婬獄魔窟エロトラップダンジョン

「こんなところに一人でいるとは。もしかしてオレに会いに来てくれた?」
「ベリアル!?」
 ルーマシー群島に似た自然豊かな島にて。ジータはひとり森の奥深くを探索していると、背後から聞こえた蕩けるような声に体に緊張が走る。
 振り向きざまに剣を抜き、全身黒尽くめの男を睨みつける。ベリアルはジータの殺気を意に介さず軽薄な笑みを浮かべるばかり。
「ブツを下ろせって。別にキミと戦いに来たわけじゃないんだ。まぁキミがどうしてもって言うなら相手になってあげるけどさァ。勇ましい戦乙女ヴァルキリーを陵辱する話は古くからの王道だからな」
「…………」
 やれやれと言った面持ちと腕の動きにムカッとくるものがあるが、ジータはベリアルに構っている暇はないと剣を収めた。今のところ彼からは殺気は感じない。
 それでも息を吐くように嘘をつく男なので隠している可能性は十分ある。なのでいつでも反応できるように気は張ったままだ。
「で。お姉さまはこんな鬱蒼とした森のナカでなにを? 青姦でもするかい? ここなら誰も来ないしな。ウフフッ」
「……今この島では行方不明事件が多発していてその調査よ。だからあなたに構っている暇はないの。ベリアル」
 補給のためにこの島に寄ったジータたち。そこで島の人間が神隠しに遭ったように突然消えてしまうことが相次いでいると聞き、こうして調査をしていたのだ。
(早くグランたちと合流しないと……)
 最初はグランやルリア、ビィと行動を共にしていたがはぐれてしまったのだ。早く彼らの元に行かねば、とジータの気持ちは逸るばかり。
「ふぅ〜ん? キミも大変だねぇ。正義感が強い弟くんを持つと」
「グランは関係ない! 私は私の意志で島の人たちの助けになれたらと思ってるの!」
 事件に関して興味なさそうなベリアルの口から弟であるグランのことが出るとジータはカッとなって叫ぶ。鋭い声は空気を震わせ、怒りの感情が肌で感じられるほど。
 ジータには二つ年下で十五歳のグランという弟がいる。ある日蒼い髪の少女ルリアと出会い、一度は命を散らしてしまった。
 が、ルリアが生命のリンクを繋いだことにより息を吹き返し、空へと旅することになった彼は現在はグランサイファーの団長であり、ジータにとって自慢の弟だ。
「もう……用がないなら邪魔しないで」
 ぶっきら棒に呟くとジータはベリアルに背を向けて歩き出す。本来であればジータひとり分の足音しかしないはずだが、聞こえる音は二人分。
 ──ベリアルが、着いてきている。
「なに? ……手伝ってくれるの?」
「いいや? ただ──あ?」
「えっ!? きゃぁぁっ!」
 立ち止まり、聞けば想像通りの答え。だがその言葉は途中で途切れることになる。
 突然地面から妖しい紫色の光が溢れ、二人を包み込んだのだ。一瞬でその妖光は消えたが、今の今までこの場にいた二人の姿はどこにもなかった。

   ***

「う、ん……どこ、ここ……暗い……」
 目を覚ませば暗闇が広がっていた。一体自分の身になにが起こったのか理解できないが、手足は自由らしい。手を動かしてみればなにかの輪郭に触れ、自分がその“なにか”の上にうつ伏せに寝ていることが分かった。
「ん……? なんか、硬い?」
 頬に当たる部分が硬いことに気づき、顔を上げて手で触れてみればこんもりと盛り上がっているような気がする。
「ンッ……」
「ひゃぁっ!?」
 感触を確かめるようにすりすりと撫でているとどこからか声。慌てて上体を起こせば真っ暗だった空間の中にボッ、ボッ、ボッと松明の灯りが現れて視界が明瞭となる。
 壁に設置されている松明の炎により見えた空間は四角く、ごつごつとした重量感のある壁に囲まれていた。
 まるで牢屋のようだ、と思わずにはいられない。
「ひぅぅっ!?」
 グルっと周りを見た途端に秘処を舐められる感覚がジータを襲い、悲鳴を上げながら飛び退く。喉を引き攣らせてスカートの上から足の間を押さえながら足元を見れば、ベリアルが恍惚の表情をこちらに向けながらいやらしい動きで唇を舌でなぞっていた。
 つまり、ベリアルに股を舐められた。自分でもまともに触れない場所をベリアルの顔に押し付けていたことでさえ死んでしまいたいくらいに恥ずかしいのに、あまつさえ彼の股間に顔を乗せ、さらには撫でていたことになる。
 目眩がしてきそうになったが、ジータは気を強く持つ。これは事故。不可抗力の事故だ。仕方のないことだと。
「……ここはどこなの? 洞窟……? でもなんで私たちをこんな場所へ……」
「十中八九あの光だな。何者かがオレたちをここへ招待したらしい」
 立ち上がり、改めて周りを確認すれば両開きの鉄の扉が見えた。両側に設置されている松明に照らされ、不気味な印象だ。
