神様に、中指立てて

 この世には男女の性別の他にアルファ、ベータ、オメガという三種類の性別がある。生まれながらのエリートと言われるアルファ、普通枠のベータ、男女ともに妊娠可能なオメガ。世界的な人口から見てもベータが一番多く、アルファとオメガは少なめ。
 人生勝ち組と言われるアルファも──個人によっては背負うものが大きくて思うところがある性別だけど、正直オメガの方が生きるのが大変。
 オメガには発情期……ヒートというものがある。ヒート中は番のいないフリーのアルファや、時としてベータをも惑わす強いフェロモンを撒き散らしてしまい、それに充てられたアルファやベータに襲われる……という事件もあるほど。オメガ本人も激しい倦怠感や、性的欲求の高まりでまともに動けなくなる。
 普段は薬でコントロールしている人がほとんどだけど、薬の合う・合わないもあるし、絶対にヒートが起こらないという魔法のような薬もない。
 もし外で発情してしまったら──一瞬で周りが敵になってしまう。
 このヒート。薬以外にも抑制方法がある。それはアルファと番になること。そうすればオメガのフェロモンは変化し、番となったアルファにしか効果がなくなる。
 つまり発情してしまい、自分の意思とは関係なくフェロモンを出してしまっても周りが影響されることはない。また、アルファの方も番以外のフェロモンには惑わされなくなる。
 このことからオメガのヒートによる強制発情を嫌うアルファが、愛してもいないオメガを無理やり番にしたりと闇は深い。
 その他にも例えば──オメガも本当はベータの恋人が好きなのに、体はアルファに惹かれてしまい、望まぬ結果を選んでしまう場合もある。
 なぜ私たち人間を創り出した神様はバース性なんてものを付けたのか。普通にオトコとオンナ……雄と雌だけでよかったんじゃないのか。
 だってそうすれば少なくとも、目の前のこの子のように強制的な熱を身に宿すこともない。
「ごめん……ごめんなさいっ……! 私、頭がぼうっとして、薬だって飲んでるのにっ、ジータさんのことしか考えられない……!」
 夕方。学校の校舎裏。アルファの私は同級生であるオメガの女の子に押し倒されながら、そんなことを考えていた。
 ──お話したいことがあるんです。
 帰り支度をしていた私に声をかけてきたのは、別のクラスだと思われる女の子。上履きの色からして同学年。妙に紅潮した頬と漂うオメガの香りに、私はこういうことになるのを分かっていたような気がする。
 女の子の目からは大粒の涙がボロボロと零れ、私のブラウスに染みを作っていく。たぶん、最初は彼女も純粋な恋愛感情だったと思う。けどこうして二人きりになって、ヒートを起こしてしまった……。
 頭では駄目だと分かっているのに、名も知らぬ彼女の体は違う反応をしてしまう。これは自分の意思でどうにかするには難しい。
 こういう背景があり、オメガの社会的地位は昔と比べると向上してはいるものの、未だに差別が根深い。
 ホント……神という存在が目の前にいたら、正直殴ってやりたいくらいには。
(それにしても……臭い)
 オメガのフェロモンをこんな至近距離で感じたら、普通のアルファだったら今頃彼女を無理やり犯している。でも私には逆に臭くて、一ミリもそんな気持ちにはなれない。
 私にとってあの人以外のオメガのフェロモンはどれも臭くて……興奮なんてしない。だから周りのアルファやベータがオメガのフェロモンに異常に反応するのがおかしくて仕方がなかった。
 私たちは人間。理性的な行動ができるはず。
 幼いとき、そんなことを思ったこともしばしば。
 まあ……こんな偉そうなことを言っていても私自身、欲望をコントロールできなくなる相手が一人だけいるんだけどね。
(……試そうかな)
 ブレザーのポケットから常時携帯しているピルケースを取り出すと、中身の錠剤を女の子の唇に押し付け、口の中へと押し込む。
「心配しなくても大丈夫。抑制剤だよ」
 医者から処方される薬じゃないけど。
 その言葉は安心させるための笑顔の裏に隠す。
 女の子は私の言葉をすんなりと受け入れ、薬を飲み込む。すると、乱れていた呼吸が瞬く間に落ち着き、熱も引いてきた。……うん。今回作った薬、即効性があってなかなかいいかも。一応治験はやっているけどまだまだデータも足りないし、どんな副作用が出るかが問題だけどね。
 まあでも……見た感じ、苦しそうとかはないかな。逆に戸惑ってる。
 こういう緊急時の抑制剤も昔に比べて比較的すぐ効くようにはなっているけど、私が開発したこの薬のようなスピードは出ないからね。驚くのも無理はない。
