「ダブルしか空いてない……!?」
ルシファーの命令でとある島にフィールドワークにやって来ていたジータは、街の宿屋で大きめの声を出す。
現在の彼女は上から下まで濡れており、その理由は外の土砂降りの雨。
調査に区切りがつき、さあ帰ろうと思った矢先だった。大粒の雨が頬を濡らしたかと思った瞬間、天からは無数の雫が降り注いだのだ。
本来ならば艇に乗って帰る予定だったが、この悪天候で無理やり島を出るよりかも一日宿に泊まった方がいいと判断し、雨の中一番最初に見つけた宿屋に入った結果が冒頭だ。
「オーケイ。その部屋でいい」
「ちょっと……!」
後ろから声をかけたのはベリアルだ。フィールドワークはジータ一人で行くはずだったのだが、なぜか勝手についてきたのだ。
普段の彼は真っ白な制服で露出も最低限なのだが、今の彼は全身黒ずくめ。ドレスシャツはボタンが一つしか付いておらず、胸元と腹部を大胆に露出している。
彼もジータと同じように濡れており、短い髪からはポタポタと雫が滴っている。その様子が非常に妖艶で、受付のヒューマンが見惚れるほど。
宿に泊まることを決め、どこから取り出したのか。早々にルピを支払うとベリアルは鍵を受け取った。
その様子をジータは不服そうに見ていることしかできない。
「まあまあ。こんな大雨の中、別の宿を探すのも億劫だろう? さ、行こうぜ」
「くっ……」
確かに彼の言う通りだ。今更違う宿を探すのは面倒。それに部屋自体が空いていないかもしれない。
それ以外にも早く濡れた服を脱ぎ、温かい風呂に浸かりたかった。星の民であるジータは空の民よりも強い肉体だが、無理をすれば体調を崩してしまう。それだけは回避したい。
「ま、一般的な宿だしこのくらいか」
部屋の鍵を開けたベリアルは内装を見て呟く。続いて中に入ったジータも“普通”という言葉がぴったりの部屋に内心同意する。
外の豪雨が見える正方形の窓。机と椅子、そして部屋の大部分を占めるダブルベッド。最低限の物しか置かれておらず、部屋もジータの自室と比べると狭いが一晩の宿なら充分。
「はい、タオル。体を冷やすと風邪引くぜ? すぐに湯の支度をするから待ってて」
「う、うん。ありがとう……」
脱衣所に向かい、戻って来たベリアルの手には白いタオル。はい、と差し出されたそれを受け取ると、彼は再び脱衣所の方へと消えていく。
ジータはその背を見遣り、雨に濡れた体をタオルで拭く。皮膚に付いた水分は取れたが、濡れて肌に張り付く服は洗って乾かさなければならない。
(できるところまで纏めておくか……)
椅子に腰掛けて荷物の中身を取り出す。
インクとペン、何枚かの紙。湯の準備が整うまでの間に報告書を少しでも進めておく寸法だ。
地面に叩きつけられる雨水の音をBGMに、まっさらな紙に黒いインクを走らせていく。音を聞く分には雨は集中力を高めるいいものなのか、ジータの手は止まることなくペンを動かし続ける。
***
「オカエリ。ベッド、温めておいたよ」
「…………」
湯の用意ができたと知らされたとき、ちょうど筆が乗ってきたところだったのでベリアルを先に入らせ、その後ジータも入浴を終えて部屋に戻ってくると、こちらを誘うような目と姿をしながらベリアルがベッドに寝ていた。
温めておいたよと、今まで寝ていた場所から隣へと移動する彼の服はジータと違い、備え付けられていた黒色のナイトガウンを一枚着ただけ。
ジータはというと、衣服を水と風の魔法を駆使して洗濯・乾燥し、再び着ていたのだった。それでも寝るために装飾品類は外し、白衣も着ていない。
自分ひとりならば宿のガウンを借りたかもしれないが、ベリアル相手に無防備な格好をしていたら……自分から食べてくれと言っているようなもの。
「ありがと……」
ふぁぁ、とあくびを噛み殺しながらジータはベッドへと上る。普段はもう少し反応を示すのだが、眠すぎてそこまで気が回らない様子。
大人しく今までベリアルが寝ていた場所に体を横たえると、人肌の温もりに包まれて一気に意識が持っていかれそうになる。
香水の人工的な香りではなく、彼自身の香りも感じられて、まるで抱きしめられているような──。
「って、なに……? ベリアル……」
香りにうっとりとしていると、気付ければ本当に抱きしめられていた。
