心身乖離~カラダは悪魔を求めている~

 辺境の村。なにもない村だが自然は豊か、村人たちはみな親切で心温かな暮らしをしていた。
 またここ数年は魔物に襲われるといったことがなく、最近では都会の喧騒に疲れた者が緑に囲まれたここに癒やしを求めて移住してきたりと、昔に比べると村の規模は確実に大きくなっていた。
「この村が平和なのは、かみさまのおかげだよね!」
「……うん。そうだね」
「シスターさま……?」
「……なんでもないの。さあ、お家に帰る時間よ。また明日ね」
「はーい! またあしたー!」
 村の奥まったところにある清廉の象徴たる小さな教会には一人のシスターがいた。名前はジータ。
 元々は捨て子だったが、教会の神父に拾われ、村のみんなで育てられた。
 育ての親の一人である神父はすでに亡くなっているが、村人たちに恩義を感じているジータは跡を継ぎ、シスターとして静かに暮らしている。
 子供と大人の狭間にいる彼女は青い修道服とベールに身を包み、露出しているのは顔と手のみ。
 教会のステンドグラスから差し込むさまざまな色は温かみを帯びており、今が夕刻なのだと示す。
 毎日熱心にお祈りにくる村人の女の子の言葉にジータの表情が曇る。いつも明るい彼女の陰った顔に少女は首をかしげるが、ジータは憂いを帯びた微笑みを向けるだけで答えることはしなかった。
 木製の大きな両開きの扉を開くと少女を見送り、遠くなっていく背中を見つめていると、やがて消えていった。教会の場所が場所なので、周りには他の村人の姿はない。
「この村の人間はカミサマではなくて、キミに感謝すべきだ。そうは思わないかい?」
 夕日に照らされ、地面に映されたジータの黒い影が揺らめくと中から男が姿を現した。
 赤い双角、血のまなこ、はだけた黒いシャツから見える筋骨隆々の体に浮かび上がる紋様は邪悪なもので、見た目だけで彼が魔の者だと分かる。
 彼はジータの隣に立つと、彼女と同じ方向に顔を向けながらあざ笑った。本当に愚かだ。口調からは見下しの感情が強く感じられる。
 ジータは彼の言葉を制するように睨みつけるが、口では男に勝てないと判断し、反撃を諦めると踵を返して教会の中へと戻った。今日はもう誰もこないだろうと、扉の鍵を閉めて祭壇へと向かう。
 男はジータがなんの反応もしないので面白くなさそうに後頭部で腕を組むと、黙って彼女の後を追った。
 暗い色の木で作られている身廊を歩み、祭壇へと着くとジータはその場で手を握り、神の像へと祈りを捧げる。今日も一日息災でした……と。けれど、この平和をもたらしているのは神ではない。それは彼女が一番分かっていた。
「ひぅ……!」
 突如背中に感じる重圧。間髪を入れずに腹部に与えられる性的な淀み。
 男が体重をかけてきているので、前のめりになりながら視線を下へと向ければ、男の大きな手がジータの子宮がある場所に触れていた。
 服の上から触れられているというのに、体に走るのは甘美な痺れ。神の前で流されるわけにはいかないと、ジータはかぶりを振って拒否をする。
「駄目っ、ベリアル! まだ夜の帳も下りてないのに……!」
「だぁめ。オレを無視したお仕置き」
「無視なんて、ああっ!」
 神の御前みまえ、祭壇へと男──ベリアルに押し付けられ、腹を撫で回される。
 たったそれだけで下肢がガクガクと震え、自分の力で立っていられなくなる。
 浅ましい売女のような声も勝手に出てしまう。こんなの、神の前で晒け出すのは到底耐えられない。
 少しでも快楽を逃がそうと祭壇に敷かれている布を力いっぱい握りしめ、手が白くなる。それほどの力でジータは堪えていた。
 ベリアルは健気な少女の様子をじっくりと目に焼き付けながら腹をまさぐる手の動きをやめない。ときに大きな手のひらでさすり、気まぐれに指で腹の一点を押す。外からの重圧にジータは喉を反らせ、甲高い悲鳴を上げる。助けは──こない。
 ベリアルに触られているとジータの身に変化が訪れた。股の間にぬめった感覚。たらりと太ももを伝う体液。布で隠されている場所のはずなのに、透視したかのようにベリアルは見逃さなかった。
 空いているほうの手で修道服の上から股間をわし掴みにし、ベリアルの中指が脂肪の割れ目を押さえつけた。
 溝に溜まっていた粘性の蜜がじゅわりと弾け、指を中心に濃い青色に変わる。硬く膨らみ始めている秘められた粒を服の上からカリカリと引っ掻けば、恥蜜は際限なくジータの幼い花からあふれ続ける。