「ジータっ! 大丈夫か!?」
「サンダルフォン先生……」
 慌てた様子で来たのは担任のサンダルフォンさん。彼は私のパパの弟さんのパートナーで、身内っていうのもあるのかよく気にかけてくれる優しいお兄さん。
 全力で走ってきたのか、丸い眼鏡の奥にある両目をギュッと閉じ、両手を膝について息を切らしている。
「私ならこの通り大丈夫です。それよりこの子を保健室へ連れて行ってあげてください。抑制剤をあげたからもう平気だと思いますが……」
 自由になった体で立ち上がり、地面にへたり込む女の子を立たせると、彼女の制服についた汚れを軽く払いながらサンダルフォンさんへと託す。
 察しのいい彼は私の口から抑制剤という言葉が出た瞬間に険しい表情になるけど、この場でじっくり話すつもりはないみたい。まずは女子生徒が優先だと彼女に先に保健室に行くように促し、女の子は潤んだ目元を伏せて申し訳なさそうに私に頭を下げた。
「本当にごめんなさい。ジータさん……」
「気にしないで。悪いのはあなたじゃないもの」
(──そう。悪いのはこんな不完全な人間を創造した神様だから)
 私の言葉に少しは救われたのか、女の子は夕日に照らされた赤い顔をほんのり緩ませると、もう一度頭を下げて行ってしまった。
 サンダルフォンさんはその背がすっかり見えなくなるまで女の子の後ろ姿を見つめ、辺りに誰もいないことを確認すると、声のボリュームを絞って重たい口を開いた。
「まさかとは思うが……。あの生徒に使った抑制剤、まだ世に出ていないものじゃないだろうな」
「もちろん! まだ発表していませんよ」
 なにか問題でも? そんな口調でにっこりと笑うと、サンダルフォンさんは苦虫を噛み潰したような顔をする。分かってますよ。自分が一般的な常識から逸脱していると。
「そんな心配しないでください。治験もしているし、今まで重篤な副作用は起きていません」
「……パンデモニウムグループ。君の父親であるルシファーが身を置いていた、黒い噂が絶えない会社だ……」
 確かに黒い噂は絶えないし、その中のいくつかは事実だけど、それを上回るくらいに社会に貢献している会社。
 世界に名だたる大企業、パンデモニウムグループ。病院を始めとする様々な会社を経営していて、新薬開発にも力を入れている。
 一般的な薬から抑制剤など幅広く手がけ、この会社の扱う薬で有名な物の多くはパパが兵器開発の片手間に作った物たち。
 私が神様に中指を立てて宣戦布告しているように、パパも神様に反抗して世界に終末をもたらそうと裏では兵器を作っていたみたい。それをパンデモニウムは秘密裏に売り捌いていた。
 パパ亡き後は娘の私に声がかかった。でも私は世界の終末には興味がない。私は私の望みを叶えるためにパンデモニウムを利用し、彼らは私の作った薬で富と名声を得ている。Win-Winの関係。
「ジータ。ルシフェル様も心配している。……俺だって。……パンデモニウムとは手を切った方がいい」
 ルシフェルさんはパパ──ルシファーの弟でこの町で小さなカフェを営んでいる。名前はカナン。とってもいい雰囲気だし、珈琲は絶品。デザートだって。
 ちなみにオメガのサンダルフォンさんとは番関係。しかも運命の。すごくロマンティックで素敵。
「──サンダルフォンさん。少し前に抑制剤の処方変わりましたよね? その後、調子はいかがですか?」
「なぜそれを……。調子は──君の言う通りいい。薬も合っていると思う」
「それはよかった。実はですね。あれ、私が作ったんですよ。サンダルフォンさんに合う抑制剤がなかなか無いってルシフェルさんが辛そうにしてて。まるで自分のことのように」
 教員のサンダルフォンさんには、一般的な仕事に就くオメガが使用する抑制剤より強いものを出されている。そのどれもがあまり合わないらしく、ルシフェルさんはとても心配していた。
 全然そんなふうには見えなかったから、その話を聞いたときはすごく驚いたし、なんとかしてあげたいと思ったのを今でも鮮明に思い出せる。
 サンダルフォンさんのためだけに新薬を開発し、会社を通じて医者に新しい薬を処方するように裏から働きかけた。それからは副作用で体調不良になったりせず、ルシフェルさんも喜んでいた。あとありがとうとも。サンダルフォンさんのために作ったとは言ってないのに分かる辺り、やっぱりパパと同じ血が流れているんだなと思ったり。
 とにかくサンダルフォンさんの体質に合ってよかったし、彼のために作ったこの薬は他のオメガからも評判がいい。