頬には厚い胸板が当たり、横から伸びる手は体に絡みつくがジータには勢いよく剥がす気力はない。今は眠くて眠くて仕方がないのだ。
「おいおい……男と女が同衾するんだ。ヤることは一つしかないだろ?」
興奮した表情で覆い被さってきたベリアルに両手を頭上でひと纏めにされ、片手で押さえつけられる。
けれどジータは激しく抵抗したりはしなかった。もちろん諦めたわけでもない。
普通の女ならば星晶獣──しかも、ルシフェルと同等の性能を持つこの男に抵抗などできないが、ジータは違うのだ。
「疲れてるから寝かせて……。冗談なら夢の中で聞いてあげるから……」
半分寝ている顔をしながらもベリアルの腕をぐぐぐ……! と、押し返すと自由になったその手と体で逆に彼を押し倒して元の位置に戻し、再び隣に寝た。
すぅすぅと胸を上下させる眠り姫は無防備だというのにその実、難攻不落の城そのもの。それが彼女の未知数の力の片鱗を物語っていた。
「……オーケイ。夢の中、ね」
***
「ここは……?」
ふと、意識が戻ると目の前には店らしき建物があった。町並みに溶け込むようなデザインの店は見たことはないが、自分はここに入らなければいけないような気がする。
(明晰夢かしら……)
どこも見ても人ひとりいない。空を仰げば鳥さえも。これが夢でなくてなんなのか。ジータは夢を夢と認識する明晰夢と判断し、とりあえずは自分の気持ちの向くままに目の前の店の扉を開けた。
カランカラン、と扉に付けられたベルが鳴り響き、店内に来店の合図が届くと奥から白い施術服を身に着けた煤竹色の髪をした男が一人。ジータがよく知る人物だった。
「べ、ベリアル……!?」
「ようこそいらっしゃいました。ジータ様。お待ちしておりました。準備の方はもう出来ています。さあ奥へどうぞ」
(ベリアルだけど……なんか気配が違う……? 眼鏡をかけてるし、夢だから? それにしても夢に彼が出てくるなんて……。それに準備ってなに?)
いやらしさの一欠片もない爽やかな笑みを浮かべながら、ベリアルと思われる男は店の奥へどうぞと片腕を広げた。
ジータは戸惑いながらもこれは自分の生み出した夢の存在なんだと決め、これからなにが始まるのか疑問を口にすれば彼は目を閉じてにこやかに笑う。
「これからジータ様にはマッサージを受けていただきます。日頃の疲れをここで癒やしていってくださいませ」
(マッサージ? ベリアルにマッサージしてもらうってこと!?)
展開が急すぎて置いてけぼりにされている感が否めず、さらにはベリアルにこの身を触れさせるときた。嫌ではないのだ。むしろ……。
現実では恥ずかしさ故に冷たい態度を取りがちだが、本当はベリアルに好意を抱いているジータは自分の妄想力の豊かさに心中でため息を吐きつつも、自分の都合のいいように生み出された夢なのだからと逆に楽しむことにした。
ベリアルに案内されて奥へと向かえば更衣室と思われる部屋へと着いた。棚には衣服を入れるカゴと簡素な作りのブラジャーとショーツが置かれている。
「ここで衣服を全て脱いでいただき、代わりにそちらの下着を身に着けてください。着替えが終わりましたら一番奥の部屋にお越しくださいませ」
そう言って、ベリアルは退室した。静かに閉められた扉を見て数秒。ジータはカゴと向かい合い、自らの身を包む布を一枚いちまい脱いでいく。
鼓動を速める心臓。夢とはいえベリアルに肌を見せることに対しての羞恥心が、ジータの頬に朱の化粧を施す。
「こんな恥ずかしい下着を穿くの……!?」
全裸になり、用意されたショーツを手に取れば紙製。それはいいのだが、その形状に問題があった。
前は布があるのだが、後ろは紐。空の民の生み出した下着の中にそんなものがあったような気がするが、まさか自分が身に着ける日が来るとは思わなかった。
それでもこれ以外には見当たらないので大人しく穿けば、やはり後ろが心もとない。きっと現実世界で穿くことはないだろうと強く思う。
胸は紐がないチューブトップブラで背面に付いているリボンで結ぶタイプのようだ。胸部をすっぽりと隠すためだけの下着。そこには当然補整機能はない。
「あとは部屋に行くだけ……か」
用意された下着を身に着けたジータは一人呟くと部屋を出た。向かうは一番奥の部屋。落ち着いた空間づくりのためなのか照明が暗めの通路には他にも扉があったが、迷うことはなかった。