「相変わらず上のお口ではイヤだイヤだと言うが、下のお口はそうじゃないみたいだなぁ?」
 性器への刺激にひたすら我慢していると、頭部を覆うベール越しに背後からねっとりと囁かれる。
 さらには湿った吐息を耳に向かって吹きかけられ、ジータはベリアルの腕の中で大げさなくらいに跳ねた。
 ベリアルは見た目も整っているが、声帯も極上だった。そんな声で言われるだけで、思考という絡まった糸がほどかれていく。
「お願い……! せ、せめて寝室で……! ここは嫌っ、お願いだから……!」
 涙の膜が張った双眸をベリアルへと向ける。暗い茶髪に禍々しい目を持つ男は楽しそうに口角を上げていた。
「おねだりの方法は教えたはずだけど?」
 パッ、と体を解放される。ジータは呼吸を震わせながらもベリアルと向かい合い、彼の太い首へと腕を伸ばす。そのまま引き寄せれば、ベリアルは逆らうことなく上半身を屈ませた。
 柔らかな唇同士が触れ合い、目を閉じているジータが舌を割り入れれば、これも抵抗なく迎えられる。
 ベリアルの分厚い舌とジータの舌が絡み合い、濃厚な唾液の交換。
 いやらしい水音がジータの鼓膜を犯していく。今の彼女が聖職者と言って誰がそれを信じるだろうか。それほどに卑猥な光景が広がっていた。
 必死になって“おねだり”をする少女をベリアルは楽しそうに見つめていた。至近距離で震える豊かなまつ毛がいじらしい。
 彼は満足げに目をカーブさせると、ジータの後頭部と腰に腕を回し、抱きかかえることでさらに深く口を塞いだ。
 流し込まれる彼の生暖かい口腔分泌液にジータは嚥下を繰り返すが、飲み込みきれなかった分が口から伝い、漏れる。
 ベリアルによって口内を激しく掻き回され、鼻呼吸が追いつかない。しだいに酸欠で苦しくなるも、それだけ。その先は人間の領域であって、ジータにはもう関係のないものだった。
 脳髄が痺れ、なにも考えられなくなる。口から聞こえる聞くに耐えない唾液の旋律を感じながら早く終わってほしいと願っていると、ようやく満足したベリアルが顔を離した。
 二人を繋いでいた透明な糸が落ち、ジータの青い服に不自然な黒点を作り出す。
 落涙しながら深い呼吸を繰り返すジータを見て、ベリアルは「よくできました」と頭を撫でると、彼女を軽々と横抱きにして歩き出す。
 軽やかな足取りで向かうのは祭壇の横側にある扉だ。その先はジータの部屋へと続く廊下がある。
 ベリアルがドアノブを回し、扉の向こう側へと足を踏み入れるときもジータは抵抗せずくったりと体を預け、彼にすべてを委ねていた。
 教会の奥まったところにあるジータの部屋。アンバー色に染まる扉を開ければ、ゆったりとした空間が広がっていた。
 修道女らしいと言えばらしい、最低限の調度品が置かれたシンプルな部屋。整理整頓は行き届いており、過ごしやすくはある。
 ひとり部屋だというのに部屋の隅に設置されているベッドはダブルベッド。以前はシングルだったが、ベリアルとの生活が始まってから今のベッドに変えた。
 ベリアルはベッドの前にジータを下ろすと、自分は縁に座った。真っ白なシーツに包まれたマットレスが彼の重さで沈む。
「自分で脱いでくれ。そうだな……ストリップショーのように頼むよ」
 聖なる職業に就く者をあざ笑うような顔と言葉。
 ジータはあまりの羞恥心に頬に熱を感じながらベリアルを睨みつけた。最低最悪の下劣な男。だが、彼の命令に従うしかなかった。
 ストリップショーと言われてもジータは見たことがないので普通に脱ぐしかない。彼の視線から逃げるように床へと目を向け、体を小刻みに振動させ、身を包む布たちをゆっくりと外していく。これが男の劣情を煽るのだとジータは分からない。
 最初は頭部を包むベール。現れた彼女の髪のほとんどは金だが、少しだけ銀に変わっていた。比率的には自毛である金が勝っているが、いずれは逆転するだろう。
 体を隠す布も取り去る。ほどよく実った胸部は扇情的なデザインの黒いブラジャーで隠されているが、この下着は彼が用意した物でジータの趣味ではない。
 彼女の持っていた下着類は処女臭いと処分され、現在はベリアルが用意した下着しか所持していなかった。
 彼いわく自分はデザイナーで、ジータのためにデザインした。らしい。