「サンダルフォンさん。別に私はパパみたいに世界を滅ぼそうなんて考えてないんですよ。だから安心してください。これからも社会の役に立っていきますから。それに──パンデモニウムは目的を達成するための手段に過ぎませんし」
 笑顔で返すと、サンダルフォンさんはまだなにか言いたげな様子。でもあの女の子のところに行くように言えば、渋々ながら私は解放された。
 ──そう。私の目的は人類の“進化”。バース性というものがない人間の誕生。雄と雌だけの世界。
 バース性があることでメリットはあるとは思うけど、今の世の中にはそれ以上に根深いものがある。それを絶つ。
 けど……正直ママがオメガじゃなかったら、私もこんなことは考えていない。世界で一番大切な人がオメガだから、その人の苦しみを知っているから、私はバース性を否定する。
 これは最終目標。今はその過程でオメガのヒートを完全に抑制可能な薬ができないかと研究の日々。
 ママも毎日薬を飲んでいるけど、絶対じゃない。ヒートを起こしたときの彼の姿は本当に苦しそうで……見ていて胸が痛む。
「ママ……」
 まるで世界の破滅を感じさせるような真っ赤な夕日に目を細めつつ、私は足早に帰ることにした。あぁ、早く彼に会いたい……!

   ***

「ただいま〜」
 学校から少し離れた住宅街。ここに私の家はある。見た目は普通の家だけど地下には研究所があって、そこで私が様々な実験をしているのを知る人は少ない。
 玄関を開けて中に入ればリビングの方からいい匂いが漂い、私の食欲が刺激される。今日も一日頭も体も使ったからもうお腹ペコペコ。
 靴を脱ぐと、真っ直ぐリビングへと向かう。ちょうどキッチンで夕御飯を作っている最中のママは、私の顔を見ると一旦作業の手を止め、その端正な顔に引かれる唇を軽く上げて「おかえり」と言ってくれた。
 私の最愛の人であり、家族でもあるママの名前はベリアル。
 百八十超えの高身長。すらりと伸び、ほどよい筋肉のついた手足は長くてモデルと間違えてしまいそう。
 焦げ茶の短髪を逆立て、ムダ毛の一本もない白い肌に映えるのは私と同じ色をしたルビーレッド。その瞳を縁取る長いまつ毛は、女の私よりふわふわとしてて羨ましい。
 そして、黒いエプロンを押し上げている大きい胸から分かるように、ママは脱いでもすごいの。
 頭だっていいし、天は二物を与えずという言葉があるけど、それを全否定するレベルで天から与えられ過ぎている。
 ママを見た誰もがアルファだと思うくらいに整った容姿をしているけど、ママはオメガ。厳密に言うと元・アルファ。現・オメガ。
 元々アルファだったママだけど、同じくアルファであるパパにビッチング──端的に言えば後天的にオメガされて、パパとの間に私が生まれた。
「ただいま。ママ」
 キッチンへと向かえば、ママは両手を広げて迎えてくれた。私もそれに応え、ママの胸に飛び込む。
 ママの体温と、ほのかに香るオメガの香りが私の精神を満たしていく。
 鼻がよすぎるのか、私にとってオメガのフェロモンは臭い部類に入るけど、ママだけは別。ママの香りはずっと嗅いでいたいくらい。でも過剰に摂取すると変な気分になっちゃうから気をつけないといけない。
「さっきサンディから電話があったよ。オメガの子のヒートに巻き込まれたんだって?」
「……うん。でも大丈夫。新薬の抑制剤で一瞬で収まったし」
「ファーさんが気まぐれに開発した緊急時の抑制剤も比較的早くヒートが収まるが……それ以上か。フフ。さすがファーさんの娘」
「ママの娘、でもあるよ」
「そうだな。オレも鼻が高いよ──おや?」
 ママ以外のオメガの香りを吸い過ぎた影響なのか、無意識の内に過度に彼の香りを堪能してしまった。気づいたときには下半身はムクムクと反応してしまい、ママの脚に押し付けている状態で、心拍数も上昇。誤魔化しきれないほどに私は興奮していた。
 それも仕方ないと言えば仕方ない。だって彼は私を生んだ母親でありながら、私の運命の番なのだから。
 運命の番。それはアルファとオメガの魂の繋がり。通常の番関係よりも強固な絆であり、呪縛。
 運命同士はひと目見たら互いに分かるという。実際にルシフェルさんとサンダルフォンさんも町中で偶然出会って、だもん。
 実の親子が運命の番。世界規模で見てもそんな話、聞いたことがない。まあ仮にあったとしても、それは近親相姦。禁忌とされている。
 けどこれは一般常識の枠にいる人たちにとっての話で。
 枠からすでに外れている私たちにはタブーと言われてもピンとこない。
 だってママが普通の人だったら、ママのヒートに誘発されてラット状態……アルファの発情状態に陥った娘を、食べたりしないでしょう?
