にゃんにゃん!猫ジータちゃん!

 ハロウィン当日。あの世との境目が曖昧になる今日。その影響なのか、魔物たちも引き寄せられていた。
 団長であるジータも団員たちに混じって警備に当たっていた。彼女の衣装はベルセルクなのだが、頭部には猫の被り物をしていて、普段の荒々しさから打って変わって可愛らしい。
 仲間たちと別れ、一人で見回りをしているといつの間にか寂しげな道へと入ってしまったようだ。ジータ以外に人の気配は感じられない。
 辺りは暗く、普通の女の子ならば気味悪がって来た道を戻るのだろうが、騎空団を率いているジータは当てはまらない。
 人の目がないからこそ、魔物が入り込むかもしれない。気を引き締めて見回りを続けていると、突然横から腕を引っ張られた。
「やあ、特異点」
「きゃっ! ……べ、ベリアル!? なんで、だってあなたは次元の狭間に……」
 顔に当たる柔らかな感触。鼻腔をくすぐる理性を奪う香り。これらをジータはよく知っていた。
 旅に出たばかりのジータに女同士の快楽を教え、その心さえも奪った人物。初めて出会ったときはベリアルという名前も知らず、ただ綺麗な女の人だと思っていたが、二度目の災厄のときに彼女がどんな人物かを知った。
 それでも気持ちは抑えられず、ジータの心はベリアルに囚われたまま。それは彼女が崇拝する堕天司の女王とともに次元の狭間に吸い込まれたあとも変わらず……。
 自分からも抱きしめ返したいのを我慢し、ジータはベリアルの胸に包まれながら顔を上げた。その表情は夢でも見ているかのように胡乱げで、目は切なさを秘めている。
 問う声も最後あたりは消えてしまいそうなくらいに細いものだった。
「今日は特別な日だ。次元の狭間から出てこれてもおかしくはないさ」
「あなたがいるならルシファーも……?」
「いや、ワタシだけみたいだ。預言者の仕業かねぇ」
 ベリアルは軽く笑むとジータを解放し、頭のてっぺんから足の爪先まで舐めるように見つめ、愉快げに目をカーブさせる。
 よからぬことを企んでいるのは明白。ジータは一歩後ずさった。
「ふぅん……。ベルセルクの衣装にネコか……。イイねぇ。キミにぴったりの仮装じゃないか」
 ベリアルの言葉と口調からして性的なニュアンスが潜んでいることを察し、ジータは顔を朱に染めながら両腕で胸を隠した。
 仲間たちに隠れてベリアルと何度も体を重ね、すでに生娘ではないが、恥ずかしいことには変わりない。
「さて、と……。今日が終わればきっとまた次元の狭間に戻される。だからキミを堪能させてくれないか、特異点」
 ベリアルのしなやかな手が伸びてきて、ジータの頬を包む。そのなめらかな肌触りにジータの心音が高鳴る。
 彼女は敵なのに、否、ただそれぞれの正義のために行動した結果、敵になってしまっただけでジータ自身はベリアルのことを好いている。けれど、それは許されるものではなくて。
 今日は特別な日。今日だけはただの一人の女の子に戻りたい。
 ジータの目は近づいてくる唇に合わせて閉じられ、完全に伏せられるとふっくらとした感触と甘い熱が伝わってきた。
 甘美な熱は全身を蝕み、ジータを内側から蕩けさせる。ただ唇を重ねているだけで舌を絡ませているわけでもないのに、幸福感が溢れる。
「キスだけでトロトロになっちゃった?」
「そ、そんなわけ……!」
 ニヤついた顔で至近距離で言われ、ジータは慌てて目を逸らすも、ベリアルはきっと見抜いている。彼女は狡知の堕天司。下手な嘘など通用しない。
 年相応の可愛らしい反応に気をよくしたベリアルはジータを軽々と横抱きにすると、路地の奥へと進んでいく。