 肝心の下半身は下着を着用するのを禁じられているのでなにも穿いておらず、先ほどのベリアルの愛撫で恥部はしとどに濡れていた。
 ベリアルが言うにはスリルを味わって悶える姿を愉しみたい、だそうだ。変態にも程がある。
 そして驚くべきなのは子宮あたりに刻まれた紅い模様だ。蛇が絡まった林檎から六枚の羽が生え、それを中心点として植物のツルのような線が一本いっぽん外側に向かって伸びている。
 ジータの体を雁字搦めにするように。
 紋はジータを包み込むように腹部や背中、太ももに向かって伸びているが、まだまだ全身には回りきっていない。
 これが回りきったらジータの意識は消え、身も心も、魂もベリアルの持ち物になる。
 ただの印かと思いきや、これを刻まれてから彼女の体はおかしくなった。ベリアルに触れられるだけで猛毒を含む甘さが体を駆け抜け、力が抜けてしまう。彼専用の性奴隷の証のようなモノ。
「あぁ……キレイだ。まさか、聖職者のカラダを淫欲の印が蝕んでいるなんて誰が思うか」
 ジータは俯く。自分でも見るたびに信じられなくなる。聖職者の体にあっていいものではない。
「本当に愚かな村人たちだ。神などという偶像を崇拝し、信じている。その身……いや、魂をもって村を救い、現在に至るまで守護しているのはキミだというのに」
 ベリアルの言葉にジータは目を閉じ、かつての記憶を巡らせる。
 彼との出会いは最悪のものだった。数年前、真夜中にこの村に魔物の群れが押し寄せたのだ。
 戦う力があったジータも村人たちに混じって戦っていたが、その中にひときわ強い魔物がおり、村人たちは次々と地面へ伏していった。
 ジータもそれに漏れず、地に倒れ、息も絶え絶えだった。どんなに村を想う力が強くてもそれに伴う力がなければ意味がない。
 このまま死にたくはない。誰でもいい。そう。魔の者でもいいからこの状況を打破する力を……!
「助けて──あげようか?」
 真っ赤に染まる喧騒の中、この場には似合わない落ち着いた男の声が頭上から聞こえた。なんとか目だけ動かせば、そばには異形の存在が立っていた。
 霞む視界でも分かる悪の気配。本来ならば聖職者であるジータが魔の存在に頼るなどあってはならない。が、絶体絶命の状況ではそんなことも言っていられない。
 救いの手を差し伸べたのは信仰を捧げていた神ではなく、悪魔のような男。その手を──取るしかなかった。
「たす、けて……くれる……の……?」
「いいよ。キミが相応のモノをくれるなら」
「私の……魂を、あげ、る……それしか、な、い……」
 意識も朦朧としてきた。命の灯火が消えかかっているのが分かる。這い寄る死の気配。この運命から逃れられないのなら、この魂などくれてやる。
「オーケイ。契約成立だ」
 ここでジータの意識は途切れた。
 目覚めるとジータは村にある小さな診療所に寝かされていて、傷の治療を受けていた。村人たちは彼女が目を覚ましたことに喜んだが、ジータは己は死んだはずだと自覚していた。
 生き残った村人に話を聞けば、突如大きな爆発音がしたと思ったら魔物たちは木っ端微塵になっていたそうだ。誰の仕業かは不明だが、とにかく助かった。
 話を聞かせてくれた村の婦人は「神様が奇跡を起こしてくださったんだ」と涙を滲ませながら喜んだが、ジータは村を救ったのが神ではないことを知っていた。
 その日の夜のこと。病室でひとり寝ていると、人の気配を感じた。視認するべく目を開ければ、村を救った悪魔のような外見の男がベッドのそばに立っていた。
 二つの窪みに嵌まるパイロープガーネットを爛々とさせながら、じぃっと見下ろしてくる。
「あなたが助けてくれたのね……。ありがとう」
「マァ、代償をもらったからね」
「でもどうして私は生きているの? あのとき死んだはず」
「たしかにあのときキミは死んだ。魂だけ貰うこともできたが……それじゃあ面白くない。だからオレの魔力を分け与えてあげたのさ」
 男の言っていることが理解できないのか、ジータは何回か瞬きを繰り返すだけ。男はその様子を見て喉を鳴らすと、「こういうことさ」とジータの首を思い切り掴んだ。
 ギリギリと力を加えられ、息ができない。悲鳴上げることさえできず、なんとか引き離そうと男の腕を両手で掴むだけ。
 苦しくなる呼吸。また死ぬのか。あまりの痛苦になにも考えられなくなり、涙がはらりと零れ落ち、頬を濡らす。
(苦しい……のに、どうして……?)