「学校で疲れているだろうに、ココは元気いっぱいだなあ?」
「んッ……! あっ……!? ママ、やっ……あぁ……」
 体を離そうとしたけど、ママは逆に腕に力を入れて離れられないようにし、片手は私のスカートの中へ。下着の上からおちんちんを撫で上げられ、先端を指先で刺激されれば、落ち着くどころかもっと硬度を増してしまう。
「スカート持ってて」
 その場に両膝をついたママは私のスカートをたくし上げると、落ちないように持っているように言ってきた。彼がなにをしようとしてるかなんて、考えなくても分かる。
 まだお風呂に入っていないのに汚いよ……。その言葉は大事なところが生温かくて、ヌルヌルとしたものに包まれ、口から出ることはなかった。
「あっ♡ アァッ……! ママのお口、きもちぃ……♡」
 唾液で濡れた舌が蛇のように竿を這いずり、かと思ったら亀頭にキスされたり、尖らせた舌先で尿道をグリグリ。
 口の中、頬に当たる部分に先端を押し付けながら、棒を手で握られて、行ったり来たりと私を追い詰めていく。
「んっ♡ んんッ! も、もぉ……! 我慢できないっ!」
 快楽の虜になった私は無我夢中でママの髪を両手で掴み、ぱらりと落ちたスカートが彼の頭を覆い隠す。
 気持ちよくなりたい一心で、ママの口の中を性器に見立てて乱暴に腰を振る。
 喉奥に押し込む度にスカートの中から「ぐえっ♡」だったり「おぇっ♡」と苦しそうな声を出すけど、私は知っている。ママは喜んでいると。
 ママはサディストであるのと同時にマゾヒスト。パパや私の前ではマゾっけが強いかな。他の人相手は知らない。
 ママには貞操観念なんてものは存在しない。パパが死に、番関係が解消されると気の向くままにフラフラと相手を取っ替え引っ替え。
 たぶんパパと出会う前からそうだったんだろうなと思う。パパと出会って、番関係になったら一旦は大人しくなったけど……。
 番関係になるとオメガは番以外とはセックスができなくなる……と、いうより、したくなくなる。だから私としては早くママを噛みたいけど、私がハタチになるまでお預け。
 まああと少しだし、一度番になったら他人と性行為ができなくなるんだから、それまでの猶予期間だと思ってる。
 けどママが遊んで嫉妬心がないと言えば嘘になる。
 ママが今日遊んだか否かは匂いで分かる。いくらお風呂で落としても無駄。私の鼻は他のアルファよりいいから。
 ママが誰かで遊んできた日は手酷く抱いたりすることが多い。どうしようもないイライラをぶつけるような……。本当は優しくしたいのに。でも正直、ママもそれを狙って遊んできていると思う。
 こう考えると私たちって本当に歪んでいる親子。パパも偏った思考をしていたし、なるべくしてなった感じだけど。
「っ……射精るっ……♡」
 最後のひと突き。ぶるりと下半身に性感が走り、解放感に満たされるのと同時に溜まっていた精液がママの体の奥目掛けて発射されていく。
 アルファの射精量は他のバース性よりも多め。絶対に孕ませてやるという意志さえも感じられるほど。それをママは難なく飲み下していく。それが彼の経験豊富さを示す。本当にどれだけ遊んできたのやら。
 けどそれはどれも“遊び”であって、絶対に許せないものじゃない。多少の嫉妬はするけどね。
「ン、フフ……。スッキリしたかな? まだ夕食まで時間がある。先に風呂に入ってきな」