 狭い通路の先は空き地になっており、木箱が何個か置いてあった。ちょうどいいとベリアルは箱に軽く腰かけ、ジータを抱きかかえるようにして脚の上に乗せた。
 マント越しに伝わるベリアルの豊かな膨らみにジータはどうしようもなく興奮してしまう。ベリアル以外には抱かない感情。
 野外でのセックス。本来ならば恥ずかしい行為に違いないのだが、今のジータはベリアルでいっぱいだった。
 次にいつ会えるか分からぬ人。召喚石の投影とはいつでも会えるが、本人ではないのだ。どうしても彼女が優先されてしまう。
 背後から伸びる手はジータの胸を隠す布をずり下げ、露出させる。ひんやりとした冷たい空気が肌に伝わり、ジータはぶるりと体を震わせた。
 同年代のヒューマンと比べると大きいほうに入るジータの膨らみ。その中心にある桃色の突起は硬く天を仰いでいて、触れてもらえるのを待っているようだ。
「ん、少し大きくなったか? ワタシがいない間、誰かに揉んでもらった?」
 重さを確かめるように両手で持ち上げ、数回揺さぶる。それだけでもジータは反応してしまう。想いを寄せる人に触れられているのだ。なにも反応しないなんてありえない。
「あなたと一緒にしないで……私は……」
「あぁ、悪い。ワタシ以外とセックスしたいなんて思わなくしたんだったな」
 ジータの肩口に顔を乗せたベリアルは口では悪いと言うも、口調からしてまったく悪いとは思っていない。
 彼女の言うとおり、ジータはベリアル以外に欲情したことがない。これから先もきっと同じ。
 他の女の子は生涯のパートナーを見つけ、一緒に幸せな時間を過ごすのだろうが、ジータがそう思う相手──ベリアルには尽くしたい相手がいる。
 二千年という途方もないくらいに長い時間。ただひたすらに追い続けた造物主。
 その人物、ルシファーはベリアルのことをそういう対象として認識していないが、どう足掻いても勝てない相手を想像して胸が痛くなる。
「ファーさんに何度も迫ってみたけど興味がないの一点張りでさ、溜まってるんだ。ワタシも」
 ──キミも、そうだろう?
 誘うように告げられ、ジータはベリアルのほうに目を向ける。ただでさえ顔がいいのに、穏やかで優しい表情を向けられ、ジータの乙女心はどこまでもベリアルに堕ちていく。たとえ本心とは違う顔だとしても……。
 眼窩がんかに嵌る緋色に吸い寄せられるように唇同士が重なり、深いものへと変わる。
 離れたくないようにジータの手はベリアルの後頭部に伸ばされ、押し付ける。また、ベリアルも同じようにジータの頭部へと手を伸ばしていた。
 荒々しい呼吸を繰り返しながら獣のように貪り合う。ぼたぼたと透明な体液が口から溢れ、ジータの肌を滴り落ちていく。
 呼吸が苦しくなり、涙が零れる。それでもジータはベリアルを求め続けた。今まで会えなかった寂しさを埋めるように。
「はぁっ、はぁっ……!」
「ん、ウフフッ。まさかキミからこうも熱烈に求められるとは。そんなに寂しかった? ワタシの投影がいるのに?」
「召喚石のベリアルには、触れられない……から……」
 何度触れたいと思い、実際に手を伸ばして、絶望したか。
「へぇ……。ならこれまでの埋め合わせをしてやらないとな」
「んっ……! あっ、んぁっ……!」
 イタズラっぽく口の端を上げると、ベリアルはジータの柔肌へと両手を伸ばした。
 大きな手にすっぽりと包まれる乳房。親指と人差し指で乳首を捏ねられ、甘い声が出てしまう。