 おかしい。普通ならば窒息死しているであろう時間が経っても自分は生きている。苦しいが、その先がやってこない。
 まさか男の言っていたことは……。
「理解できた? キミの体はオレが力を与え続ける限り死なない。成長することも、老いることさえも。オレの力で動くお人形と化したのさ」
 苦しいだけの理由を告げると、男はジータの首から手を離した。肺になだれ込む酸素に激しく咳き込み、涙を滲ませながら男を見遣る。
「そんな……」
「その見た目だと……成人すらしてないだろう。キミもまだ生きたかっただろうし、オレもかよわい存在への慈悲くらいある」
 キミのためにしてあげたんだ。うっそりと目で笑む男は告げるが、その言葉は偽りなのだとジータはすぐに分かった。
 供給を途絶えさせない限り死ぬことのない体を与え、弄ぶつもりなのだろう。
「……私は、これからもこの村で生きていいの?」
「もちろん。けど……」
「うっ……!?」
 男の手が布団の中に侵入する。腹部──ちょうど子宮がある場所に服越しに触れられると、じんわりと熱を感じた。
 ただ熱いだけではない。じんじんとするような……初めての感覚。熱の陰に性的な気配を感じてジータは息を呑む。
 いったいなにをしたのだと目で訴えれば、悪辣な男は愉快そうに口を歪ませた。
「キミに印をつけた。この印が全身に回りきると……キミは身も心も、魂もオレのモノとなる。最終的には回りきるにしても、抗い続ければ進行は緩やかに、逆に堕ちれば早くなる。少しでも長く自我を保っていたいなら、頑張ってくれ」
 これが男──ベリアルとの出会い。
 自らを堕天使と呼ぶ魔の存在。この者に力を供給されることで、ジータ自身も人間離れした力を扱えるようになった。
 不滅の体に人外の力。ジータはこの力を使い、村全体に魔除けの結界を張ることで守護していた。なのでベリアルが言ったように村人は神ではなくてジータに感謝するべきなのだ。
 だが、この力も元を正せばベリアルのモノ。感謝されたところでジータは嬉しくない。
 神に仕える者が神に背いている。心を蝕む罪悪感。
 けれど、自我を保っていられる限りはこの村を守りたい。
 その気持ちは強く、こうして繰り返される愛のない結びつきをジータは受け入れていた。
 本当は年頃の女の子らしく、心から愛し合える人と結ばれたかったが、一度死んだそのときにキラキラとした少女の夢は捨てた。
「村の人たちを馬鹿にしないで。これは恩返し。捨てられていた私をここまで育ててくれた村のみんなへの」
 記憶の想起を終えたジータが顔を上げ、ベリアルを睨みつける。
 自分のことはなんと言われようが構わないが、ジータにとっては家族のような村人たちのことを悪く言うのは許さない。
「健気だねぇ。いくら恩義があるとはいえ、そこまで心身を捧げる意味があるとはどうしても思えない。誰にも感謝されず、オレのモノになるそのときまで抗い続ける……。人間の考えていることは理解できないよ」
「理解なんてしようともしないくせに」
「フフ……さあ、おいで。今宵もオレを愛しておくれよ、聖女サマ」
 ベリアルはヒトの形をしているが、人間ではない。彼にとって人間は下等生物。理解する必要がない。それが分かっていても、腹立たしい。
 ジータが忌々しげに吐き捨てると、ベリアルは口元を蠱惑的に緩ませ、ベルトを外すと脚を広げた。
 彼との姦淫を数え切れないほど繰り返してきたジータは若干眉をひそめると、彼の脚の間に両膝をついてズボンのボタンを外した。
 チャックは口で下げるように躾されているので、股間に顔を近づける。もう慣れたことでも喜んでやっているわけではないので、どうしても嫌そうな表情になってしまう。
 が、ベリアルはそれすらも楽しんでいるようだった。淫紋が広がるのを抑えるため、堕ちるわけにはいかない。その決意がどう崩壊していくのか見届けたい。そういう顔をしている。