 荒々しく勃起していた場所を鎮めたママは私の下着を元に戻すと、すくっと立ち上がった。立ったことで見えるようになったママの顔は若干赤くなっているものの、普段の様子と変わらない。
「ねえママ。明日はお休みだし、今日はいっぱいできる?」
 ママに抱きつき、顔を上げておねだり。
 いつも次の日が学校ならしないか、しても回数は少ない。でも明日は学校がないからなにも気にせずすることができる。ママも専業主夫だし。
「抜いたばかりなのにもうセックスの話? 若いって羨ましいけど、怖いねえ」
「ママだって期待してるくせに」
 お尻の穴に私のおちんちん挿入いれられて、何回も何回も絶頂して……。
 情事のときのママの様子を思い出して、また腰が重くなる。
「フフッ。それは否定しないよ。今日もママをたくさん気持ちよくしてくれるかい?」
「もちろん。約束ね。じゃあお風呂入ってくる」

   ***

 数時間後。食事を終え、ママもお風呂を済ませて今は寝室にいる。一応ここは両親の寝室だけど、生前のパパは研究と実験に明け暮れていて、ここで寝ることは少なかったように思える。
 パパがいる頃はママとあんまり一緒に寝られなかったけど、亡くなってからは一緒に寝ることが多い。自分の部屋にベッドはあるけど、今ではほとんど使うことはないかも。
 交わっても、交わらなくても、パパが死んでからはママの横で寝ることが当たり前になったから。
 口には出さないけどママはパパが死んで悲しんでいる。その青い感情を埋めるように私を求めていることも。
 愛する人が亡くなったからだけじゃない。そこにはオメガ特有のものがある。
 番を失ったオメガの精神的な負担は大きく、それ専用の病院があるくらい。ヒート時にはまた無差別にフェロモンを撒き散らしてしまうし。
 まあでも、ママが私をパパの代わりにしているのなんて分かりきっていることだし、結果的には私から離れられないから別にいい。
「ちゅっ、ん、あぁ……ママっ……」
 キングサイズのベッドの上。ママの膝の上に乗りながらのキス。ママにぎゅうぎゅう抱きつきながら彼の口内を味わう。彼の香りと口づけの卑猥さだけで股間がうずうずして、ママの中に早く挿入はいりたくて、それしか考えられない。
 対するママは余裕たっぷり。必死になっている私を見つめ、澄まし顔で舌を絡ませている。これは素直に経験値の差だからしょうがない。
 触れる舌の厚さや、にゅるにゅるとした感触。脳髄がビリビリとしてきて、この先が欲しくなる。
 そう判断した私は早々にママをベッドに押し倒して馬乗りになると、パジャマのボタンを外していく。徐々に現れる肌は引き締まっていて、彫刻のよう。
 大きく隆起した胸はたくましいのに、その中心にある乳首はピン、と上を向いていてエロティック。そのまま目線を下に移動させれば割れた腹筋、そして私の股に当たる硬い感触。
「おいで」
 熱で蕩けるチョコレートのような甘い声で誘うと、ママは両腕を広げてくれた。私の頬も自然と緩み、一つ頷いて彼の胸へと倒れ込む。
 自分が彼の子どもでよかったと思うことがある。それは私を甘やかしてくれるところ。
 甘くて優しいセックスは大好き。もちろん欲望のままに乱れ狂うケダモノのようなセックスも好きだけど。まあ要するに、ママとのエッチならなんでも好きってこと。