目的の部屋へいざなうように敷かれたカーペットが道標となって伸びているからだ。
扉の向こう側からベリアルの気配を感じる。この部屋に入ればマッサージの開始。どんなマッサージなのかは分からないが、ここまで来て引き返すという選択肢はない。
意を決して扉を開き、中へと入れば部屋は広いものの照明は通路よりも落とされ、香が焚かれているのか呼吸をするだけでリラックスできるような気がした。
これならば普段の疲れを充分に取ることができるだろう。夢の世界で疲れを癒やして、現実世界でも効果があるのかいささか疑問ではあるが。
「ようこそジータ様。ベッドにうつ伏せになってください」
部屋で待機していたベリアルに言われ、ジータは頷くと靴を脱いでマッサージベッドに伏臥位になる。肌に触れるタオルタイプのシーツの触り心地がまた上等で、こうして寝ているだけで癒やし効果がありそうだ。
「ではまず肩や首周りをほぐしていきますね」
(き、気持ちいい……)
人肌に温められたオイルを纏った大きな手が肩や首へと伸びる。荒れのないすべすべの手に凝りをほぐすように揉まれ、ジータは大きく息を吐く。
「だいぶ凝っていますねぇ。また所長さんに言われて体を使うような仕事を?」
「え? えぇ……まあ。自分で行くほどでもない調査とかは私任せで……。でも慣れているから」
今回のフィールドワークもその類いだ。ルシファーはその天才的な頭脳を働かせるのがメインで、ジータは肉体労働でそれを補佐する副所長とは名ばかりの所長専用の雑用係。
唐突に無理難題を押し付けられることも多々あり、仕事内容のハードさを知らずに副所長という肩書きを羨む所員は大勢いるが、仮に副所長になったとしてもすぐに音を上げるのは目に見える。
「大変だとは思いますが、その所長さんはあなたの仕事ぶりを評価していると思いますよ。必要ないと思ったら……言い方は悪いですがすぐに切り捨てるような方だと感じます。そんなお方がずっと……長い間ジータ様を側に置いているのです。もっと誇っていいと、私は思います」
「感謝の言葉なんて一度も聞いたことないけど……確かにそうかもね。彼は自分に不要な物は置かない気質だから。……仕事内容はともあれ、今の地位は悪くないと思ってるの。ヒラ研究員だったら一緒に行動することも叶わない人と仕事できるし」
ベリアルだがベリアルではない男がなぜルシファーの話題を知っているのかが気になるが、これは夢。自分の夢なのだ。知っていてもおかしくはないと考えを切り替え、改めてマッサージに集中していると「失礼します」と背中のリボンを外され、胸が外気に触れた。
「っ……」
うつ伏せなのでほぼ隠れてはいるが、やはり恥ずかしく思う気持ちが芽生える。だがすぐに意識は違うところへと引っ張られることに。
背中を這う手が絶妙な力加減で、体内に蓄積された疲労が解放されていくようだ。星の民であるジータはルシファーによって造られた天司、ベリアルよりかも長生きしている。その人生の中でマッサージを受ける機会などなかったため、未知の気持ちよさにすっかりと身を許してしまう。
「ひっ……ぁ……っ……!?」
お尻を流れて太もも、ふくらはぎ、足の爪先までマッサージされてホッとしたのも束の間。上へと戻ってきた両手はぐにぐにと桃尻を揉みしだく。
その度に尻穴や女性器が刺激されて、弱いながらも悦を感じてしまい、声が漏れてしまう。
「ヒップもかなり凝ってますね〜。少し強めに揉みますね。痛みを感じたら言ってください」
「ん……っ、は、はいっ……」
お尻部分は頼りない紐がかろうじて覆っているだけ。それにこんなに揉まれたらもうズレて中身が見えているはず。想像するだけでおかしくなりそうだが、これは夢だと何回も唱えることでなんとかギリギリの精神を保つ。
(体が熱い……あたま、ぼーっとする……)
マッサージの影響だろうか。全身が発熱し、思考回路までもが熱せられて深く思考することができない。
加えて肌が鋭敏になってきて、マッサージ行為だというのに他人にまず見せない場所を“ベリアルに触れられている”ということに身体が勝手に快楽を拾ってしまう。
「あぁ……っ、そんな、奥までっ……!」
「奥にリンパの流れをよくするツボがあるんですよ」
