「お父さま、珈琲を持ってきたよ」
「……ああ」
「ん……? ベリアルいるの? 姿が見えない──え」
それは和やかな雰囲気が漂う時間だった。執務室で仕事をしている主のためにルシフェルから淹れ方を教えてもらった珈琲を持ってきたジータは、書類や本が置かれている机に淹れたばかりの珈琲を置くと、気配は感じるも姿が見えない人物に辺りをきょろきょろ。
部屋を見渡しても姿が見えず、なにを思ったのか椅子に座るルシファー側に回ったジータは、石化したように固まってしまう。
窓からは柔らかな日差しが入り、こんなにも穏やかな空気に満ちているというのに、彼女の視線の先──ルシファーの股間部分には彼の分身を美味しそうに頬張っているベリアルの姿。
ルシファーの使っている執務用のデスクは大きく、机の下も広め。大人ひとりは余裕で入り込める。まさかこんなところに潜り込み、明るい時間からそういうコトをしているなんて。その事実にジータの頬が一気に熱を孕む。
ルシファーもルシファーだ。敏感な場所であるはずの性器を舐められているというのに涼しい顔をしていて、性の香りさえしない。普段通りの表情なのだから。
「あ、えと……お父さま?」
「コイツが勝手にやっているだけだ」
珈琲の香りを楽しみ、カップに口付けるルシファーはいつもの彼だ。だが下半身の状況を見るとおかしくて、見ているこちらが混乱してしまいそう。
完全に思考停止しているジータにベリアルは紅潮した顔を向けながらおいでおいでと小さく手招きし、来るように促す。
戸惑いながらも無視するわけにはいかず、ジータは控えめに頷くとベリアルの隣に潜り込む。
言葉にせずとも彼の伝えるその意味が分かる辺り、ベリアルによって相当教育されたのだと分かる。
机の下。ベリアルと同じように膝立ちになったジータの目の前には愛する主の猛り。ベリアル以外の男の勃起状態を見たことがなかったジータは、彼とはまた違う形の男根にごくりと喉を鳴らす。
肝心のルシファーはというと、無言でジータを見下ろしていた。肘掛けに腕を置き、頬杖をしながら彼女がどういうふうに動くのかを観察している。
「性欲は薄めだけどファーさんも健全な成人男性なんだから。たまにはママがヌいてあげないと」
「えっ、う、うん……。そ、そうだよね……」
ルシファーと長い間一緒にいて性欲とは無縁の存在だと思っていたが、ベリアルに言われると確かに……。と、ジータは思う。
「ほら、一緒にパパにご奉仕♪ ご奉仕♪」
軽く開かれたルシファーの脚の片方に片手を置き、ベリアルは唾液でテラテラと光る肉厚な舌を伸ばすと、肉茎をアイスキャンディーに見立てて下から舐め上げる。
ジータもそれに倣うように股ぐらに顔を寄せ、小さな舌を伸ばすと、太い肉棒へと触れた。
灼熱の肉の感触はベリアルのモノと同じだが、ルシファーのモノと考えると普段ベリアルに奉仕するときとはまた違う気持ちが湧き上がる。
気持ちよくなってほしいという思いは一緒だが、ベリアルにするときはその後に待っている挿入行為への期待と準備が含まれていた。けれどルシファーに対してはただひたらすらに奉仕し、少しでも快楽を感じてほしいと願う。
「ちゅ、んふふ……そうそう。オレにするときを思い出しながら舌を絡めて……」
「んッ、はっ、はっ……」
むわりとした熱気にジータの思考回路も蕩けていく。非日常的な行為は背徳感へと繋がり、彼女の背筋に甘美な悦が走った。
普段の性行為とは違うベリアルのエロティックな表情はジータのコアの鼓動を速め、興奮を煽る。ちらりと上目遣いでルシファーを見れば、冬を連想させる瞳と重なり、子宮がキュン♡ と脈打つ。
まるで視姦されているよう。一度彼の視線を意識してしまうと、もう頭の中はそれでいっぱい。自分がどれだけ恥ずかしいことをしていて、それを見られているか。考えるだけで体が熱くなって変な気分になってしまう。
