(ベリアルさん、どうしてるかな……)
夜。都内にあるマンションの一室では美しい金糸の髪を持つ少女がベッドの上で悶々としていた。
手にはSNSの画面が表示されたタブレット端末があり、検索欄には大人気インディーズバンドの名前が入力されていた。
ずらりと並ぶ文字列の中にはライブの文字がちらほらと。少女──ジータはそれらに目を落とし、大きなため息をついた。
彼女が憂鬱な理由。それはこのバンドのボーカルの女、ベリアルのことについてだ。彼女との出会いはひょんなこと。父親が単身赴任で一人暮らしをしており、孤独を抱えていた少女は悪いお姉さんに溺れ、恋人のような関係になった。
彼女が肉体関係で男女問わずだらしがないのは知っている。それでもいいとジータは思っていた。彼女と出会う前は独りでも平気だったのに、ベリアルを知り、人肌の恋しさを知ってしまった今はただそばにいてほしい。もう独りは嫌だという気持ちが強かった。
現在その彼女は全国ツアーの真っ最中。ジータは寂しさを心に抱えながらもライブに集中してほしいと思い、連絡を取ったりはしなかった。
けれどそれは建前。本当は毎晩のようにベリアルの生の声を聞いていたい。
また、ベリアルのほうからも連絡はなかった。プライベートが乱れている彼女も音楽には彼女なりに真剣に向き合っており、専念したいのだろう。
ベッドの上で膝を抱えながらジータはSNSを確認する。一部過激なパフォーマンスもあるようだが、元気なのだろう。ベリアルらしいと微笑む。
ある程度の情報を得るとSNSの画面を閉じ、ワイヤレスヘッドホンを付けると動画サイトを開く。マイページからお気に入りページへと飛べばそこにはズラリと動画が並ぶ。
お気に入りに登録してある動画はすべてParadise Lost──通称“パラロス”のPVたち。再生数も百万を超えるものがいくつもあり、バンドの人気ぶりが分かる。
一人のファンとして頬を緩ませながら再生回数に今日も貢献していると、画面上部にメッセージアプリの通知が突如として入った。
相手はベリアル。しかもビデオ通話だ。まさかの人物からの着信にジータは思わずタブレットを膝に落としてしまうが、呼吸を整えると、慌てて通話画面を開いた。
『コンバンハ。ジータ。元気にしてた?』
液晶画面に映し出されるのは短いダークブラウンの髪を持つ女の姿。崇拝するルシファーとお揃いのつもりなのか、首には黒い棘のようなタトゥーが一周している。
寝る前なのだろう。極上の美女は透け感がある黒のベビードールに身を包んでいた。
ジータはベリアルの背後に見える内装からホテルの部屋、彼女が愛用しているノートパソコンからかけてきているのだと分かったが、ブラウンの双眸は自然と胸元へと向いてしまう。
深い仲だから、だけではない。同性としても圧倒的なほどに優位。羨望の眼差しをどうしても向けてしまう。
いわゆる巨乳の部類に入るベリアルの胸は谷間がくっきりとできており、柔らかく布を押し上げていた。
ジータの脳内で行為の記憶が再生される。見た目からしてふわふわな胸はマシュマロを思わせ、触れればしっとりと手のひらに肌が吸い付く。薄紅色の乳輪の中心にある尖りをしゃぶりながら頭を撫でられると愛に飢えた少女は容易く堕ちてしまう。
記憶の想起を終えたジータの中に触りたいという激しい欲求が生まれ、触れられない現実にこれでもかと打ちのめされる。
ヘッドホンから聞こえるベリアルの声はずっと聞きたかった音。ベリアルがいない間お預けされていたジータの体は疼きを訴え、閉じられた口の中には唾液があふれ、音を立てながら飲み下す。
ベリアルの艶のある低めの声はたまらないものがある。しかもヘッドホンから聞こえるため、直接囁かれているのと同義。
一気に体が熱を孕み、呼吸が乱れる。思い出すのは彼女の手によってさまざな快楽を教えられた時間。ベリアルによってすっかり調教済みのジータはパブロフの犬のようにスイッチが入ってしまう。
「ベリアル、さん。急にどうしたんですか……?」
『そろそろツアーも終わるし、キミで癒やされたくてね。ところで……約束はちゃんと守ってる?』
「もちろん守ってます」
『キミと“なにかを”約束したのは覚えているんだけど……どんな内容だったっけ? 忘れたから教えてくれないか』
ベリアルの言葉にジータはすぐに嘘だと分かった。画面の向こう側にいる女の顔は頬杖をつきながら怖いくらいに妖艶に口角を上げ、その言葉を口にするのを今か今かと待っているのだから。
ジータは目を閉じてベリアルとの約束を思い出す。ツアー出発の朝、言いつけられたこと。ずっと考えないようにしていたのに思い出すと体が火照り始め、子宮が疼く。