 布越しに感じる熱。膨らみを覆う布の留め具を噛むと、ゆっくりと下げていく。無機質な音を立てながら下ろしきると、彼の昂ぶりが勢いよく飛び出してきた。
 先端の穴から吐淫を流し、いやらしく光る肉棒は血管が浮き出ていて、太さも長さも一般的な人間の男と比べると比べられた相手が可愛そうになる。
 こんなモノが交わりのたびに己の中に入っていると想像して、ジータは生唾を飲み込む。
 思い返せば初めての夜も痛みはなかった。ベリアルが慣れているのか、淫紋のせいなのか、嫌というほど舐められ、指で擬似行為をされて濡らされたからか。
 理由はどうであれ、気持ちよさだけが支配していた。それは今に至るまで変わらない。
 ビクビク震える肉の塊を見ていると、ジータの女の部分が切なくなってきた。頭は快楽に身を任せては駄目と訴えるが、体は反対の主張をする。
 ──胎内を彼でいっぱいにしてほしい。奥まで突いて、満たしてほしい。
「目が蕩けているねぇ。オレが欲しくてたまらない……そんな顔をしてるよ。キミ」
 ベリアルの声でジータは我に返り、熱に流されてしまいそうになった自分を恥じるように顔に皺を刻むと、横笛を吹くように雄の象徴に口づけた。
 片手を添えて固定し、熱塊の根本に向かってキスをし、舐め上げる。フェラをするのには慣れたが、肉の生の感触は未だに慣れない。
 エラの張ったカリ首を舌先でなぞれば、頭上から熱のこもった吐息が漏れる。ベリアルの控えめだが、甘い嬌声はジータの腰にまとわりついて離れない。
 じくじくと反応する女陰に気づかないフリをしながら、ジータは口淫を持続させる。
 丸みを帯びた先端に吸い付き、口に咥え、太茎の根本を手で固定するとそのまま頭を前進させた。
 砲身がすっぽりと隠れる頃には亀頭は喉の奥まで達しており、苦しさを感じながらも奥の奥で扱いてやる。かつてのジータではできなかった芸当だ。
 ベリアルから教え込まれた性技の一つ。彼を満足させるためだけの存在へと確実に変化しているが、絶対に堕ちてやるものかと彼女の目は強い決意を秘めている。
「は……ははっ、昔に比べると、っう……だいぶ、上手くなったねえ。はぁ……っ、そこ、キモチイイよ……あぁ、ヤバい……! イキ、そう、」
「んぶっ!? ん゛んーーッ!」
「さあ、たくさんお飲み。キミが蠢くために必要な魔力だよ」
 口内で肉竿の質量が増すと、ベリアルは長い脚の片方をジータの背中へと乗せ、押し付けた。より一層深く刺さる怒張に涙が流れると、白いマグマが大量に吐き出される。
 苦くて、粘っこくて、不味いはずなのに、ベリアルの魔力がふんだんに含まれた精液を受けたジータの体は喜んでいた。
 何度も喉を上下させるジータの頭を、ベリアルは聖母のような優しげな笑みを浮かべながら撫でる。どろりとした血の瞳の奥で彼はいったいなにを思っているのか。
「キミが活動するためにはオレの魔力が必要。その供給方法は色々あるが、オレの体液を直接飲ませるのが一番効率がいい。最初は嫌がっていたけど、だいぶイイ顔をするようになったじゃないか」
 局部から顔を離し、口を拭うジータはベリアルの言葉に頭に血が上りそうになるが、煽りは彼のオハコ。反応しては駄目だと視線を逸らした。
「何年経っても強情だねぇ。それもそうか。己を保つため、堕ちるわけにはいかないもんな?」
「今日は、これで終わり? なら夕飯の支度をしたいんだけど」
「魔力供給だけシてもらって終わりだなんて酷いオンナだな。もっとオレを満足させてくれよ……。ホラ、おいで」
 両方の太ももを手のひらで叩き、上るように指示する。対面座位をしたいのだろうか? 訝しげな顔をしながらもジータは言うとおりにする。逆らっても結局は彼に無理やりされてしまうのだから。
 ジータがその場で立ち上がればぬめりを帯びた蜜がたらりと床に落ち、ベリアルは口角を上げた。口では嫌がっても体は逆の反応をすることに面白がっているようだ。