 敏感な先端は少しばかり痛みを感じるが、それさえも快楽のスパイスとなる。現在のジータの体は、ベリアルに触れられるところ全てが性感帯と化していた。
 ぐちゅりと耳に舌が入り込み、溝をなぞられ、食まれる。体の震えも、甘さをたっぷりと含んだメス猫の声も抑えることができない。
 ベリアルの動きに合わせて嬌声の旋律を奏でるだけ。
「誰かいるのか?」
「っ!?」
 夢見心地のジータを現実に引き戻したのは第三者の声だった。体が緊張し、こわばる。
 まだ遠くのほうだが、こちらに向かってくる人の声と足音が聞こえる。このままでは痴態を見られてしまう。そんなの耐えられない。先ほどまでは感じていなかった恥ずかしさがジータへと襲いかかる。
 それなのにジータを抱きかかえるベリアルはお構いなしに片手を下腹部へと伸ばし、スカートの中へと潜り込ませた。
 ぐっしょりと濡れ、下着の役割を放棄した布をずらし、触れる。
 熱気に包まれた秘めやかな場所。小さな穴から泉のように湧く透明な蜜を割れ目から掬い取ると、快楽の種にたっぷりと塗り込み、摘む。
 いきなり強く触れられ、悲鳴が漏れそうになるのをジータは口を両手で塞ぐことで抑えた。
 体を離したくても腰に腕を回され、密着しているので身動きすらとれない。
 どんどん近づいてくる足音。焦燥感がジータの精神を蝕んでいく。
「……に、にゃあ……!」
「ん?」
「にゃ、にゃお〜ん……!」
「なんだ、猫か……」
 背後で小さく笑う声と胴震いを感じ、恥ずかしさやら怒りやらで目や顔が真っ赤になる。
 ジータのとっさの判断でこちらに向かってきていた存在は遠ざかり、再び静けさが戻ってきた。
「やっぱりキミは“ネコ”が似合うな。特異点」
「う、うるさいっ……! 最低! 変態堕天司!」
「罵倒をどうもアリガトウ。だがワタシを変態と言うキミのココも大洪水だ」
「ひゃっ! やっ、やだぁ……!」
「人がくるかもしれないと思って濡らしたんだろう? 変態はお互いサマだ」
 愛液を大量に分泌させ、ジータの少女器官はぬめりを帯びていた。スカートで隠されているので実際に見ることは叶わないが、感覚で分かる。
 ベリアルの長く、細い指が少女の秘部を暴こうと奥へと伸びる。反射的に体をよじると、大人しくしろと言うように胸の突起を引っ張られ、痛みの中に気持ちよさを見出したジータの体は大きく跳ねた。
「ふぁ、ぁアっ……!」
 内部をゆっくりと進んでくる三本の指。ベリアルに開発された膣道は難なく咥え込み、放さない。
 周りをほぐすように動きながら指はさらに奥へと向かい、根本まで飲み込んでしまった。
「ウフフ……ほら、よーくごらん。キミのヴァギナがワタシの指を美味しそうに咥えているところを」
「あぁっ……! そんな……!」
 スカートを捲られ、見えた秘処は女の指といえどしっかりと三本咥えていた。
 どこまでも性に貪欲で本当に自分の体なのかと疑いたくなる。まさかここまでベリアルによって変えられてしまったなんて。
 心臓が鼓動を打ち鳴らし、うるさい。呼吸も早くなり、苦しい。涙も勝手に溢れ、頬を伝う。
「泣くなよぉ、特異点。もっと酷いことしたくなるだろ?」
 嗤いながら言われ、ジータの体が固まる。それはベリアルの指を包む膣肉にも影響が現れ、キュッと締め付けてしまう。
「……冗談さ。優しくシてあげるから泣きやみなよ。特異点」
 ちゅう、と頬の涙を吸われると今度はジータの口に吸い付いてきた。割り入れられる舌を拒むことをせずにジータは受け入れ、自分からも愛撫をし返す。
 ベリアルは蜜を内部で掻き回しながら腫れた胸の飾りを引っ張り、捏ねる。上下から与えられる快楽にジータは溺れるばかり。