(ベリアルさんのいじわる……)
胸の奥で呟くとジータは目を開いた。その両眼は潤み、今にも雫がこぼれてしまいそうだ。
「ベリアルさんが帰ってくるまでっ……お、オナニー……きん、し……」
淫らに躾けられたジータだが、やはり卑猥な言葉を口にするのは憚られる。ベリアルはというと、ジータの反応に満足したのか『そうだったね』と目で笑み、優しげな表情を向けた。
「証拠はないけど……約束は守ってます」
ベリアルと一緒にいるときは淫乱な少女になってしまうジータだが、いないときは別。いたって普通の女の子なのだ。もちろん性欲がないわけではないのでベリアルを想像して自慰をしてしまうときもあるが。
だが今回は律儀に言いつけを守っていた。確かめる術もなく、意味のないこの口約束。その真意を賢い彼女は最初から分かっていた。
ベリアルからしてみれば別にしていようがいまいが、どうでもいい。ジータに卑猥な言葉を口にさせることが目的なのだ。
ずっとオナニーを禁止していたジータはベリアルを前にして浅い呼吸を繰り返す。我慢していた欲に一気に火がつき、体がおかしくなりそうだった。
内側から燃え尽くす勢いの炎。もしこのまま世間話で終わったらどうしようとほんの少し不安になる。
約束を破ってこのリビドーを解放してしまおうか。ベリアルならすぐに見破り、約束を守らなかった悪い子へのお仕置きをしてくれるかもしれない。
被虐嗜好を植え付けられてしまったジータにとってベリアルから与えられる苦痛も快楽へと変換されてしまう。
「いい子だね。ジータ。だが長い間我慢するのも体に悪い。今ここで解放しなよ。見ててあげるからさ」
「そ、それって……」
「疲れているワタシに癒やしをくれよ、ジータ。キミの可愛いイキ顔でね」
「分かり……ました……」
この一言でジータの理性は吹き飛んでしまう。今の彼女はミストレスの命令に忠実に従うしもべ。
用意をするために一旦タブレットをベッドに置くと、床に下りたジータは見やすい位置へとナイトテーブルを動かし、引き出しからタブレットスタンドを取り出す。
透明なプラスチック製のスタンドを置き、タブレットをセットすれば準備完了。
ベッドへと上がると見えるかを聞き、ベリアルから「よく見えるよ」と返事があればオナニーショーの開演だ。
相手を誘うような視線を向け、焦らしながら部屋着の上下を脱ぎ、向こう側のベリアルに見せつけるように軽く脚を開きながら座る。たわわな膨らみを包むのは少女がするにはセクシーすぎるデザインの黒いブラジャー。下も同じデザインのものだ。
これはベリアルに買ってもらった物でジータの趣味ではない。彼女自身の好みは清楚系でベリアルと会う予定のない日は自分で買った物を身に着けているが、ここ最近は寂しさゆえにベリアルに与えられた物を着ていた。
『キミはいつもどんなふうにイジってるんだい?』
「め、目を閉じて……ベリアルさんのことを考えています。あなたに触れられているときのことを思い出しながら……」
目を閉じ、ブラジャーを上へとずらせばベリアルによって育てられた白い実りがぷるん、とこぼれた。ほんのりと赤く色づいた桃色の飾りはすでに硬くなっており、ジータの興奮具合を示している。
ベリアルとの行為に思いを馳せながら膨らみに手を沈ませ、片方は揉み、残りのほうは乳首を捏ねたり引っ掻いたりして己を高めていく。
今回のオカズはベリアルに後ろから抱きしめられながら愛撫されたときのこと。己の手をベリアルだと脳に信じ込ませていると、揉むたびに媚電流が走ってピクピクと体が反応してしまう。
艶めく吐息。妄想をしながら胸を弄っているだけで股の間がキュウッ、と反応し、愛蜜を分泌させる。
『キミのアソコ、もうトロトロじゃないか。見せてごらん』
「は、い……」
開眼したジータの瞳はハートが見えるくらいに蕩けており、その顔は発情した雌だ。ジータの友人が見たら普段の彼女とかけ離れた顔に驚くだろう。
ベリアルだけが見れるジータのもう一つの顔。性欲に取り憑かれた表情は画面の向こう側にいる女の笑みをより一層深いものへと変える。
ジータは両手の親指を下着に引っ掛けると、誘う目をしながら脱いでいき、最後は床に向かって放った。
黒い布によって隠されていた秘めやかな場所はベリアルと数え切れないくらいに交合を重ねているというのに、まるで処女を連想させる綺麗なサーモンピンクをしていた。
年齢にそぐわない、どこか幼さの残る少女器官。快楽の種は大きく膨らみ、その姿を晒していた。恥裂からはベリアルの指摘どおり愛液を大量に分泌させていて、部屋の明かりを受けて淫猥に輝く。