 彼の視線に顔に朱を散らしながらジータはベリアルの脚に乗っかった。体勢的に自然と脚が開いてしまい、股の間から愛液が滴ってしまうし、少し視線を落とすだけで彼のペニスが間近に感じられ、慌てて顔を上げればベリアルの端正な顔が目の前にある。
 どう足掻いても彼からは逃れられない。
「イイ子だね。逆らってもイイコトないもんな?」
 微笑み、髪を優しく梳く彼の言葉にジータは悔しげに下唇を噛んだ。その言葉のとおりだと。最初は反抗したが、その結果は何倍にもなって自分の身に返ってきた。
 普通の人間ならば死んでいるような責め苦を与えられても、ジータの体はすでに死んでいるので死なない。ただ苦しみと痛みだけが続く。そして絶妙なタイミングで快楽を叩き込まれ、意識を失うこともできない。
 体はそのときの恐怖をしっかりと覚えていた。
「ひ、っ……! や、やめ、ぁ、あァッ……!」
「オレの贈り物、カラダによく馴染んでいるようだ」
 胸を隠す下着を外し、床に落とすと、ジータが倒れないように背中に腕を回した。
 大きな手で支えながら、ベリアルは残りの手で彼女の腹に刻まれた赤い紋様を円を描くように撫でる。
 触れられるだけで腹の奥が疼き、痺れが体全体に広がり、彼に与えられる甘やかな熱に思考が絡め取られていく。
 背中にあるベリアルの手がジータの背を押し、露出した胸同士が触れ合う。女性の柔らかな膨らみと、女性からすれば薄いながらも、男性の中では大きなほうに分類される膨らみが重なる。
 ベリアルが体を揺らせば、ピンと張った薄紅色の飾りたちが互いを刺激した。淫紋と比べると物足りないが、その緩さが癖になりそうな悦をジータへ与える。
「んふぁ、やらぁ……! ひゃめ、やぁ、ぁ……ん゛んッ!? んぅぅっ!!」
 ジータの背後に回す手を後頭部へと移動させ、押し付けるとベリアル唇と重なる。彼の唇はジータの知らないところで手入れされているのか、彼女よりも潤みや艶があった。
 そんな唇も感触に感じ入る暇もなく乱暴な動きをする舌にこじ開けられ、口内を蹂躙される。ザラついた硬口蓋を撫でられると、くすぐったさと心地よさが駆け抜けた。
 さまざまな口内性感帯を的確に刺激され、ジータは愛撫を返すこともできずに翻弄されるだけ。
 その間も印を弄るベリアルの手は止まらない。彼に撫で回されると、大量の淫水を垂れ流しながらジータの下半身が顫動せんどうする。
 上下に激しく責められ、呼吸困難に陥りながら身悶えしているとやがて濡れた視界の中に星を幻視するようになった。絶頂がもうすぐそこに迫っているのだと、ジータは理解する。
「やだ、やだぁ! も、んぁっ、触らない……でっ! あ゛ッ!? いやっ、いやぁぁぁっ!」
 目の前が明滅し、ジータは堕天使という名の悪魔の首に腕を回して縋った。彼女の股ぐらからぷしゃっ! と弾けるサラサラとした体液がベリアルの下肢を濡らし、大きな体の震えと一緒に水しぶきのように何回か放水される。
「撫でただけなのに潮まで吹くとは。聖職者というのが嘘のようだね。娼婦の間違いじゃないかい?」
 脱力し、ベリアルの肩に顔をうずめながら痙攣するジータの小さな背を撫でながら囁く。揶揄する言いかたに赤い感情が湧き立つも、彼の言葉が的確でジータは反論できなかった。
 およそ聖職者とはかけ離れた痴態。神に仕える者なのだ。清らかであれと人々は願い、また、以前のジータはそうあるべきと思っていた。
 一人の女として生きていくことを決めたら、シスターは辞める。そのつもりだったのに……これはなんだ。堕ちた者の手で乱れ、穢れた身を隠すように清純な青の衣装を纏って日々を過ごしている。
 違う意味で体を振動させるジータをベリアルはベッドに寝かせると上着を脱ぎ、覆い被さった。悪魔を思わせる紋様が浮かぶ体はたくましく、見た目どおり重い。
 けれどその重さからくる圧はジータの体を再び熱くさせた。
 胸がベリアルの胸筋に潰され、苦しいはずなのに、妙な満足感。彼の肌に触れていることに体が喜んでいる?