 他に出入口は見当たらない。ジータに続いて立ち上がったベリアルに指摘されると、もしや──と、ジータの中に一つの考えが浮かぶ。
 行方不明者は森に入った者たちばかり。場所は様々だが、神隠しに遭ったかのように忽然と消えてしまったそうだ。
 もしかしたら今自分たちはその神隠しに遭っているのかもしれない。
「さてお姉さま。これからどうする? と言っても前に進むしかないんだけど」
「……ベリアルも一緒に来てくれるの?」
「まあそれしかないよな。それにどうもここは調子が狂う……」
 嘘か本当かは分からないが、ベリアルは本調子ではないようだ。それでも原初の星晶獣。頼りにはなる。
「なら前を歩いて。後ろだと……刺されそう」
「クククッ……それはこっちのセリフだぜ。特異点」
「刺しても死なない癖に」
 ぽつりと呟き、二人は歩き出す。ジータの要望通り前を歩くベリアルが鉄の扉に両手で触れ、押すと軋む音を立てながら開かれた。
 奥には階段が見え、誘うように松明が設置されている。地下へと続く階段。その奥底にはなにが待ち受けているのか。寒気を感じながらもジータはベリアルと共に階段を下りていく。
「お、また扉だ」
 互いに無言のまま。靴音だけが鳴り響く空間にベリアルの声が混ざる。壁に手をつき、慎重に階段を下りていたジータは彼の言葉に目線を奥へとやれば確かに扉があった。自分たちが先ほど通ってきた扉と同じものだ。
「……さっきと同じ部屋?」
 階段を下りきった二人。ベリアルが扉を開ければ四角い部屋に鉄の扉と松明だけの空間が広がっていた。それはジータたちが目覚めた部屋と同じ構造。
 もしやループしている? と思ったジータだが、ベリアルがこの部屋の扉を押してもびくともしない。試しにジータ自身が扉を押してみるも、動く気配は感じられなかった。
「──ハァッ!」
 剣を抜いて攻撃を加えるが、手応えがない。扉に剣先が触れた瞬間に衝撃を吸収されてしまうような……。その後、何度も振り下ろしてみるが効果なし。
 ベリアルに目配せをすればジータの意を汲んだベリアルが真っ赤な魔力剣を出して同じように振るうが、結果は同じ。
「ベリアル、もしかして遊んでる?」
「いいや。キミたちとヤり合うとき以上の力を加えているが……ビクともしないな。なにか仕掛けを解くのか……?」
 まさか原初の星晶獣であるベリアルの攻撃をも防ぐとは。だが諦めるわけにはいかない。この島で起きている神隠しの件もあるが、謎の場所に閉じ込められている以上ジータには進むしか道は残されていないのだから。
「部屋を見て回ろう。なにかヒントがあるかも」
 言って、ベリアルから離れる。壁に近づいて見ていくも、見た目からして硬そうな壁が続いていくばかり。加えて薄暗い。ベリアルならばこの暗さでも問題なく見えるだろうが、ジータは人間。よく目を凝らさなければ見えない。
「う〜ん……。ん? なにか書いてある──いっ、いゃぁぁぁっ!?」
「特異点!?」
 ずっと同じ石の壁が続いていくかと思っていたが、途中でなにか文字が書かれているのを見つけた。文字列を指でなぞりながら読もうとした瞬間なにかが体に纏わりつき、ヌメヌメとした感触とおぞましさにジータは悲鳴を上げる。
 ジータの叫びに反対の壁を見ていたベリアルは振り返り、彼女に起こっていることを目にすると愉快そうに口をカーブさせた。
「随分と羨ましいことになっているじゃないか」
「笑っている暇があったら助けてよっ……!」
 ジータの体に絡みつくのは壁から生えてきた無数の触手。グロテスクな色をし、表面は謎の体液で覆われて卑猥に光っている。
 触手がジータの四肢を拘束して動きを封じると、スカートの内側から服の下へと潜り込み、全身を這う。
 にゅるにゅるとした感触に悪寒が走り、身震いしながらもジータは脱出しようと暴れるが、触手によって体を宙に持ち上げられて力が上手く入らない。
「ひっ……ぁ……!」
「なになに。“触手の洗礼を受けよ”? ふむ……。もしかしたらこれが扉を開けるヒントなのかもな」
「うっ……なら私は……こうしているしかないってこと……?」
 体を這う気持ち悪さに耐えながらジータは目の前のベリアルに問いかける。さすれば彼は憎らしいほど爽やかな笑みを浮かべ、肯定した。
 絶望。その二文字が重くのしかかる。けれど耐えなければならない。この先に進むために必要ならば。
 あぁ、なんで自分なんだろうと思わずにはいられない。普段から姦淫などと言っているベリアルならば今の状況を喜ぶだろうが、ジータはそう思えない。
「ひっ……あぁっ……!」
「苦悶の表情をして……もしかして怖い? 別に愛撫の手や口が触手に変わっただけだろうに」