尻肉に隠された場所へと潜り込む指にジータの身体がビクリ! と強く反応する。それに対して平然と告げる彼の言葉が嘘なのか本当なのか考える余裕は今のジータにはない。
指が性器を掠め、ジータは声を抑えるので精一杯。絶え間ない指の動きにじわじわと淫穴は愛液を垂らし始め、ジータはそれを自覚すると強く目を閉じた。気づかれませんように……! 今はそれだけが願い。
「……はい。これで背面は終了です。次は仰向けになってください」
「はーっ……! はーっ……!」
永遠とも思える時間は突然終わった。ジータのオイルまみれの肌を滑っていた指たちは離れ、ベリアルからは終了の言葉。それでも背中が終わったというだけでまだまだマッサージ自体は終わりではない。
額に汗を浮かばせ、胸を隠す布が落ちないように腕で押さえながらジータは仰向けになる。眼鏡姿のベリアルの顔が見えるようになった途端に彼の手が自分の肌を揉んでいた事実に顔に熱が集まり、目を合わせることができない。
目を逸らした先にあるのは自身の下半身。見た感じは濡れてないが、膣口がある場所はこちらからは見えないのでもしかしたら染み出している可能性もある。
「下半身はタオルをかけさせていただきますね」
大きめのタオルがかけられ、ジータの下腹部を覆った。とりあえずはベリアルからも見えなくなったので一安心。それでもきゅっ、と両足を閉じるとベリアルの両手が胸を隠すジータの手に触れた。
「これからバストのマッサージを始めます。ジータ様、お手を……」
「む、胸を……!?」
「ええ。バストへのマッサージでバストアップ効果が期待できます。私にジータ様をより美しくするお手伝いをさせてください」
眼鏡の奥の瞳からは邪悪な感情は伝わってこない。至って真剣だ。こんな彼の姿を見たことがあっただろうか……。と、回顧してしまいそうになる。
これも妄想の力なのか。自分の想像力の豊かさに心の中で苦笑い。老若男女誰でも堕ちてしまう緩やかな笑みを浮かべて口にするベリアルにジータは腕の力を弱め、自らベッドへと置いた。
「失礼します」
紙製のブラジャーが外されたときにはさすがに目を閉じて顔を逸らした。その頬はほんのりと赤く染まり、羞恥に耐えている。
露わになり、横に流れる胸は大きめで先端にある桃色の飾りはツン、と上を向いている。もし普段のベリアルならば乳頭を見て揶揄してくるかもしれないが、目の前のベリアルはなにも言わない。
ポンプタイプのオイルを手のひらに出して温めると、ジータの膨らみへと腕を伸ばす。
「くッ……うぅっ……!」
触れた瞬間に身体がこわばる。勝手に出てしまう声を必死になって殺す。
円を描くように這う男の手。豊かな胸はベリアルの手によって離れたりくっついたり。乳輪には触れるが決して尖りには触れず。
彼の手によって淫らな熱を孕む身体。じくじくと疼く股間を鎮めようと足をすり合わせてしまう。子宮が男を──ベリアルを求めている。
いつまで経っても与えられない決定的な刺激に……もどかしい、と思ってしまった。
「あッ……! ぁ……や、」
そんなジータの思いを夢は反映したのか、ベリアルの親指が硬くなった乳首を弾いた。いきなりのことにジータは悲鳴のような声を出してしまい、ハッとして慌てて口を手で押さえるも、顔を近づけたベリアルによって外されてしまう。
「いいんですよ。ここには私とジータ様しかいません。思う存分、その可愛らしいお声を聞かせてください」
「んっ、あっ、あぁっ……! そんな、あぅぅ……!」
オイルに濡れた乳房は照明の光を受けて淫猥に光り、光沢のある乳嘴を親指と人差し指で何度も抓られる。
痛いのに、なぜか気持ちいい。ベリアルにもっとされたい。その感情を見透かしたように彼の手の動きは激しさを増す。
滑りのよくなったまろい肉はベリアルの手の中で容易く形を変え、鋭敏な乳首にも無遠慮に触れられる。たんっ、たんっ、とリズミカルに押し潰されてジータの呼吸も荒々しいものへと変わっていく。
「はっ、あァッ……! ン、声……だめなのにぃっ……! ひぅ、んっ、んん……!」
ベリアルはジータの乱れる様子を涼しい顔で見つめながらぐりぐりと乳首をこね、その度にジータの身体が波打つ。
股間が直接的な悦を求めてとろりと蜜を流すのが分かる。手を伸ばしてそこに触れて、気持ちよくなりたい。
ジータは衝動のまま手を伸ばしそうになったが、ベリアルの存在を思い出して伸ばす代わりに背中に敷かれているシーツを握りしめた。