「ファーさん今にも射精そうじゃない? やっぱりジータだと違うんだねえ」
亀頭にキスをしたり、一人がカリ首を舌先でチロチロと舐め、残りの一人は裏筋を刺激したりとベリアルと一緒に口淫に励んでいると、ルシファーの熱源がビクビクと射精を訴えてきた。
ベリアルの熱のこもった吐息混じりの言葉にジータもはにかみ、喜ぶ。
「そ、そうなの……? とりあえず私たちで気持ちよくなってくれるのは嬉しいかも……」
ルシファーは感情を表情に出さないので、あんまり気持ちよくない……? という不安もあったが、性知識に知悉しているベリアルが言うのだから間違いないだろう。
ふにゃりと笑うジータの姿は幼さが残るものの、薄い膜の張ったブラウンの瞳に紅潮した頬、汗ばんだ肌は平時のときとはかけ離れていて、色っぽさを感じる。
ルシファーもジータの姿を見てなにか思うところがあったのか、片手を伸ばしてその金色の髪を何回か撫でた。
まさかの行動にジータは固まってしまう。こうして甘やかされることはまずないので、一体どういう心境の変化なのだろうと視線を主から外せない。
ベリアルよりも長くルシファーのそばにいるジータは彼の考えていることが分かる方だが、これに関しては顔や様子からはなにも読み取れず。
「やっぱりファーさんはジータには甘々だねぇ。ほら、ジータ。咥えてあげて」
「ン゛っ……んぅぅ……!」
いつの間にかジータの背後に回ったベリアルに頭部を押され、口の中がルシファーでいっぱいになる。
苦しい。でも嬉しい。すっかりと出来上がった雌顔で見上げた先にいる彼はやはり無表情。けれどその冷たい目の奥に揺らめく微かな熱を感じ、ジータは主を射精へと導くためにベリアルにするときを思い出しながら奉仕作業に集中する。
ベリアルならばどうすれば相手を気持ちよくできるかのテクニックがあるが、自分にはない。ならば精一杯心を込めようというジータの気持ちは、そのまま口淫へと反映される。
「そうそう、その調子。唾液をたぁっぷり絡めて、先っぽやスジを愛撫して……」
「ん、ふンっ……! ン、んっ……!」
背中側にいるベリアルがジータの弱点の一つである耳に熱っぽく囁きながら、大きな両手で乳房を下から包むように触れてきた。
すっかりと勃起し、布を押し上げる桃色乳首を親指と人差し指でこねくり回してくるものだから、ジータはたまったものではない。
口の中も性感帯になったかのように気持ちがよく、じわりじわりと快感電流がジータを蝕んでいく。
陰部に触れられているわけではないのにイキそうになっている自分を見つけ、どれだけ淫乱な獣なんだと羞恥心も生まれるが、それ以上に今はルシファーを気持ちよくさせたいという思いが強い。
(あっ──)
それは突然だった。ルシファーの手がジータの頭部に触れ、逃げないようにだろうか。軽く力を入れられたのと同時に口内に弾ける独特の味。
口でのご奉仕の果てにルシファーが達してくれたのが嬉しくて、ジータの目尻が下がる。
喉奥に向かって吐き出される白濁を目を閉じて味わいながら胃へと収め、射精がやむと一旦は性器を口から解放したジータだが、若干柔らかくなった陰茎に手を添えると根本から舐め上げ、いわゆるお掃除の開始。
誰もしろなどと言っていないのに、自発的なその行為は彼女のルシファーに対する献身の度合いが伺える。
「こっち向いてジータ」
「んぁ……ん、ちゅ……ふぁ……」
それも終わる頃、頬に手を回されたジータは強制的にベリアルの方を向かされ、ルシファーの残滓を得ようと彼の舌が口の中を縦横無尽に暴れ回る。フェラチオをしたばかりで敏感になっている口内を舐め回され、ジータはうっとりとしながら身を委ねていた。