 ママの胸。一見すると硬そうだけど、力を入れていないときは柔らかい。耳は彼の心臓の音を聞きながら、片手はふにふにとママの胸を揉み、親指で乳首を可愛がってあげる。
 指の腹でぐりぐりと円を描いたり、転がすように弾いたり、おっぱいの中に押し込んだり。
 ぷっくりとしたエロ乳首は開発され済み。だから弄るのに合わせて私の背を抱く腕がビクビクとして面白い。
「っ……っ……! そんなに強く吸ったら母乳が出ちまうだろ?」
 指遊びもいいけど、どうしても吸いたくなって残りの胸に吸い付けば、彼はくすぐったそうに笑いながら私の頭を撫でる。
 記憶はないけど赤ちゃんの頃、私はママの母乳で育ったらしい。そのときの記憶があればよかったのに。彼はどんな顔をして私に授乳していたのか。
 同じ授乳行為でも、あの頃の顔はもう見れないと思うから。
「ふふっ。ママのアソコ、すっごい濡れてる」
 腹筋をなぞりながら片手は下半身へ。パジャマの下、下着の上から勃起した分身を撫でながらお尻の方に触れれば、湿っていた。かくいう私も下着の中は先走りや女の蜜でぐっしょり。
「ねえママ……今日ちょっと我慢できないかも。もう挿入いれていい……? っていうか、挿入ちゃうね……」
 起き上がった私はママから下りて彼の脚の間へ移動。口では了承を得ようとしているけど、手は勝手に動き、ママのパジャマや下着を脱がせてしまっている。
 本当に体が熱くてしょうがないし、頭の中も興奮のし過ぎでクラクラして冷静な考えができない。
 普段は前戯をもう少し丁寧にして、ママを気持ちよくしてから私も気持ちよくなるんだけど、今日は無理。一回抜かないと落ち着けそうにない。
 服を脱いで全裸になり、熱くて重い腰を見ればママより大きなおちんちんが、まだかまだかと先端から涙を流している。
 ママの脚を大きく開いたことで見える雌穴はヨダレを垂らしながらヒクついていて、私が欲しいって言っているみたい。
 普段ならここで亀頭と穴でキスしたりして焦らすんだけど……。今日は本当に余裕がない。片手でしっかりと砲身を握って一気に押し込めば、穴の強い締め付けを感じたのちに、愛液で満たされた内部に包まれる。
 何度繋がってもキツキツで、気を張らないと搾り取られてしまいそう。
「ン゛、ンンッ……! ハ……! 相変わらずっ、デカいな……!」
 ママは私がナカに侵入すると必ず苦しそうな顔をする。でもそれは当然の反応。私だってこのレベルのを挿入られたらお腹が苦しいと思うし。
「ママのお尻もっ♡ キツくて、あったかくてっ、溶けちゃいそう♡ ねえ、ママって本当に経産夫?」
 そう思ってしまうほどに肉筒はうねりながら私のを咥え、キュウキュウと締め付けてくる。
 荒い呼吸をしながらママの腰を両手で掴み、腰を振り始めれば私と彼の喘ぎ声が交わり、それがさらなる興奮剤となる。
 平時からママの声は好きだけど、エッチのときの声はもっと好き。濡れた低音ボイスはずーっと聞いていたいくらい。
「あッ……ン゛っ♡ 今日はッ、一段、う゛ぅ……! とッ、はげし、ア゛ァ゛っ……!」
 陶磁器のように白く、なめらかな肌は赤くなり始め、ママの目元には雫が煌めく。
 この美しい人が私の運命で、この先も私のママであり、私の旦那さんとしてそばにいてくれる。万感の思いが精神を満たし、私を満足させる。
 自分でも分かる。脳内麻薬が矢継ぎ早に分泌されて、信じられないくらいに気持ちがいい。
 この人が愛おしい! 愛おしくてたまらない!