「フフフ……バストのマッサージが終わりましたので次の施術へと移ります」
陶酔状態に陥っているジータに語りかけ、追加したオイルを纏ったその手は下へと滑っていく。引き締まった腹部を撫で、両手はタオルの中へ。
熱気がこもる場所。身体の中で一番恥ずかしい場所へと伸びた手が鼠径部に触れただけで性電気が走り、ジータは小さく振動した。
「先ほど申しましたようにこの辺りはリンパの流れを活発にさせ、老廃物を排出しやすくするツボが集中しているんです」
「っは……! んぅぅっ……!」
ベリアルの両手がタオルの中で陰部をまさぐる。大陰唇を押され、ジータは反射的に目を閉じる。奥歯も食いしばり、声を我慢するがベリアルの白皙の指はジータの堅牢な壁を崩そうと蠢く。
「我慢は体に毒ですよ。ほら、ここと同じように素直になって」
「あぁッ! う、あ、ぁ……!」
「聞こえますか? オイルではなく、あなた自身の蜜の音が」
艶冶に笑いながらベリアルはわざと湿った音を立て、自分のそこから奏でられる淫靡な音楽にジータは歯噛みする。
「タオルと下着、取りますね」
「あっ、だめぇっ! 見ないでぇ……!」
ベリアルは告げるとジータの手が伸ばされる前に淫部を隠す布を手際よく外し、オイルと愛液でコーティングされたつるりとした場所をさらけ出す。
実年齢とは裏腹にどこか幼さを感じさせるなだらかな丘。ふっくらとしたサーモンピンクの陰唇は左右対称で上部に鎮座する珠は膨れ、顔を出していた。
割れ目からは泉が湧き出るように愛汁が溢れ、雄を受け入れる準備を着々と進めている。
「とても綺麗だ……。こうしてじっくりと見るのは──いや、やめておこう」
独りごちるとベリアルは白魚の手を性愛器官へと伸ばす。片方は膣前庭、残りはクリトリスへと触れて上下左右に動かせば今までとは違う快楽にジータの腰がうねり、下に敷かれているシーツに皺が深く刻まれる。
「ふっ……! ふぁ……それ……っ、つよっ、あぁんっ!」
愛おしく振動する下半身にベリアルはじっくりとジータの痴態をその目に焼き付けながら笑みを深め、陰核を弄っていた親指で愛蜜を掬うと、小さな尖りにぐりぐりと塗りつける。
瞬間ジータの目の前がチカチカと明滅した。気持ちよくなるためだけの器官。そこを他人の、ベリアルの手によって愛されて信じられないくらいに気持ちがいい。
「そろそろナカを“直接”マッサージしますね」
「ぁ……!」
入り口付近に触れていた手の中指が中心に添えられ、小さな穴から内部へと侵入してくる。秘処を襲う異物感にジータ喘ぎ、膣内に埋まっている指がクリトリスの裏側を押すように撫でれば声を抑えることができない。
「ぁ、ん……ッ……! くうっ……! ひゃっ!? 指っ、また……!?」
「見てください。二本目もスムーズに入りましたよ」
追加で人差し指も。男の指を二本も受け入れたジータの潤みの壺はもういっぱいだ。
股間から這い上がってくる性感に甘い声量は大きくなるばかり。恥ずかしいという気持ちはそう感じる余裕がなくなり、脳は悦だけを受け取る。
「普段は氷のようにクールなあなた。その乱れる様を見たのは私以外に何人いるんでしょうか」
「ふ……ッ……! んくぅッ……! ふ、そんな、あンッ! こと、知ってぇッ……なんになるの……!」
的確に弱点を責めてくる指にジータは悶えながらもベリアルの発言に少し棘のある返しをする。けれど彼はジータからまともな答えを聞けるとは端から思っていなかった様子。
生理的な涙で目元を濡らしながら蕩けた啼き声を上げるジータを穏やかな表情で天上へと導いていく。
(こんなっ、こんなのぉッ……!)
マッサージなんかじゃない。セックスだ。与えられる熱に支配された脳裏に一瞬だけ浮かんだが、すぐに性熱に飲み込まれて消えてしまった。
もうどうでもいい。これは夢なのだから。言い換えればベリアルを使った自慰。オナニーだ。
「はっ……はっ……! イッちゃう……! もう、だめっ……!」
「そうですね。最後の施術の前に一度達しておくといいでしょう。さあ、あなたのイく姿をオレに見せてください」
直後、早まる手の動き。それはジータをイカせようとする以外のなにものでもない。淫核を扱かれ、恥粘液で濡れた指を根本まで挿入されて性感帯を重点的に責められれば耐えることなんてもうできない。