うずうずと疼く女の子の場所は愛液で湿っており、下着はすでに機能していない。
お父さまの前で……。こんな時間から駄目なのに……。
様々な葛藤が生まれるものの、全て浮かんでは消えていく。
今のジータは、一匹の雌だった。
「はぁ……はぁ……」
「ン……フフ。ごちそうさま」
貪るという言葉がよく似合うキスが終わると、ジータは力をなくしたようにベリアルのいる方へと背中から倒れ込む。
それを受け止めたベリアルはいやらしく光る己の唇を舌でなぞると、深く抱きしめ、感謝の気持ちを示すように頬にキスを送るも、ジータの反応はない。
「わ〜お。ファーさんのを咥えただけでビショビショだ。オレにするときだってこんなにはならないのに。ほら、見てよファーさん」
「あッ、や、ダメっ……! やめ、お父さま見ないでっ……!」
ルシファーからよく見えるよう、ジータを抱えたベリアルは彼女の両脚を大きく開いた。さらには軽く開いた自分の脚に引っ掛け、彼女の意思で閉じれないようにも。
ジータを抱きしめるように両腕を前へと回し、その手は主に向かって御開帳している秘部へと伸びる。
シンプルな桃色のショーツは一部が濃い色に変わっており、布の上から軽く触れただけで粘性の感触。
ベリアルは片手で下着をずらし、サーモンピンクの秘肉を露わにするとわざとらしく音を立てながら人差し指と中指でちゅくちゅくと濡肉を撫で、たっぷりと絡みついた蜜をルシファーに見せつけるように掲げると、ピースした指を開いたり閉じたり。
透明なつゆはベリアルの指の動きに合わせて糸を引き、一部は指先から流れ、彼の身につけているグローブを濡らしていく。
子供が親に宝物を見せるように無邪気な表情をしているベリアルと、公開プレイの恥ずかしさで目元を濡らすジータをルシファーはじっ、と見つめるばかり。
「ところでさぁファーさん。ジータを目の前で犯されてなにも思わないのかい?」
ルシファーはそういった感情を全くと言っていいほどに表に出さないが、ジータを特別視しているのは確か。それは彼女自身が特別な獣だからという理由もあるが、決してそれだけではない。
「……例えば──飼い猫たちが交尾をしていて、お前はいちいち嫉妬するのか?」
嘆息しながらの答えにベリアルは一層笑みを深めると、ジータに囁く。
「だってさ。じゃあこのままオレたちの交尾をファーさんに見てもらおうか。公開寝取りプレイ……ハハッ、興奮する……!」
「そ、そんなの駄目……! お願いだからやめてベリアル……!」
「そうは言ってもキミのココは寂しそうにヨダレを垂らしてるぜ?」
「あっ、あっ、ぁぁ……! やだっ、そこっ……!」
先ほどルシファーに見せつけていた指たちをベリアルは愛蜜で濡れた中心へと沈めた。潤みの壺は抵抗なく男の指を飲み込み、ざらりとした場所をこすられれば感じる悦にジータはかぶりを振りながら悶える。
ベリアルと二人きりならまだしも、目の前にはルシファー。自分にとって一番大切な人の前で犯されそうになってこのまま消えてしまいたいくらいなのに、体はどんどん体温を上昇させ、甘いオンナの声も出てしまう。
乱れに乱れ、喘ぐジータを見て、ルシファーは真一文字に引かれたその唇の端を軽く持ち上げた。
「ついこの間まで生娘だったお前が、随分と淫乱な雌になったものだな」
「……ッ! っ、つ!?」
「え? もしかして今ので達したのかい?」
三日月に細められた青い目からは蔑みと嘲笑が感じられ、酷い言葉を言われているというのに彼女に走ったのは脳天まで突き抜ける電撃。
脳髄がビリビリと痺れ、それは全身へと広がる。ルシファーの冷たい言葉に内部が締まり、ベリアルも指の締め付けから彼女が達したのを知った。
彼もルシファーのたった一言でジータが絶頂を迎えるとは思っていなかったようで、目を丸くして驚いている。