 どこまでも言うことを聞かないこの身が本当に嫌になると、ジータは憂う。
「乖離する心とカラダ。オレに堕ちて、従順になれば楽になるぜ?」
「嫌だ」
「即答かよ。まあいいけど。嫌だ、なんて言ってられるのも今のうち。いずれは自分から股を開いてオレを求めるようになるさ」
 いつかは必ずやってくる結末。少しでも遅くするためには自分を強く保たなければならない。
 ベリアルはジータの頑なな決意を崩すかのように動き出す。体を下にずらすと柔い肉を掴み、その片方に顔を近づけると吸い付いた。
 芯を持った尖りを柔らかな舌でこね回し、押し潰す。残りの胸は親指と人差し指で可愛がりながら、大きな手で包み込み、揉みしだく。劣化のない肉体だからと手加減がない。
「あ……あっ……! ん、あぁっ、……ん、んっ……!」
「我慢は体に毒だぜ? ……おっとぉ? ココは慣らす必要がなさそうだな」
「ひぅ……!?」
 吸われ、噛まれ、潰され。腫れた胸の飾りを口で弄りながらベリアルの手はジータのへそを通って下腹部へ。
 軽く触れただけで卑猥な水の音。そのまま指を三本挿入すれば、ベリアル専用の肉筒は男の骨ばった指を簡単に飲み込んだ。
 内部に感じる異物。それぞれが不規則に動きながらジータの弱い場所を撫で、奈落より這い上る背徳感に腰が揺れてしまう。
 ナカを拡張するように指を広げられ、くぱぁっ、とジータの秘裂が口を開く。ひんやりとした空気が感じられ、彼女は声を詰まらせた。
 淫熱を散らそうとして掴んでいるシーツの白地にはいくつもの皺ができ、ジータは双眸をギュッとつむる。
 どこまでも拒否をする神の愛し子に対してベリアルは醜悪に口を歪めると指を引き抜き、上体を起こすと、代わりに巨大な楔を打ち込んだ。
 ハジメテを散らされてから今日に至るまでベリアルしか知らないジータの膣は彼専用。ベリアルの形を覚えた穴は容易に広がり、満たされた喜びに彼の分身を肉襞で包み込む。
 あまりにもぴったりで、温かくて、ベリアルは気持ちよさげな嘆声を漏らす。
 難なく飲み込んだとしても腹の苦しさは変わらない。ジータは目を閉じていられなくなり、開眼すれば涙が零れ、呼吸も浅くなる。
「今は簡単にオレを咥えるようになったねぇ。昔は半分も挿入はいらなかったのに」
「ぅあ……! くる、し、触らない、でっ……!」
 ぽっこりと不自然に膨らむ腹部をトントンと指で押される。彼の大きくて硬い熱の塊が、パズルのピースが綺麗に嵌まるように胎内に存在しているのだと嫌でも思い知らされる。
「だからと言ってガバガバってわけじゃない。なに。恥じることはないさ。オレがそう調教したんだから。ホラ、魂を剥き出しにして全部さらけ出しなよ」
「かはっ……! ぁ、あぅ、あ゛、ァっ!」
 恥骨同士がくっついていたのが大きく離れると肉が引きずられ、一気に穿たれる。下半身から脳天へと突き抜ける電撃がほとばしり、ジータは喉を仰け反らせた。
 一定のリズムを刻む抽送に合わせて彼女の声帯が甘い啼き声を上げ、男の濁った欲望を刺激する。さらに膨れる滾りはジータの肉穴を拡張し、どこまでもベリアル好みの人形へと変えられていく。
 ジータの愛蜜をまとったベリアルの凶器は淫猥な光を放ち、腰を引けば淫らな糸も一緒に引く。粘りを帯びた体液がかき混ぜられる音は彼女の鼓膜をも犯し尽くす。
