって硬度を増し、ジータの腰辺りに当たっているのだが、与えられる快楽に酔っているせいで彼女は気づいていないようだ。
「んぁっ……ひッ! あァっ゛! だめ、それだめぇ!!」
空気が爆ぜる音を奏でながらベリアルは甘露にまみれた指二本で膨らんだ秘豆の皮を剥き、扱くように動かせばジータは高い声を発しながら脚をバタつかせ、首を反らす。
神経が集中し、膣よりも敏感な愛されるためだけにある器官は容易く彼女を陥落させる。
自分の手で乱れ咲くジータに対して、可愛いという感情がベリアルに芽生えた。もっと彼女を感じたい。その気持ちは強くなるばかり。
「なあジータ。キスをしても?」
囁けば魅了状態と相違ない堕ちた瞳がベリアルを見つめ、微笑む。言葉にしなくても分かるジータの了承の意にベリアルは彼女を抱き寄せると、真っ赤な唇に食らいついた。
すぐに開かれる口内も熱すぎるほどに熱い。小さな舌を絡めながら硬口蓋を撫でたり、歯列をなぞったりしてジータを味わうと淫裂からは止めどなく膣分泌液が溢れ、ベリアルのグローブに包まれた手を濡らす。
「ん゛っ、んっ、……!」
口の中に吐き出されるのはくぐもった嬌声。閉じていた目を開ければ、ジータの目は白目を剥きかかっていた。
あぁ、イくのかと、ジータの限界を察知したベリアルは最後のダメ押しとして勃起したクリトリスを扱いてやる。
「ひぎっ! ぃ、あっあっア゛っ!! しょこぉっ、ごしごしらめっ! イッちゃ、ぁ、 あ゛、あ゛ぁっっ!!♡♡」
親指と人差し指で小さな小さな女の子のペニスを摘み、上下に動かせばジータの脚が激しく暴れ、開きっぱなしの口からはだらしない濡れ声が出るばかり。
部屋の外にも聞こえるのではないか、そう思っても仕方がない叫びを上げながらアクメを迎えた下半身が痙攣する。ビクッ! ビクッ! と大きな震えに合わせて秘裂からは潮が数回に渡って噴き出し、ベッドを濡らした。
大胆な絶頂に口笛を吹きたくなるのを我慢し、ベリアルはジータを寝かせようとまた動くが、ジータは「やだ、やだ」と幼子のように首を横に振って拒否をする。
「指じゃ、届かない、ば……しょ」
「これ以上はキミの嫌がる獣姦をしないと届かないよ。それともフィストファックでもするかい? だいぶキツいと思うが」
「じゅーかん、ベリアルとなら獣姦したい……」
「正気に戻ったらキミ怒るだろ」
まさかの誘いに笑みが深くなる。己の知るジータと今のジータは別人だと思えるほどに積極的。
本人の口からこの先を望んでいて、彼女の性格からして正気に戻っても怒ったりしないことなど分かった上での発言。決定的な言葉をジータから引き出したかった。
「怒らないからぁっ……! ベリアルとじゅうかん、したいのっ……!」
「キミがそこまで言うのなら」
真っ赤に熟れた林檎の顔をして、涙を流して懇願するジータの姿はこの先見ることはないのではと思うほど。
完全なメス顔でオスを誘う彼女の姿を脳裏に焼き付けると、ベリアルはジータを仰向けに寝かせ、開脚させた。
ヒクヒクと塞ぐモノを求める中心からは蜜が泉のように溢れ、性器を濡らしている。形も色も綺麗なコーラル色。普段から性的な香りをまったく感じないので、本当に生娘なのではないか。
ベリアルは己の性器が脈打つを感じながらボトムの前を寛げれば、ぶるん! と勢いよく男性器が飛び出す。
限界まで勃起した熱杭はヘソ辺りまで反り返り、その凶悪さを物語っていた。
股間に注がれる熱視線にはほんの少しだけ恐怖が混じっていた。彼女も想像していなかった大きさなのだろう。
それでも性欲に支配された思考では早く奥まで気持ちよくなりたいと考えているようで、むわりとした熱気が感じられる性愛器官をジータは両手で広げた。
くぱぁ♡ と糸を引きながら開かれる真っ赤な淫穴。男を誘う自発的な行動にベリアルの興奮がさらに高まる。
「はぁっ……はぁ……早くっ、ベリアルのおちんぽ、私のおまんこに挿入てっ、獣姦、してっ……!」