 無数のぬめり触手がジータの柔肌を這いずり回り、恐怖心が少しずつ灯る。気持ち悪いのに体は火照り始め、これからどうなってしまうのか性に関して知識の少ないジータは怖くて仕方がなかった。
 今まで色んな修羅場を潜ってきた。それでもこの身を直接辱められることはなかったので、触手陵辱はジータの精神を少しずつ汚染していく。
「ひょっとしてキミ……ヴァージン? キミの年齢からしてもう経験済みかと思っていたが」
「ッ……! 処女でッ、悪かったわね……!」
「ハハハハハッ! マジかよ! 大所帯なんだ。てっきりもう乱交ぐらいお手の物かと」
「ふざけないでっ……! ひゃぁっ!? あっ……ン、んん……!」
 ベリアルと問答している間も触手は乙女の肌を我が物顔で滑り、ついには胸の先端にまで絡みつく始末。凝り固まった乳首に螺旋状に巻き付き、キュッキュッと搾ってくる動作はまるで乳搾り。
 ベリアルの前で醜態を晒したくないのに体は言うことを聞かない。全身が触手の体液でぬめりを帯びてきて変な気分になってくる。
 気持ち悪いのに気持ちいい。矛盾する感情はジータを混乱の渦へと巻き込む。
「……? ベリアル……?」
「怖いんだろ? 先に進むために助けてはあげられないけど、キミの気を紛らわせることはしてあげようじゃないか」
 ぐるぐるとした混沌に精神が沈みそうになったとき、ふわりと体を抱きしめられた。股にはベリアルの片脚が差し込まれ、ジータは彼の太ももの上に乗っている状態。
 顔は彼の肩口へ。なだめるように後頭部を撫でられ、少しだけ気持ちが落ち着いたような気がした。
 誰かに縋れるなら縋りたかったジータは躊躇いがちに腕を伸ばし、ベリアルの体にしがみつく。その間も触手の辱めは続いているが、だいぶ恐怖心は薄れた。
「うぅっ、んっ、ぁ……! なんか、へん……!」
 下着の中へと侵入した触手はジータの秘所へと魔の手を伸ばすが、処女穴はベリアルの足によってガードされているので犯すことは叶わず。
 代わりに不浄の穴へと伸び、先端で皺をなぞるように動き、ジータの背に背徳の電流が広がっていく。
 胸やお尻を始め、足や腕までも触手に好きなようにされてジータの視界の端に火花が散り始める。その間隔は早くなり、やがて──弾けた。
「あ、ぁぁぁっ……!」
 迫りくる快感に身を委ねて顔をベリアルの肩にうずめながら波が去るのを待っていると、彼の手がジータの顎を掴んで強制的に顔を上げさせられる。
「へえ……キミのイキ顔か〜わいい。オレのペニスを咥えてその顔で善がってほしいものだ」
「はぁ……はぁ……これが、イク……?」
「気持ちよさが弾けて解放感に満ち足りているだろう? それに……キミが頑張ったおかげで扉も開いたようだ」
 今のジータの表情はとろん、としており、非常に性を煽るもの。嬌声に加えてそんな顔をしているジータを前にベリアルの股間は窮屈そうに膨らんでいるが、ジータが気づくことはない。
 酷く疲れた顔をしながらジータは扉の方を見る。そうすればびくともしなかった扉は開いており、隙間から見える暗闇はさらなる深淵へといざなうかのよう。
 体に巻き付いていた触手たちもその魔の手を引いていき、壁の中へと消えてしまった。がっくりと体から力が抜けてしまったジータはベリアルにもたれかかっている状態。
 体力には自身がある方だが未知の体験と極度の緊張状態が続き、心身ともに疲れている。本当はベリアルに頼りたくないのに、今はこの身を委ねたままでいたい。
「なあ特異点。物は相談なんだが──姦淫しないか? よく分からない生物にヴァージン散らされるよりかもオレの方がいいだろう?」
「イ・ヤ! あなたに捧げるくらいなら……」
 その先の言葉は出てこない。ベリアルも嫌だが、今回のような触手相手に散らされるのも正直言って嫌だ。処女を特別大切にしているわけでもなく、こんな場所で守れるのかも不明だが、可能な限り抗いたい。
「もう大丈夫だから下ろして。先に進みましょう」
「酷いなぁ特異点は。イキり勃ってつらいのに放置だなんて」
「放置プレイはあなたの十八番オハコでしょう。あなたの愛する人に現在進行系で放置されているんだもの」
 ベリアルに下ろしてもらうとジータはしっかりとした足取りで扉の向こう、階段を下っていく。その背にはなじる声が届くが無視。けれど。
「さっきは……ありがとう」
「……キミってもしかしてツンデレ?」
「っ……知らない!」
 愉快なやり取りをする二人は一歩、また一歩ダンジョンの奥へと歩を進める。
 このダンジョンの最下層に待ち構えるモノは一体なんなのか。快楽の魔がはびこる場所は二人をさらなる深みへといざなっていく……。