快楽の涙を流し、だらしなく開いた口から唾液を滴らせながらジータはその美しい身体を揺らして嬌声を奏でる。ハリのある乳房がぷるぷると振動し、雄を誘う。
「いく、いっちゃう……ベリアルの指で……あぁッ……! ぃ、イくぅ……っ……! ぅ、うぅ〜〜〜〜ッ!」
視界が真っ白に染まった瞬間、解放感に満ち足りる。我慢していたものが弾け、身体から力が抜けていく。収縮する膣内がベリアルの指を締め付け、その形が感じられて、ベリアルの手によって絶頂を迎えたんだと自覚すると多幸感が溢れる。気持ちよすぎて虜になってしまいそう。
「ぁ、んんっ……」
「内部もだいぶ柔らかくなったようだ。では最後の施術へと移行しましょう。指で届かない場所をコレでマッサージします」
「あ……ッ」
ナカの様子を探るように指の腹が肉壁を撫で、ちゅぽっと引き抜かれる。咥えていたものがなくなったことに少し寂しさを感じているとベリアルはマッサージベッドに乗り、跪坐の体勢で座ると自らの太ももにジータを引き寄せ乗せた。
硬くなっているベリアルのソコとぐしょ濡れのジータのソコが合わさる。ここまでされればさすがにベリアルがなにをしようとしているのかは分かる。
このまま何もしなければベリアルのペニスを挿入られる。けれど抵抗する気はジータにはなかった。夢でもいいから彼を感じられるなら──現実では素直になれないから……。
真っ白な制服のボト厶から取り出された猛りはジータの想像以上。赤黒い長大は血管が浮き出て雄らしさが感じられ、くびれた亀頭からはとろりとろりとカウパーが滲み出ている。
見ているだけで、他の誰でもないベリアルの怒張に貫かれる想像をするだけで子宮が甘く疼く。
本当の自分はこんなにはしたない女だったのか、と少しだけショックを受けてしまう。
「では最後の施術とイキましょう」
(挿入っちゃう……ベリアルのアソコが、私のナカに挿入っ──)
そうするのが当然のようにベリアルはジータの淫蜜を分身に塗りつけ、ローション代わりにすると先端を矮小な穴へとあてがう。粘膜から彼の熱を感じ、ジータが息を呑んだ瞬間、一気に押し込まれた。
「ンッ……! ああぁぁァァ……っ……!」
閉じられた場所を無理やり開かれる感覚にジータの背は弓なりに反り、目も見開かれる。腹部が苦しい。けれど胎内に感じるベリアルの熱に身体が喜んでいる。
「分かりますか? オレのペニスがジータ様のヴァギナを満たしているのが」
「うぁぁぁっ……! 押さない、でっ……! はっ、ンン~〜ッ……!」
いびつに膨らむ下腹部を軽く押され、埋まっているのがありありと感じられてジータは目を閉じる。
結合した場所が酷く熱い。熱くて、溶けて、そのまま混じり合ってしまいそうな……。
「それにしても……まるで初物のように締め付けてくるッ……! 日頃から鍛えてらっしゃるからでしょうか。ッ、フ……正直、達してしまわないように堪えるのが精一杯です。この名器でどれほどの人数のオトコを喰らってきたのでしょうか」
ジータの柳腰を掴み、気持ちよさそうに顔を蕩けさせるベリアルは非常に妖艶でジータの胸が熱くなるが、後半のセリフに一気に赤い感情が溢れる。
まるで遊んでいるかのような言い様。夢なのだから最後まで気分よく終わりたいものだが、なにを思って自分の妄想の産物はこんな酷い言葉を言ったのか。
「っ……人を遊んでいるみたいに言わないでっ」
涙目で、しかも組み敷かれている状態で言っても効果はないと思いつつも睨まずにはいられない。ついでにお仕置きと言わんばかりに膣に力を入れて締め付けてやればベリアルは分かりやすく呻き、前屈みになった。
「ッ……! フフ……申し訳ありません。ですがあなたは星の民。オレよりも長く生きてらっしゃる。その時間の中でこういった経験は何度もあるのでは?」
「……そんなこと言ったら、所長は私の知る限り“童貞”よ。そういうこと自体に興味がなさそうだし。あなたの場合は“処女”と言った方がいい?」
「ほう……それはそれは……。とてもいいコトを聞きました。おっと、無駄口が過ぎましたね。失礼致しました」
「ッ、あっ! ふ、っく……っ、ぁ、ん……!」
深く結合した場所を軽く突かれ、不意打ちにジータは喘ぐ。硬くて太いモノが弱点を的確に責め、腰を引かれるとカリ高の熱源に膣肉が抉られ、非常に気持ちがいい。