「キミからこんなに卑猥な言葉を聞けるとは……。やーばい、これだけで達しそうだ。あぁ、ゴメン。ほら、よぉく味わってくれよ?」
「お゛ッッッ!?」
「ッ、く……! おっとぉ、挿入ただけで昇天しちまったか」
亀頭を入り口に当てれば粘液で満たされたナカにすんなりと飲み込まれ、一気に挿入ってしまった。
ベリアルを受け入れた瞬間に内部は収縮し、ジータが達したことを伝えてくる。
ジータの膣粘膜は温かく、透明な愛液でぬめっており、とてもキツい。気を抜けばあっという間に搾り取られてしまいそうなくらいの圧にベリアルは奥歯を食いしばり、耐えた。
首を反らし、舌を伸ばしながらアクメを決めたジータに愛らしいものでも見るかのような微笑みを向けつつ、ベリアルは抽送を開始した。
バチュッ! バチュッ! と腰を押し込む度に膣液がベリアルの雄勃起によってかき混ぜられ、泡立つ。
ジータのナカは肉と肉が蕩けて交わってしまいそうなくらいに熱く、ベリアルにとって最高だった。
彼専用の穴かの如く襞が肉棒に吸い付き扱き、先端は子宮の入り口と濃厚なキスを交わしている。
「いッ♡ ア゛、ぁァッ゛! い゛っ、い゛っ、れ゛ぅぅ♡♡」
「終わらない連続絶頂ときたか。キミをこんな牝に変えるなんてすごい植物だ。オレもその体液を浴びてみたいよ」
シーツがしわくちゃになるほどに掴み、濁点混じりの嬌声を上げるジータの変わりようにベリアルは独り言を漏らすと、軍服のボタンを外し、前を開いた。
中に着込む黒のインナーは彼の筋肉の凹凸を際立たせ、黄金比を晒す。誰もが見てもウットリしてしまう美しさがあるが、今のジータの視界には入らない。
「お゛へッ♡ ほ、オ゛ぉっ♡ んう゛ぅッ♡♡ ずっと、いっへ……う゛ぅッ♡ とま゛っ゛、とまっ゛でぇッ♡♡」
「ゴメン止まれない。オレもキミを通して植物にヤられたか──なッ?」
「ひィ゛っ!? やらぁっ! あたまばかなっちゃ、オ゛ッ♡ お゛ごォっ♡♡」
「馬鹿になっちゃあ困るなァ。キミはファーさんの優秀な助手なんだから」
抜ける寸前まで引き抜き、一気に押し込めばピストン運動に合わせて汚濁にまみれた喘ぎを上げ、ジータは絶頂を訴えた。
イキっぱなしの状態にジータは鼻水を垂らし、泣きながらこれ以上は頭が馬鹿になると声を上げるが、ベリアルはどこ吹く風。
ジータが優秀なのは本当だ。──副所長。与えられる権限や地位は羨望の的ではあるが、実際は所長であるルシファーの雑用係。
無理難題をさらりと言い放つルシファーのそばで、ベリアルたち天司が造られる前からずっと仕事をこなしてきた。
その彼女の知性が下がってしまうのはよくないことだが、ベリアルは他人事のように流し、ジータの膝裏に手を当てると前方へと折り畳み、体重をかけるようにのしかかると結合部の繋がりをさらに深くした。
「あ゛ぁ……ッ゛!♡ 子宮ゴツゴツしちゃ、ダメェっ!♡ あ゛っ、ア゛ぁぁ゛ッ♡♡」
「はァ……オレもそろそろ限界だ。このままナカに射精しても?」
同意を得なくてもこのまま中出しするつもりではあるが、あえて聞くのはジータがどんな返事をするか聞きたいから。
「んぁ、ァ゛っ!♡ 種付けっ♡ ひぎぃっ! 種付け、してっっ!♡♡ べりあるのザーメンっ、いっぱい、ちょうらい♡♡」
ジータに背を抱かれ、密着すると目の前に迫るのは涙や汗、唾液でぐちゃぐちゃになった彼女の顔。
自分でもなにを言っているのかもう分かっていないだろう。
白目になりながら呂律の回らない舌でベリアルを求める下品な言葉の羅列は受け入れる人を選ぶものがあるが、ベリアルは受け入れることが可能な側。しかも喜んで。
普段はクールで知的な女性の、この先二度と見られないと思われる淫れ狂う姿。じっくりと脳に記憶しながらベリアルはジータを甚振った。
部屋に響くのは獣の声とベッドの軋む音。音の間隔は短くなり、ベリアルの呼吸も激しさを増していく。