 ただの魔力供給ならば先ほどの行為で済んでいる。
 この行為はジータの固い意志を少しずつ削り取っていくのと、ベリアルの欲を満たす意味合いのほうが大きい。
 少女を蹂躙しながらベリアルは屈み込み、ジータの耳を両手で塞ぐと可愛らしい声を上げる口に自分のモノを重ねた。
 耳を塞がれている影響で舌の交わる音がダイレクトに聞こえ、ジータの羞恥心を刺激する。何度もやられていることだが、恥ずかしい。
 ベリアルにしては珍しく目を閉じ、ジータは滲む視界に見える柔らかなまつ毛に胸の高鳴りを感じ、普段とは違う様子に困惑の色を目に宿す。
「……どうしたの」
「なにが?」
「いつもは、っあ、壊す、勢いなのにっ……!」
 だから聞いた。至近距離に見える真紅の瞳を持つ悪魔は、彼女の問いに小首をかしげる。
 このやり取りの間にも突き上げは止まらないので、詰まりながらもジータは言葉を紡ぐ。
 普段は死ぬことがないと分かっているので乱暴に抱かれることが多い。子宮を突き破られるのではと恐怖を抱いたこともあった。
 呼吸を制限され、長い苦しみを与えられることもあった。その他にも普通の人間にやれば下手をすれば死ぬのではと思うプレイも。
 それなのに今日の繋がりは──とても優しい。
 一般的なセックスをする者たちからすれば激しいのかもしれないが、ハードなプレイを経験してきたジータにとっては甘いほうに入る。
「オレだってたまには優しい交わりをしたいときがあるのさ。キミも喜んでいるじゃないか。こんなにオレを締め付けて」
「あ……ぁ! あ……、そこっ、だめぇ……! 突いちゃっ……あっ、んぁ……!」
 両手を頭上で重ねられ、大人と子供の指が絡み合う。
 息つく暇も与えられず、長い舌がジータの舌をとらえながら口内の性感帯を舐め回し、大量の唾液が少女の口の端からあふれ出す。
 まるで恋人とするような行為。違う。自分とベリアルはそんな甘ったるい関係ではない。それなのに、脳は勘違いをしてしまいそうになる。
 これは彼の気まぐれ。きっと次にはまた自分勝手にこの身を穢すのだ。流されてはいけない。
 けれどいつもとは違う快感が繋がっている部分から全身へと伝わり、ジータはベリアルの口内にくぐもった啼き声を吐き出し続ける。
 男の下で悶えていると胎内に埋まっている肉茎が一層大きくなった。ベリアルの限界も近いのだろう。それを示すように腰を打ち付けてくる速度も早くなり、前後左右を判断する思考能力さえも奪われる。
「ひい゛っ、あ゛、あ゛ッ! やらぁ! あたま、おがしぐなるぅ……!」
 ベリアルの動きに合わせて体を震わせ、頬に血の集まった顔は涙で濡れ、媚びるように上げられる嬌声は聖なる者とはかけ離れたモノ。
 体は勝手にベリアルの背中を掻き抱き、奥深くまで欲しいと脚を絡め、引き寄せてしまう。閉じられた瞼の裏では閃光が散る。
 荒々しい口付けを交わしていると、不意に男が呻いた。子宮に向かってブシャリ、と弾けるたくさんの熱を感じ、ジータの女の部分が満たされる。
「う゛ぁ……あつい、の、いっ……ぱ、い……」
 蕩けきった意識の遠くで自分を咎める声が聞こえた。
 確実に堕落していっている。心は強く保とうとしているが、この身は、もう。
 閉じられた目からは一筋の涙が流れ、ジータは体に広がるベリアルの所有物という証がまた少し伸びるのを、認めるしかなかった。