それはジータ本人も同じ。ルシファーの言葉だけで達したのが信じられなくて、どう反応すればいいのか分からなくて、なにもできないでいる。
一気に静まる場。その沈黙を破ったのは部屋に響き渡るノック音だった。
「失礼します。所長、実験体の反応に大きな波が。一度ご確認をお願いします」
「んっ……!」
ジータの膣に突き入れられたままの指が内部をかき混ぜ、一度達したことですっかりと意識が別のところに向いていたジータは思わず声を出してしまう。
慌てて口を両手で抑え、ベリアルを睨めば、舌をぺろりと出し、茶目っ気たっぷりにウィンクしてくるのだからタチが悪い。
己の魅力を最大限に使い、ジータの怒りを有耶無耶にしようとしており、また、彼の狙い通りジータの心はぐらつく。自分でも呆れてしまうほどベリアルに弱い。
「……? 所長、今なにか……?」
「……お前の気のせいだろう。それより行くぞ」
「は、はい……」
ルシファーなりに気を利かせたのだろうか。なにも知らぬ研究員とともに退室し、静まり返る執務室には二匹の獣だけになった。
ジータは口を押さえる手を外し、大きく息を吐くと、陰部に触れているベリアルの手を掴み、ぐぐぐ……! と離す。
どうも力が上手く入らない体ながらも、四つん這いになって机の下から這い出たところで立ち上がれば、ベリアルも続いて出てきた。
甘えるように背後から抱きしめられ、再びジータの心は揺れるが、ここで甘やかしては駄目だと表情筋に力を入れ、胸元へ回る腕を引き剥がすと向き合う。
キッ、と柳眉を逆立てて怒った表情をするも、ベリアルに対して効果はイマイチだ。
「ベリアル。私は怒ってるんだからね」
「ウフフ……ごめんよ。けどキミも満更でもなさそうだったけどねぇ」
妖しく笑い、ジータの愛液が絡んだ指を自分自身の口元に近づけると真っ赤な舌で舐め取り、性欲を煽ってくる。
どこまでも性を絡め、狡知ではなく色欲の獣なのではと思ってしまうくらいだ。
「もうこんなことしないって、約束できる?」
ポケットからハンカチを取り出すとベリアルの手を取り、濡れた指を拭きながらの言葉は諭すような口調。
怒っているといってもやはりベリアルに対して甘い部分があるのと、本気で怒るレベルではないのか、強くは出れない様子。
「こんなことって? ファーさんの前で公開プレイ? 星の民がいる場での我慢プレイ?」
ベリアルも大人しくはしているが、体だけ。口は平常運転。
「もう! どっちも!」
「まぁ後者はともかく、前者に関しては説得力がないな。ファーさんの一言で昇天とか……さすがのオレも驚いたよ」
「ぁ、あれはその……私もびっくりしてるというか……。はぁぁ……恥ずかしい……。どんな顔してお父さまと会えばいいの……」
拭き終わり、ベリアルの手を解放するとその手はそのまま自分の顔へ。いま思い出しただけでも体が羞恥心でおかしくなってしまいそうだ。
ここが野外で誰もいなかったら、今頃は恥ずかしさに悶え転がり、叫び声を上げているところだ。
ジータ自身、言葉──しかも一言だけであんなふうになったことはなかった。ベリアルに言葉責めされたことは多々あるが、脳がぞわぞわとし、性的快感を得るだけで絶頂することはなかった。それなのにルシファー相手には……。
「さて。オレもそろそろ仕事に戻るとするよ。有意義な時間をアリガトウ。また一緒にファーさんにご奉仕しよう」
「奉仕だけならいいけど……あんな恥ずかしいことはもうやめてよね」
(ご奉仕はいいのか……)
恥ずかしい恥ずかしいと言っていたのに主に対する奉仕は嫌だと言わない辺り、ジータらしいとベリアルは思う。
やはり彼女はルシファーの獣。どこまでも主に尽くし、主を求める獣なのだと再確認したベリアルはどこか満足げな笑みを浮かべると、部屋をあとにするのだった。
終