ただひたすらに射精するためだけに腰を打ち付け、もうそろそろというところまでくると、ベリアルはジータの口に噛み付くようなキスをし、ぶるりと下肢が震えると子宮に向かって大量の精を流し込んだ。
「ぁ……ひ、しきゅー、あったかいぃ……♡♡」
内部が満たされる感覚にジータはふにゃりと笑うが、その目はどこを見ているのか分からない。少なくとも目の前にいるベリアルは見ていないだろう。
深く息を吐き出しながら最後の一滴までジータの膣内に吐き出すと、ベリアルは体を起こして分身を引き抜いた。
栓がなくなった穴からはゴポゴポと濃厚な白濁が溢れ、流れていく。
欲を解放したことでベリアルも冷静さを取り戻し、今度こそ薬を取りに行こうとしたところでまたジータの声が上がった。
「やらっ……! 抜かないでっ……!」
「何回も達したのにまだするつもり? 時間があるならオレも応えてあげたいけどそろそろファーさんのところに戻らないと。キミの薬もすぐに持ってくるよ」
「う゛、ぅぅ……!」
「そんなにハメられていたいの? 他の天司や星の民でも連れてこようか?」
すんすんと鼻を鳴らしながら泣くジータを見てほんの少しの意地悪をする。仮に彼女が頷いても絶対に連れてはこない。元に戻ったときの彼女への影響が大きすぎる。
これがどうでもいい女ならば性欲を持て余した星の民辺りに適当に投げるが、ジータはルシファーのために必要な存在。まだまだ役に立ってもらわなければならない。
さあどんな答えを紡ぐのか。ギラついた緋色を向けながら彼女の言葉を待っていると、出てきた言葉はベリアルが予想していないものだった。
「やだっ! ベリアル以外はイヤっ! 絶対したくないッ!!」
ただの“嫌だ”ならば予想していたが、ベリアル以外とは絶対にしたくないという頑なな意思は考えていなかった。
これは彼女の本音なのか。真顔で瞬きを繰り返すばかりのベリアルは分からずにいた。
いつもは姦淫に誘っても“獣姦はお断り”と一点張りの彼女が、自分を?
「……オレ以外が嫌なら大人しく待っていられるな? なるべく早く薬を持って戻ってくるから」
「分かった……」
***
翌日。ベリアルはルシファーのいる執務室へと向かっている最中だった。するとちょうど部屋から出てくる金髪。
あのあと、ジータの部屋を去ったベリアルはルシファーには体調不良だと報告し、鎮静剤を持って部屋に戻れば彼女は静かな寝息を立てて眠っていた。
だいぶ落ち着いた様子に胸を撫で下ろしつつ、薬を注射したベリアルはジータの体をシャワーで綺麗にし、寝間着を着せると新しいシーツに替えた清潔なベッドに寝かせて部屋をあとにした。
その後は時間を見て様子を見に行っていたが、ジータは一度も目覚めることはなく、今に至る。
部屋から出てきた彼女からは見た感じ不調は感じられない。あの様子ならばもう大丈夫だと考えていると、ジータと目が合った。
一瞬だけ驚いたような顔を見せたが、すぐに表情を柔いものへと変えると、ジータはベリアルの方へと歩み寄ってきた。
「おはようベリアル」
「オハヨウ。体の具合はどう?」
「うん。もう大丈夫。ルシファーへの報告が遅れたから嫌味言われたけど」
「ファーさんらしいね」
「……色々ありがとう、ベリアル」
「ん?」
「私……最後、床に倒れてたと思うの。それなのに起きたらベッドで寝てて、服も変えてあって。私の様子を見に来たあなたがしてくれたんでしょう? だから、ありがとう」
「……どういたしまして」
「それじゃあ、またあとでね」
昨日なにがあったのかを覚えていないのか。極度の興奮状態だったので記憶にないのも頷ける。
残らなかったのならばそれでいい。素早く思考を切り替え、人好きのする笑みを浮かべると、ベリアルはジータと別れた。
背中に感じる靴音が少しずつ遠ざかっていく。
ベリアルに背を向けて歩くジータの頬がこれでもかというほどに紅潮していることに──彼が気づくことはない。
終