婀娜っぽい笑みを浮かべながらジータは片手をピースの形にすると秘処を開いた。
小さな花びらの間にある小さな穴はパクパクと口を開閉させ、咥えるものを欲しがっているようだ。
『いつ見てもキミのヴァギナは色も形もキレイだね。可愛がりたくなる』
「ベリアルさんにいっぱい……いっぱい可愛がってほしいです……!」
『フフ……オーケイ。じゃあ可愛がってあげようかな』
「ひぅっ!?」
今ここにいないのにどうやって可愛がるのか──とジータが思っていると、ベリアルは頬杖をつきながら長い舌を突き出し、ぴちゃ、と空間を舐め上げる。
映像とヘッドホンから流れてくる音を認識した瞬間、ジータの下半身に走ったのは甘い痺れだった。本当にベリアルに舐められたような感覚が駆け巡る。
ジータの反応が気に入ったのか、ベリアルは豊かな睫毛に縁取られた双眼を閉じて少女の幼い性器をねぶり続ける。画面の動きと音に支配されたジータはタブレットから目を離せない。
甘い声が勝手に口から出て止まらない。自分で触ってすらいないのに性器が熱くなり、ビリビリと快感を訴える。
「あぅ、あッ♡ やぁんっ、べりある、さぁん♡」
『キモチイイ? ジータ』
「ひぅっ!? やだ、やだぁ♡ 舌が奥まで届いてっ♡ んぁぁっ、もうダメぇ……♡」
『キミ、本当にクンニが好きなんだねぇ』
「好きっ♡ 好きぃっ♡ ベリアルさんに舐められるの大好き♡」
舌を尖らせ、チロチロとした動きを見せればベリアルによって奥を舐められたときの快楽が記憶の引き出しからあふれ出し、ジータは耐えられなくなり、後方へと倒れた。
シーツを力の限り握り、はしたなく脚を広げながら善がり狂う淫乱少女を愉快げな目で見つめながらベリアルは口の端を吊り上げる。
下品な音を立てながらジータを責めれば、達した彼女の背が大きくしなり、痙攣を繰り返すとベッドに沈み込んだ。絶頂を迎えたときには溜まっていた恥蜜が弾け、太ももまで濡らした。
愛おしい涙を流す狭い道への入り口は収縮し、どうにも震えが止まらない。すると、ジータは足りないとばかりに淫水をクリトリスにまぶし、弄り始めたではないか。
このときもベリアルの命令を忘れずにジータは脚を広げてその痴態を見せる。彼女の濡れた双眸は強すぎる快楽の渦に飲み込まれ、正常な思考ができないでいた。
赤く腫れた陰核に触れれば、その刺激に悦楽や痛みに似た痺れを感じるも手淫を止めることはできない。
ベリアルが欲しくて欲しくてどうにかなってしまいそうだ。帰ってきたら、直接触れられたい。一日中まぐわっていたい。ドロドロに溶け合ってしまいたい。
『へぇ……キミは自分でスルときはクリ派なんだ?』
「ナカはっ……ベリアルさんのじゃないと気持ちよくなれなくてっ……」
『ウフフ……。帰ったらワタシにどうされたい? キミのその可愛い口で教えてくれよ……』
「ん、あっ……♡ ベリアルさんの指でっ、ナカをいっぱい触ってほしいですっ……♡♡ あとはっ、ベリアルさんのを舐めて奉仕したい♡ 顔の上に乗られて、ぎゅうぎゅうって押し付けられてっ♡♡」
顔を林檎色に、目を発情色に染めたジータはベリアルに乱れた欲望を口にする。その間も手の動きは止まらず、激しさを増す。
言葉にしながらその妄想もしていたのか、願望を言い切った彼女は少しするとあられもない声を上げながらベリアルの前で絶頂し、ようやく濡れ花から手を離した。
深い呼吸を何度もしながら快楽に身を沈めるジータをベリアルは『よくできました』と褒める。
言われて嬉しいのか、ジータは涙や汗、唾液で濡れた顔を綻ばせた。
『キミのおかげで疲れが癒えたよ。アリガトウ。続きは帰ってからしよう。それまでまたオナニー禁止。分かった?』
「はぁい……♡」
『今日はシャワーを浴びてもうオヤスミ。では、良い週末を』
*
ノートパソコンの液晶の光のみが照らす部屋。ベリアルは通話アプリを切ると、同時に起動させていた画面収録ソフトを操作し、今までのやり取りを保存した動画を軽く編集すると愛用のクラウドストレージに突っ込んだ。
長いパスワードでロックされたそこにはジータのあらゆる写真や動画が保存されていた。ほのぼのとしたものから、今のようなハメ撮りまでさまざまだ。
新しいコレクションに満足そうに息を吐くと、ノートパソコンを閉じてベッドへと向かう。一人で寝るには大きすぎる寝台の中心に体を横たえ、明日に備えて目を閉じた。
ツアー終了まであと少し。帰ったら嫌というほど──ジータがもうやめてと言ってもやめてやらないくらいに可愛がってやろう。
終