夢の存在でも彼に抱かれているという事実がジータの精神を満たし、陰部からもたらされる悦は肉欲を満たす。
「あぁん、あッ、アァッ……! あッ!? 乳首っ、ぐりぐりだめ、だめぇっ……!」
テカる乳頭を指で抓られ、引っ張られ、押し付けるように弾かれる。全身が性感帯になっている今のジータにとっては痛みさえも快楽へと変換され、先端から乳輪を通って広がっていく快楽電撃にその身を激しく震わせた。
「怖がらなくても大丈夫。オレに身を任せて……」
ただ腰を揺り動かす。それだけなのにベリアルのペニスに突かれる度に視界が白み、意識が持っていかれそうになる。
あまりに気持ちよすぎて双眸からは途切れることなく雫が流れ落ち、ベリアルは身を屈ませてそれを舐め取った。
ふっくらとした唇はそのままジータの口へ。艶めく唇を塞がれ、ねじ込まれる舌。ちゅるちゅると絡められ、吸われ、ふわふわとした心地に包まれる。
ベリアルが動けばそれに合わせてジータの身体が揺れ、濡れた声が男の中へと消えていく。繋がった場所はジータの愛液なのか、ベリアルの精液なのか分からぬ体液が泡立ち、ヌチュヌチャと淫猥な音を響かせる。
「気持ちいい?」
互いの呼吸が感じられるほどの至近距離。ベリアルも感じているのか白樺の肌を朱に染め、こうしている間もやまぬ突き上げに胸には充足感が溢れる。
「ベリアルもっ……きもちいい……?」
汗と涙で濡れた顔で聞けば、彼は言葉の代わりに微笑み、深く抱きしめられる。ゼロ距離でのベリアルの香りにすっかりと誘惑されたジータは自分からも腕を伸ばし、彼を抱きしめた。夢だからこそ自らの気持ちに素直になれるのだ。
耳元で繰り返される湿った呼吸と、射精へと向かう雄の唸り声。
好きな人と繋がることはこんなにも幸福なのか。けれど同時にこの男に堕ちてしまったら破滅してしまうような予感がする。
だが、それでもいいと一瞬思ってしまうくらいには、この獣は蠱惑的だった。
「ぁ、あッ! おくっ、子宮にっ、当たって……! はあぁぁん、またっ、ぃ、イくっ……いくぅ…………ッ!!」
心身ともに蕩けさせるセックス。ベリアルだけの肉筒は彼の精液を搾り取ろうと蠢き、締め付ける。肌がぶつかる乾いた音と、内部を掘削される衝撃に視界に星が散る。
「はぁ……キミがこんなにもイイだなんて。っは……ぁあっ……! ははっ、でる……ッ!」
ジンジンと痺れるような快感が股間を襲い、身体の中にいるベリアルが脈打つのを感じる度に張り詰めていく。絶頂の気配に大人しく身を委ねていると、ベリアルが顔を上げた。
熱があるかのように上気した顔。額に浮き出た汗が一滴、ポタリとジータの顔に落ちた。そのときだった。
「んぁぁァッ!? アんっ、ぁ、あアァァ……!! ベリアルのっ、ドクドクって……私のナカにいっぱい、出てる……っ……!」
最後の一突きの果てにジータの精神は弾け、内部には大量の精が吐き出される。子宮を満たしていく熱い粘液に足がピンと伸び、ぐったりと身体の力が抜けていく。
「はぁ…………はぁ…………あぅ、」
絶頂の余韻に浸っていると、ベリアルが起き上がり、腰を離す。ずるりと引き抜かれる肉棒に無性に寂しさを感じてしまう。
咥えるものを失った膣口からは彼の残滓が流れ出し、ベリアルの視線はそこに向いたまま。どこか満足そうに見つめる彼を見ていたいが、急に強い眠気が襲ってきて目を開けていられない。
「あぁ……もう時間か。いい夢を見られたかな? では、また──」
ベリアルの声は、最後まで聞こえなかった。
***
「はっ──」
暗い海の底から水面へと顔を出すように覚醒すると、その勢いに任せて起き上がった。全身に汗をかき、心臓は激しい運動をしたかのように脈を刻む。
窓からは朝の日差しが差し込み、昨日の悪天候が嘘のような晴天日で朝市の賑わいも聞こえてくる。
隣を見れば、ベリアルがすぅすぅと胸を上下させていた。安らかな表情で目を閉じており、その寝顔に少し幼さを感じてしまうのは自分が年上だからか。
起きる様子のない星の獣に微笑みを零していると、不意に夢の内容を思い出してジータの体に緊張が走る。ああそうだ。自分は夢の中で──。
(なんて淫らな夢を……! しかもよりによってベリアルを登場させて、あんなこと……!)