「あっ、あ♡ んンッ! 射精ちゃうぅっ! んーーっ♡♡」
 這い上がる性熱に天井を仰ぎ、大口を開けながら下半身を震わせる。ママの胎内に向かって大量の子種が放出されているのが分かる。でも妊娠はしない。彼はピルを飲んでいるから。
 いつかはそのお腹を借りて、新人類誕生の実験に付き合ってもらうつもりではあるけど。
 怒涛の勢いの射精の悦に身を任せていると、私を支配していた熱が少しずつ引いていく。脈も落ち着きを取り戻しつつあるけど、燃え盛っていた炎は鎮火とまではいかない。中心部分はまだ燻り続けている。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 脳がクリアになったところでママの方を見れば、彼はイキ損ねてしまったみたい。先に達してしまった私を責めるように、真っ赤に燃える炎の瞳で私を見上げている。
 あぁ、だめ。そんな顔されたらまたすぐに……。
「ごめんねママ。私だけ先に気持ちよくなっちゃって」
 茶目っ気を含んだ謝罪をしつつ、一旦腰を引いて離れれば、盛り上がった肉穴からは私の出した精子がどろりと流れ出す。なんだかそれがもったいなくて、指で掬っては押し込み、掬っては押し込むけど正直キリがない。
 溢れる白濁から興味をママへと戻し、熱っぽく息を吐き出す彼に下半身が疼くのを感じながら、私はその場に座った。
「ママ。私の上に背を向けて座って」
「背面座位? キミも好きだねぇ。言われる度に思うけど、こう見えてオレ結構重いんだぜ?」
「むしろママを感じたいの。さ、私の上に座って座って」
 ぺちぺちと自分の太ももを叩き、促せば、ママはくすくすと笑いながらも言うとおりにしてくれた。
 普通の人よりも筋肉がついた体は、彼が言うように重い。
 全体重が私の体に委ねられてちょっと苦しいけど、ママと密着できて嬉しい気持ちが上回るかな。
 彼の肩口に顎を載せ、目を閉じる。両腕でギュッ、って抱きしめてママを感じれば、ゼロ距離での彼のフェロモンに多幸感が内側から溢れる。
 この人を独り占めしたい。誰にも見せたくない。誰にも触れさせたくない。色んな欲求が生まれる。
 私が知らないところで遊ぶのはいいけど、仮に目の前にママとワンナイトラブを過ごした相手が現れたら……実験材料にしてしまいそう。
 それくらいの激情が溢れ出して止まらないの。
「ジータ。そろそろいいかい……? お預けされてママ、つらいんだよ……」
「ん♡ ハァ……ママのえっち♡」
 バッキバキに勃ち上がったモノが押し付けられているのに、すぐに挿入されなかったことに我慢ができなかったママは自分で動いて私のをぬるっ、と飲み込んだ。
 新たに分泌された愛液と、内部に残っている白濁がローションの代わりになってヌメヌメしていて、すごく気持ちがいい。
 ママが体を動かす度に繋がった場所から粘った恥ずかしい音がして、それだけでまた体が彼を求め始める。
 自分の思うがままに動いているからそれだけでママは気持ちいいと思うけど、私としてはママにもっと気持ちよくなってほしい。だから……。
「ン゛っ、ぐッ……♡ っ……♡ そんな一度に責められたら、すぐイッちまうッ……!」
 今のママはあんまり余裕がないのか、私が乳首とおちんちんを同時に責めたら面白いように体が跳ねた。挿入行為を含めると三点責めだもんね。鋭敏になっている場所を一度に触られたら……気持ちよすぎておかしくなっちゃう。
 背面だからママの顔が見えないけど、触れる肌の熱や息遣いからして顔を真っ赤にしてよがっているのが簡単に想像できる。
 張りのあるお尻が私の肌に当たってタンッ、タンッ、ってリズムを刻み、それは絶頂に向かうにつれて早くなる。
「ママのおちんちんビクビクしてる……♡ ほら、イッちゃえ♡ イッちゃえ♡」
 ギュウッ……! と、乳首を指で捻り上げ、ママのおちんちんを扱く速度を上昇させれば、彼の口から絶え間なく喘ぎ声が発せられる。
「ぉ゛、っあ♡ ハッ、ん、ンん゛ッ♡ っ、ぅ゛う゛〜〜ッ♡♡」
「ッ、あ……ンっ……♡」
 今回はタイミングを合わせることができた。ママと同時に達した私はもう一度熱い迸りを奥へと送り込み、手に握っているママの分身からは粘った体液が発射されて私の手を汚す。
 小刻みに震える体を抱きしめながら、しばらくそうしていると呼吸の落ち着きを取り戻したママが膝から下り、ママの精液で汚れた私の手を取った。
 赤く濡れた舌をべぇっ、と出すと、人差し指に付着している白い液を舐め取り、ぱくりと指先を食む。口の中で舌に舐められるとくすぐったくて、小さく笑いながらもママのご奉仕を受けていると、指全体が飲み込まれた。
 私の方に流し目を送りながら、そのまま出し入れを続ける様子は指を性器に見立てたフェラのよう。
 それがまだまだ私たちの夜は終わることがないと、暗に示していた。