 下半身から這い上がってくる背徳感は胸と合わさって全身へと伝わる。キスをするのも辛くなり、ベリアルの腕の中で悶え続ける。
「はっ、あぅぅっ! そこっ、ぐちゅぐちゅしたらダメ、だめなのぉ!」
「ウフフ。馬鹿みたいに快楽に従順で……可愛らしいよ、ホントウに」
「ひぐぅっ!? あっ、ァ! やっ、アァっ……!」
 久しぶりの悦楽にジータは心身ともに満たされていた。空っぽになった器に水が満ちるように、渇いた精神が潤っていく。
 けれどそれも刹那の時間。ベリアルはきっと次元の狭間に戻されるだろうし、自分も警備に戻らなければならない。
 ジータの双眸から溢れ、流れ落ちる涙には様々な理由が込められている。
「ベリアルっ! ギュッて、ギュッてして……!」
 今にも弾けてしまいそうな感覚にジータは訳も分からず訴える。正常な意識ではないからこそ露呈する本音。
 ベリアルは一瞬だけ驚きに目を見開くと、ジータの願いを叶えるように深く抱きしめる。
 内部で一番気持ちのいい場所を激しく刺激すると、ジータは泣き声を上げながら大きく体を痙攣させた。
 指を包み込む膣壁も収縮を繰り返し、なかなかベリアルを放そうとしない。それはまるで彼女の秘めたる気持ちを表しているようだった。

 深夜。月が天高く輝き、寒さを感じさせる光を放っていた。ハロウィンも終わり、島に停泊しているグランサイファーの甲板にジータの姿があった。
 手すりに腕を乗せ、空を見つめる彼女の服はいつものピンク色のワンピース。その横顔はどこか憂いを帯びていた。
 大きな風の音とともに金色の髪が揺れる。すると背後に人の気配を感じ、振り返ると、堕天司の女王ルシファーや先代天司長ルシフェルを思い出させる顔をしている女の姿があった。彼女の名は、ルシオ。
「ルシオ……。どうしたの?」
「いえ。たまたま甲板に出たらあなたを見つけたもので。……なにか、嬉しいことがありましたか?」
 ルシオはジータの隣に立つと彼女と向かい合う。その蒼は優しく包み込んでくるような不思議な感覚。
 ジータはルシオの問いに視線を月へと向ける。まるで夢のようなひとときだったのと同時に、誰にも言えない秘密。それは彼女も例外ではない。
 ルシファーたちを次元の狭間に送った人物はわざわざベリアルだけを空の世界に放った。制限付きとはいえ。
 その人物はこの気持ちが仲間へと裏切り行為だと知った上で、それでも見守る選択をしてくれた。さらには逢瀬までも。感謝してもしきれない。
「……夢を、見たの。とても幸せな」
「夢……」
「現実では会えない大切な人との、ね。少しの時間だったけど……あの人に会えてよかった」
 ベリアルの名前は伏せる。なぜかルシオに対してはこの秘めたる想いを告げてもいいような気がしたが、口にすることはなかった。
 仮に告白しても誰かに言いふらしたりしないはず。けど、言えなかった。この想いは仲間への背徳行為。団長として許されるものではない。
 世界に終末を齎そうとした狡知の堕天司を愛しているなんて──。
「ジータはその人物のことを、心から愛しているのですね」
「そう……だね。って、ああもう、なに言ってるんだろう私……! 他の人には内緒だからね?」
 なんだかおかしい。ペラペラと気持ちのままに喋ってしまう自分に、顔を林檎に染めたジータは手で扇ぎながら誤魔化す。
 その様子をルシオは優しく包み込むように見つめ、「ええ」と頷くと空を仰ぎ見る。
 そんな彼女たちを、冬の訪れを知らせるように冷たい風が撫でるのだった。