意識すれば下着は放っておくことなどできないくらいに湿り気を帯びており、シャワーのついでに洗って乾かさなければならないレベルだった。
「オハヨウ。副所長殿? いい夢は見れたかい?」
「ッ!?」
考えに耽っていたため、ベリアルのことはすっかり意識の外だった。甘えるように背後から抱きつかれ、腕は胸元へと回されている。耳元には掠れた声が吹き込まれ、体は勝手に震えてしまう。
「……おはようベリアル。シャワーを浴びたいから離れてくれる?」
背後に感じるたくましい肉体と服越しに感じる体温が非常に心地よくて、夢だったら身を委ねてしまうだろうがこれは現実。素直になれない。
「背中、流してあげようか?」
「結構よ」
巻き付く腕を嘆息しながら剥がし、立ち上がる。ベリアルに気づかれる前に痕跡を消さなければ。気づかれたら最後。なにを言われるか分かったものではない。
***
「やっと戻って来たのね、って……また買ったの? ルシファーの研究室に飾っても次の日にはゴミ箱だってのに。懲りないわね」
宿を出た二人。ジータは街に用事はないのでそのまま騎空艇へ。ベリアルは雑貨屋を見たいということで少しの時間、別行動を取っていた。
ベリアルが買い物に行っている間に出発の準備をしていたジータは、帰ってきた彼の手にある茶色の紙袋を見て苦笑する。
ルシファーの研究室が殺風景だからとベリアルは時折こうして雑貨を買ってくるが、次の日には一つ残らず廃棄処分。何度その光景を見てもったいないと思ったか。
そんなルシファーの研究室で唯一生き残っている雑貨は──目の前の星晶獣のみだ。
「この街の店にはなかなか凝ったデザインの物があってね。これなら生き残れるかも?」
「ふふっ。自分しか生き残らないって分かっているのに。あなたのオナニーも大概ね」
「……後半のセリフ、もう一度言ってくれないか」
「イ・ヤ。さあ帰るわよ。これ以上遅れるとルシファーになにを言われるか」
ジータが舵を取れば動き出す艇。二人を乗せた艇は研究所がある島へ向かって、空の海を進んでいく。
***
何事もなく島へと帰還後。ルシファーへ報告を終えたジータは現在自室にいた。外はすっかりと暗くなり、今からするような仕事もないので完全にオフの時間。
今日は早く寝ようかなと思っていると、規則正しいノック音が数回。部屋の外から感じられる気配はよく見知った人物。
気持ち早めに扉を開ければ、予想通りの人物。だが黒い私服から真っ白な制服へと姿は変わっていた。
「コンバンハ。キミにプレゼントがあってね」
「私に……?」
部屋を訪れたベリアルの片手はなにかを隠すように後ろに回されており、プレゼントと渡されたのは赤いラッピング袋に入れられた物だった。
重くないので中身は軽いものだろう。「開けてもいい?」と聞けば、笑顔とともに頷いたベリアルを見て、リボンをほどく。そうすれば見えたのは紫色のウサギの耳。
袋から取り出せば縦長のウサギの人形だった。全身は紫、顔のパーツは赤でこれだけで目の前の男を連想させる。
首周りにはファーも付いており、ますますベリアルの姿が浮かぶ。
それでも、これらの特徴を置いておいてもジータの人形に対する第一印象は“可愛い”だった。
「雑貨屋で一目見た瞬間に惚れてね。そういえばキミの部屋もファーさんほどではないけど殺風景だったなぁ、って」
この研究所でもジータの部屋の様子を知っているのはベリアルくらいだろう。
男が女の部屋を知っている。これだけを聞けば深い仲と思われるだろうが、二人はそういった仲ではない。
「気に入らなかったら遠慮なく捨ててもらって構わないよ」
「私をルシファーと一緒にしないでくれる? ……ありがとう。大切にする」
人形を胸に抱けば、その抱き心地のよさに胸がキュンと跳ねる。
思えば人形なんて大人になってからは持ったことがなかった。必要最低限の物しかないこの部屋に飾れば少しは華やぐだろう。
ベリアルに向ける言葉は本心からの思い。たとえこれが人形でなくても、ベリアルからのプレゼントというのが一番のポイントなのだ。大事にするのは当たり前。
ジータの返事にベリアルはよかったと口元を緩め、そういえばと口にする。
「それ、抱き枕なんだよ。飾るのもいいけど……一緒に寝てくれると嬉しいな。オレに似た人形を抱きながら眠るキミ……あぁ、想像するだけでたっ、」
恍惚の表情で体をくねらせるベリアルの言葉を最後まで聞く前に、ジータは扉を閉めた。せっかくの雰囲気が台無しである。
大きく息を吐くも、ジータは彼らしいと小さく笑うとソファーへと戻る。深く体を預け、改めて人形と向き合うと、胸にギュッと抱きしめる。ほのかに香るベリアルの匂いは彼がずっと持っていたからだろうか。
(なんで私、彼のことが……)
胸の内の言葉でも最後まで言えない。
ベリアルの最愛はルシファーだ。彼の中にはルシファーと、それ以外という認識しかない。自分も“それ以外”の何者でもないはず。それでも求めてしまう。不毛な恋だと、これ以上求めると身を滅ぼすことになると分かっていても。
恋は盲目。なんて言葉が空の民の中にはある。長年生きてきて初めての感情。他の星の民同様、感情の起伏が少なかった自分に芽生えるなんて思わなかった思い。
こんなにも厄介なものだとは、と考えずにはいられない。
「…………」
しばらくの沈黙ののち、ジータは静かに目を閉じた。胸にはベリアルから貰った人形を抱いて──。
終